道化の舞台 ― 本戦への序曲
やられた...まさか俺がザミエルに使った手をそのまま使われるとは。
焦る心を静め、冷静に今の状況を分析する。
これで人数差はなくなった。分身がある分、相手の方が有利ともいえるだろう。
だが、分身への対策もある!
「ヴァレリス!」
「分かったわ!」
ペイルとアレクセイ、2人の攻撃を分身によるフェイントを躱しつつ受けながら、俺はヴァレリスに指示を出す。
彼女の大剣から炎の龍が出現する。
そして、周囲にいるアレクセイをまとめて消し去る。
あの時見せた炎の龍よりはだいぶ規模が小さいが...
その一端でも扱えるようになったというのは、彼女にとってとても大きな成長だろう。
「ヴァレリスはそのままオスカーの相手をしていてくれ!」
「これは予想外の演出!お客様は熱い舞台がお好きなご様子!では、少々演出を変更して、このまま舞台を続けさせていただきましょう!」
…!ペイルがいない。どこだ...!?
クソッ...アレクセイのせいで確認する暇がない。
「ご、ごめんなさい...!悪く思わないでくださいね!」
いつの間にか後ろに回っていたペイルが俺を刈り取らんとする。
まずい...このままでは...!
その時、ペイルが横へ飛んで行った。後ろを振り返ると、とてもアツい男が一人。
「リオール!キミはこんなところでやられる男じゃないはずだ!」
「オーウェン!助かった!」
ギリギリのところでオーウェンが駆け付けてくれたようだ。
そして、ペイルは今、まともに攻撃を受けた。つまりは....
「このままペイルを攻める!手伝ってくれ!」
チャンスということだ。
「おっとお客様、止まってください!」
すかさずオスカーがナイフを投げるが...ヴァレリスが対応する。
「そうすると思ったわよ!」
彼女は炎の花弁を飛ばし、ナイフを撃ち落とす。
オスカーはすかさずナイフを空中でキャッチするが、その頃にはもう...
「あっ...」
「烈…華!」
「喰らえ!ペイル!」
俺とオーウェンの攻撃によって、ペイルは意識を失うのだった。
「ワタクシたちの演出家が居なくなってしまいました!ここからはワタクシたちだけでこの舞台を演じましょう!場も温まってきたところで、第2幕、開幕です!」
そうして、アレクセイがさらにカードを宙へ投げる。
そこから...オスカーとアレクセイ、両方の分身が登場する。
ただでさえ厄介だったのに、オスカーまで本物がつかめないとなると...
「そんなこともできたのかよ...お前が演出家になった方がいいんじゃないか!?」
「ワタクシは舞台を盛り上げる道化!決められた脚本に沿って演じるだけですよ!」
「楽しくなってきましたねぇ、これこそ舞台の醍醐味ですよ!」
残された二人が返事をする。
ペイルは倒れた。これで裂け目は生み出されない。
…オスカーがだんだんアレクセイ側に寄って行っている気がする。
面白がっているだけだと信じたい。
それはそうと、アレクセイが他者の分身も生み出せるとなると...とても厄介だな。
分身には実体はない。だが、気配や足音、匂いまでをも完璧に再現している。
だから...
「アレクセイ!そう簡単には行かせてたまるか!」
「お客様、後ろですよ。」
「なにッ!」
後ろからオスカーに声をかけられたオーウェンがすかさず後ろへ攻撃するが、その体は霧散した。
「ぐっ...!」
そこを見逃すまいと、オスカーとアレクセイが猛攻を仕掛ける。分身と入れ替わりつつ、完璧な連携によるトリッキーな連携が繰り広げられる。
「アンタたち、私にも構いなさいよッ!」
ヴァレリスがオーウェンのカバーへと入る。
このまま2人で攻撃を仕掛けられていてはまずい。分断しなければ。
そして俺はオスカーへと突撃する。
「おっと、お客様!僕を捉えようったってそうはいきませんよ?」
ナイフを投げ撤退するオスカー。分断はできたので上々だ。
「よし…本番はここからだ!」
俺は気合を入れ直す。オスカーの動きはまだ軽やかで、分身を使ったフェイントを繰り返してくる。
「本物はどれだ…!」
俺は冷静に呼吸の揺れや目線の変化を探る。
斬撃、ジャンプ、回避、ナイフ受け…オスカーも全力で挑んでくる。
彼の分身は左右に飛び回り、正確に攻撃の軌道を真似る。
だが、攻撃のタイミングにわずかな遅れやリズムの違いが生じる。そこを見逃さない。
「ここだ!」
斬り込むと、オスカーは一瞬驚きの表情を浮かべ、体勢を崩す。
しかし、次の瞬間には分身と入れ替わり、攻撃は空を切る。
「おっと、そう簡単にはいきませんよ?」
オスカーが挑発しつつ、ナイフを投げてさらに距離を取る。
俺も引かず、空中での動きを混ぜて距離を詰める。
ナイフを弾き、剣で斬り込み、フェイントを交わし…攻防は数秒単位で入れ替わる。
「くそ…!速すぎる…!」
オスカーの笑みは崩れない。
だが俺には仲間たちがいる!
