強き心と弱き家事
その後、オーウェンと同じように倒れた俺は、先生によってオーウェンとともに医務室へと運ばれて行った。荷物を運ぶように持たなくったっていいのに...
そして、目が覚めるとすでに夕方。授業どころかホームルームも終わっている時間だ。
ふと隣を見ると、すでにオーウェンは起きていて、スクワットを始めていた。
あそこまで攻撃を喰らって、すごい根性だ...眺めていると、俺が起きたことに気が付いたのか、こちらへと近づいてきて、俺の手を取り千切れるくらいの勢いで上下に振り始めた。
「強かったな!リオール!今日から俺とキミは親友だ!」
…親友に格上げされた。だが、俺の中にも彼を友と思う心が芽生え始めていたのも事実だ。
最後まで諦めない心、アツいその姿勢...どれもが俺の心を強く刺激した。
「…ああ、そうだな。お前も強かったぞ!オーウェン!」
「...ッ!リオール!」
2人で抱き合っていると、声をかけられた。
「おやリオール君、起きたのかい?」
声のした方を見ると、マッドなサイエンティストっぽい女性が。誰だろう?こんな知り合い居たっけ?まだ記憶が混乱しているのか?
「そういえばキミは医務室は初めてだったな!この人はエレオノーラ・ヴァルテス先生。うちの医務室担当の先生だ。」
キミ『は』?もしかしてオーウェン、来たことあるの?
そう思いつつ、俺は先生にお礼を言う。
「ボクのことはエレノアでいい。あぁ、君たちのケガは完治させておいたよ。」
「ありがとうございました。ところで、俺はいつ帰れそうですか?」
ヴァレリスを一人にしておくと家事がままならない。きっと帰りを待っていることだろう。
「ボクは研究に忙しいんだ。さっさと帰ってもらえるかい?」
「あ、ハイ、わかりました。」
まるで虫を追い払うかのような身振りで追い出そうとしてくる。
なんという冷たい態度なんだ...周囲の空気が液体化するんじゃないか?
そう考えていると、彼女は思い出したような顔をして、俺に伝える。
「そうそう...君のヴェルディア、それについて話があるから明日の朝真っ先に来てもらえるかい?」
…どっちだろう。どちらにせよ俺には大切なことだ。明日はいつもより早く起きる必要があるな。
「わかりました。それでは失礼しました。」
「先生!ありがとうございましたァ!」
オーウェンとともに帰る。途中で別れてしまったため、夕日に向かって全力ダッシュ...みたいなイベントは起こらなかった。
今日の戦いを振り返る。
まずはタル坊。弱かった。次。
ヴァレリス。パワーとスピードを両立可能なヴェルディアの能力は厄介だったが、オーバーヒートという弱点を見抜き勝利した。
最後に『ヒガンバナ』を使用させられたのは悔しかった。
カミヤ先生。あの人はバケモノだ。身体能力の暴力と、冷静に判断する知力。両方が兼ね備えられていて、なおかつヴェルディアを使用していない。
ヴェルディアが不明な以上、先生については何もわからないが...わからないからこそ恐ろしい。分かっていても恐ろしいが。
最後にオーウェン。彼は...俺やヴァレリスよりは弱い。しかし持ち前の根性と打たれ強さで、それを補っていた。
最後には防御を貫通するほどの拳も見せてくれた。
彼の成長は未知数だ。だが彼が成長しようとも...俺がその先を行ってやる。
物思いにふけっていると、もう家の前までついていた。ヴァレリスは大丈夫だったかな...そう思いながら扉を開けると...
「あ...リオール...おかえり?」
たったの数時間で物凄い散らかりようを見せている家で、ヴァレリスが出迎えてくれるのだった。
…うわぁ、何をどうしたらこうなるんだ?1ヶ月程放置されていたといっても違和感がないぞ。
「し、城では、いつも従者が身の回りのことをやってくれてたから...」
何か悪いことをした時の犬のような表情で言い訳をするヴァレリス。
ここまで落ち込んでいるのは初めて見た。俺に負けたときより落ち込んでいるんじゃないか?
「とりあえず、今日は片付けだな。ゴミを片付けたら雑巾がけをするぞ。」
「はぁい...」
これは家事を徹底的にたたき込む必要がありそうだ。ここに住む以上は自分のことは自分でしてもらわなければならない。
王女?知ったことか。城に帰った後でもきっと役に立つだろう...知らないけど。
そんなこんなで俺たちは掃除を続け、気が付いたら夜になっていた。
「今日はありがとね!おやすみ!」
「あぁ、おやすみ。」
「それと、また今度戦わせなさいよね!今日は戦えなくて残念だったんだから!」
元気も戻ったようだ。こっちの方がヴァレリスらしい。
安心しながら、俺は眠りにつくのだった。