道化の舞台
3ヶ月目。特殊チームとの特訓の月がやって来た。
それと...俺たちが特訓できる最後の月でもある。
到着すると、待機していた特殊チームに話しかける。
「よろしく。もう2ヶ月も一緒にいるから名前は知ってると思うが...リオールだ。」
3人に挨拶をすると、その中の一人、アレクセイが挨拶をしてくる。
「アレクセイ、ただの道化にございます。笑うも泣くも、すべてはお客様しだい──さぁさぁ、ご贔屓に!」
帽子も持っていないのに胸に手を当て、深々と大きなお辞儀をしながら、そう言う彼。
彼の性格はよくわからない。というのも、常に芝居がかっていて、本心が読めないのだ。
「アレクセイ君、見てください『お客様』のあの顔!すごく驚いていますよ?」
「あ、あの!アレクセイ君が驚かせてしまって、すす、すみません!」
そう言うのはオスカーとペイル。
気が弱いペイル君がこの中で生きていくのは大変だっただろう...そう哀れみの目を向ける。
「...?ど、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない...とりあえず、今回の訓練について話そう。」
「ワタクシはお客様の要望に合わせるだけ!道化として、お客様の要望に答えなければなりません!」
「自分は3対4でもいいので団体戦をしたいですねぇ。最後の追い込み、大事にしたいと思いません?」
「ぼ、ぼくもそう思い...ます。」
どうやら相手さん方は心を決めたようだ。
「どうする皆?特殊チームはああいってるけど。」
「いいと思うわ!団体戦の練習もどんどんしていかないとね!」
「私もそう思います!どんどんやっていきましょう!」
「うおお!燃えるぜ!俺らの実力がどれほど通じるのか見せてやる!」
全会一致だ。
というわけで、特殊チームの皆との3対4での団体戦が決定したのだった。
というわけで、俺たちは各々ヴェルディアを構える。
「ワタクシは舞台を彩る演者!是非とも楽しい舞台にしましょう!」
トランプをパラパラとシャッフルしながらアレクセイがこちらへ声をかけてくる。
アレクセイのヴェルディアはトランプ。1度見ていなければ信じられないが、アレは間違いなく彼のヴェルディアだ。
「僕の能力は戦闘にはあまり向いていないんですけどねぇ...ま、こうなった以上全力で行かせていただきますよ?」
オスカーはナイフ。一見普通のナイフに見えるヴェルディアだが、かなり厄介な能力を持っている。
「あ、あの!ぼくはそこまで強くないですけど...がんばります!」
ペイル君はまるで死神を思わせるような大鎌。2mはあるだろう。あの体格と性格からは考えられないような巨大な武器だ。
開始の合図をする。
始まったと同時に、アレクセイが手に持っていたトランプの半分を上へと投げる。
「幕が上がりましたよ、お客様方。本日の演目、題して『四花と三道化の試し斬り』!」
ひらひらとトランプが舞っていたかと思うと...アレクセイが『増えた』。
四方八方、どこにでもアレクセイの姿が見える。これこそがアレクセイの能力。
トランプを媒介にし分身を生み出す。分身には実体がないので、攻撃を当てれば判別が可能だ。
だが、それでも厄介な能力には変わりない。人数有利がかき消されるほど、意識を分身にも持っていかれる。
そんなことをしていると...
「おっと、僕のことを忘れてはいないですよね?」
「オーウェン、注意しろ!」
目の前にいるオスカーが自身のヴェルディアであるナイフを投げる。避ける間でもないその一撃。しかし目を離さない。何故なら...
「そんなに僕に集中されるとやりずらいですねぇ。僕ってそんなに目立ってます?」
「オスカー!やっぱり厄介だな!その力は!」
そうしてナイフの位置にオスカーが現れる。
攻撃を仕掛けてくるが、今回は見ていたので防ぐことが可能だ。
オスカーのヴェルディアは投げた位置にオスカーを転移させることが出来る。
それを利用した奇襲が厄介だが、ヴェルディアを注視していると転移せずに攻撃を行ってくるので厄介である。
そして...
「ちょっと気が引けるけど、倒させてもらうよ!」
「ひっ...や、やめてください...!」
そうしてペイルがその大鎌で目の前の空間を『切り裂く』。
禍々しく切り取られたその先の空間に、明らかに今目の前にあるのは不自然な景色が見える。
そして、勢いを保ったまま、その裂け目に入ったイゾルデは...
「うわっ!?」
俺らの後ろにあったもう一つの裂け目から吐き出されるようにして出てきた。
彼の能力、それは裂け目を作り、その間を自由に移動できる。汎用性が高い分、裂け目は人から見え、作るのにも時間がかかる。
アレクセイ、オスカー、ペイル...能力的にも、落とすべきなのは...
「皆!ペイルを落としにかかる!事前に話していたことは覚えているな!?」
ペイルだ。裂け目は誰でも通ることが出来る。つまり、アレクセイやオスカーなどが自由に通ることが出来るのだ。
しかも、3つ以上設置されると、どこから出てくるのかが予測不能になってしまう。
「「「了解(だ!リオール!)」」」
ペイルが裂け目を開いた場所を確認する。
1つは大量のアレクセイの奥。2つ目は俺たちの後ろだ。これならまだ間に合う。
まずは...俺がペイルに裂け目を開く隙を与えない!
他の皆にオスカーとアレクセイの対処を任せ、俺はペイルの元へと一直線で駆け抜ける。
「ひっ...や、やめてください!」
ペイルへと近づき、剣を振るう。しかし彼の戦闘能力は高い。
何度も打ち込むが、彼の大鎌で全てを防がれてしまう。
「おっと、そこは舞台裏ですよ! 近づかないでください!」
「お客様...うちの演出家に近づくためには、まずは僕たちにアポイントメントを取ってもらわなければ...困りますねぇ!」
飛んでくるカードとナイフ。カードは的確に俺を狙い、ナイフにはオスカーが転移してくる。
しかしそれは予想していた。俺がペイルに向かったのには、裂け目を開く隙を与えない他にも、もう1つの理由がある。
「リオール君!言われた通りやったよ!」
イゾルデが声をかけてくる。成功したようだ。
「あっ...ぼ、ぼくの...。」
そう。俺との戦いでも見せた壁...アレを使って、ペイルの裂け目を囲んだのだ。
いくら転移できたとしても、その先が防がれていれば意味がない。
俺が本物のアレクセイを釣り出す...それこそが今回の特攻の真の意味だった。
懸念点はオスカーだったが...今は俺の方を向いている。普通に投げるにしてもイゾルデがいる場所は遠すぎる。これならイゾルデの方には行くことが出来ないだろう。
「お客様!ここからはワタクシ、アレクセイとそこにいるペイルのダブルキャストでお楽しみください!」
ダブルキャスト?何故...そう思っていると...
「お客様が使っていた技ですよ、悪く思わないでくださいね?」
そしてオスカーが空中にナイフを投げる...まさか!
オスカーはそのまま跳躍し、ナイフをイゾルデの方に向かって蹴る。そして、イゾルデの傍までナイフが迫った時...オスカーの姿が消えた。
「イゾルデ!そっちにオスカーが行った!気を付けろ!」
そう言い終わるよりも、
「うわっ!?」
「これにて第1幕、終了です。第2幕も、どうぞ目を離さずご覧くださいね?」
オスカーがイゾルデの意識を刈り取る方が早かった。