「ヴァレリス、分身を狙ってくれ!」
「任せて!」
ヴァレリスの炎の花弁が複数の分身を焼き払う。
本物だけが残り、次の攻撃を仕掛ける隙が生まれる。
一閃。彼の胴体に命中する。
「第2幕...僕の退場を持って...閉幕です...。」
そして、オスカーを落としきる。
残るはアレクセイのみ。1対3。これなら...!
「これで演者もワタクシで最後です!フィナーレと行きましょう!」
全てのトランプを宙へと投げると、今までにない大量の分身が出現する。
最後に打ち上げる花火のようなそれだが、こちらにはヴァレリスがまだ残っている!
分身を消し、アレクセイへと迫る。
アレクセイの分身が周囲を埋め尽くす。
足音も、声も、匂いすらも本物と区別がつかない。炎で焼き払った分身が散っても、次から次へと湧き出てくる。
「ワタクシという役者はひとりしかいませんが……舞台を彩る影は何人いてもよいでしょう?」
新たに出したカードを宙に放り投げるたび、新たなアレクセイが現れる。
その中心に“本物”はいるはずなのに、気配すら完璧に溶け込んでいる。
「チッ……!ヴァレリス、まだいけるか!」
「もちろんよ!こんなの、全部まとめて焼き払ってやる!」
ヴァレリスの炎が奔流となり、分身を一掃する。だがすぐに、また次の“役者”が舞台に現れる。
「これ以上時間をかければ、こっちの体力が削られる……!」
俺は焦りを押し殺し、剣を構えなおす。
そのとき、横からオーウェンの叫び声が響いた。
「リオール!どれが本物かなんて気にするな!まとめて叩けばどれかに当たる!」
確かにそうだ。アレクセイの分身は気配も匂いも再現している。だが、それは『本物と同じ』に過ぎない。逆に言えば、本物はただ一人しかいない。
「……なら、力で押し切る!」
俺とオーウェンは同時に前へ。分身の群れを切り裂き、拳と剣を叩き込む。
アレクセイはひらりと舞台役者のように後退し、身を翻してはカードを散らす。
「お見事!けれど……お客様の求める結末はまだ先です!」
残像が幾重にも重なり、炎の向こうで笑うアレクセイ。
――そこに、ヴァレリスの咆哮が重なる。
「ここで幕を閉じるのよ、アレクセイ!」
炎龍が再び顕現し、舞台そのものを呑み込むように突進した。
分身たちが次々と焼き払われる中、ただひとつ、影が遅れて動いた。
「そこだッ!」
俺が踏み込み、オーウェンが拳を叩き込む。
剣と拳が交差し、アレクセイに直撃する。
「…今回の公演は如何でしたか...?これこそ、最高の舞台……!」
炎に照らされ、彼は満足げに笑う。そのまま膝を折り、舞台から退場するように崩れ落ちた。
戦場に似た激しさのあと、静寂が戻る。
俺たちは互いに視線を交わし、荒い息を整えた。
「…壮大すぎでしょ、これが特訓って...。」
ヴァレリスが炎を収め、大剣を肩に担ぐ。
「いい特訓になったからいいじゃないか!なあ皆!」
オーウェンはいつも通りとてもアツい。
イゾルデはまだ倒れて眠っていたが、その顔はどこか誇らしげにも見えた。
「……ほんと、すごい特訓だったな...。」
――こうして、特殊チームとの特訓1日目にして壮大な『舞台』は幕を閉じた。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
大きな稽古の幕が下りました。続きが気になると思っていただけたのならぽちっと評価をお願いします。




