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王国立カレイドフローラ学園

「お前が負けたら俺の奴隷。俺が負けたら……お前の言うことを何でも聞いてやる」


勝てば祝福、負ければ地獄。しかも相手は圧倒的に強い。入学一時間目から、こんな理不尽を押し付けてくるやつがいるとは思わなかった。


――三時間前。


「ここが、俺の通う学校か。」


馬車に揺られていると、目的地が見えてきた。目の前に広がるのは、アウリオン王国に存在するカレイドフローラ学園の建物……いや、建物というより街だった。俺――リオールは、今日からここで学ぶことになる。


……大きい。想像以上だ。街そのものが学園になっている。中には生徒の住む寮や、生徒が運営する商店まである。


「兄ちゃん、あそこの生徒さんか! 頑張ってな!」


御者の男が声をかけてくる。道中、ずっと話をしてくれた陽気な人だった。


「ありがとうございます。また会えたら学校での話をさせてください!」


馬車を見送りながらお礼を言う。歩きながら、入試のときのことを思い出した。最も印象に残っているのは、面接官の言葉だ。


「君の花は前例が少ない。希少性は認めるが、扱いはまだ粗い。ここで花だけではない、心と体、そして覚悟を見せてほしい。」


その言葉を思い返しながら、自分の手の甲にある『蕾』の紋様を見る。そして意志を込めると、そこから木刀が現れる。


「……学校で舐められたりしなければいいんだが...。」


この国――いや世界では、生まれたときから手の甲に『芽』の紋様が浮かぶ。成長して『蕾』となったとき、自分だけの武器――ヴェルディアを召喚できる。

武器の種類はさまざまだ。炎を放つ剣、治癒をもたらす杖。能力も姿も異なり、同じものは二つと存在しない。


だが俺のヴェルディアは、ただの木刀。見た目だけで弱いと判断されるのは避けられないだろう。


「……まあ、同じ学生なら仲良くやっていけるはずだ。」


そんなことを考えていると、学園の門に着いた。衛兵に学生証を見せ、敷地に入る。


「まずは第1校舎に行って、クラス分けをするんだったな。」


場所が分からず、衛兵に再び道を聞く。

「そこの家を左に曲がって四つ目を右、まっすぐだ。新入生か。頑張れよ。」

衛兵も親切だった。渡る世間は鬼ばかりというが、そうでもないらしい。


指示どおりに歩き、第1校舎に到着する。すでに多くの新入生が集まっていた。これから共に学ぶ者たちだ。意識して一人ひとりの顔を見た。


やがて先生らしき人物が現れる。

「これから、この人形に攻撃してもらいます。各自のヴェルディアを使い、好きな方法で構いません。」


号令と同時に、生徒たちが一斉に武器を召喚する。大剣、槍、鎖鎌……中には死神を思わせる大鎌まである。眩い光景だった。


俺も木刀を構える。そのとき、周囲から声が漏れた。

「アイツのヴェルディア、ただの木刀か?」

「まさか、あれが本物……?」


聞きたくなくても耳に入る。だが、これが俺のヴェルディアだ。


「始め!」


試験官の声で一斉に攻撃が始まる。炎や氷が飛び交い、轟音が響く。人形を打ち据える剣は浮かび、地面を割る槌が唸る。圧倒される光景だった。


俺も一歩踏み込み、木刀を叩きつける。だが響くのは乾いた音だけ。威力はあまりにも薄い。横にいた試験官の冷ややかな視線が突き刺さった。


「止め!」


合図で動きが止まる。静けさが戻ったが、代わりに囁きが耳を打つ。

「アイツ……木刀だけかよ。」

「本当にあれがヴェルディア?」

「よく入学できたな...。」


耳が痛い。言葉の刃は、刃のない木刀より鋭かった。


「これよりクラス分けを発表する。札を受け取り、自分の所属を確認するように」


札がひらひらと舞い、手に落ちた。記されていたのは『芽』。最下層。周囲がざわめく。

「『芽』って、落ちこぼれじゃないか。」

「武器が木刀なら当然だ。」


札を握り、会場を出た。だが廊下の先に影が立ちはだかる。金髪の少年。小太りの体つきに、いやに自信を張りつけている。


「おい、お前。『芽』に落ちた新入生だな?」

声は乱暴で、眼は挑発に満ちている。

「勝負だ。」


無視しようとしたが、彼は続けた。

「俺の親はユンタル子爵だぞ。お前をみじめにすることなど簡単だぞ?」


逃げられない。そう悟った。

「分かった。条件は?」

「お前が負けたら俺の奴隷。俺が負けたら……お前の言うことを何でも聞いてやる」


笑みを浮かべ、彼は待っている。


「……いいだろう。ただし、準備の時間をくれ。」

「ふん。二時間後、ここでだ。逃げるなよ?」

「必ず戻る。そのときに勝負を受ける...それでいいか?」


彼は満足そうに笑い、去っていった。残された空気はざらつき、胸に重さを残す。


俺は教員棟へ向かった。勝つためには、まず決闘の規則を知る必要がある。手の甲の蕾に触れる。木刀は静かに沈黙している。

――見た目ではなく、使い方で決まる。そう自分に言い聞かせた。


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