壱:そうして私は彼らとまみえた(2)
朝食の前に、軽く掃き掃除をしておこうと、竹ぼうきを持って参道を歩いていた。
例祭でも初詣でもないこの神社に、参拝客が来ることはまずない。
けれど、それでも、祖父が、父が、兄がそうしてきたように、私もまた掃除を続けていた。
竹ぼうきを手に、拝殿まで来たとき——
そこにあるはずの社が、跡形もなく消えていた。
昨日までは確かに存在していた。
誰かの悪戯だろうか?
だが、これほど手の込んだことをして、何の得がある?
しかも、拝殿も本殿も、まるごと消えてしまっている。得体の知れない感覚に襲われた私は、もう一度、辺りを見渡した。
——やはり、何もない。
それにしても静かだ。
その静けさが、逆に不気味だった。
私は竹ぼうきを手にしたまま、呆然と立ち尽くしていた。
「理由が知りたいですか」
突然、背後から声がした。
ぎょっとしつつ、両手で竹ぼうきを握り、振り向く。
ほんの3歩程度の背後に黒いスーツに、サングラスをかけた男性が二名、立っていた。
…いつの間に?
人の気配などなかった。
社が消えたことに気を取られていたとはいえ、これほど近くにいれば気づかぬはずがない。
私は警戒しつつ、無意識に一歩後ずさる。
彼らはそれを見て、両手を軽く挙げた。
「武器は持っていない」「敵意はない」という、無言の意思表示だろう。
それでも、私は警戒を解けなかった。
「…どなた、ですか」
かすれた声でやっと言えた一言だった。
「我々は、2205年の“時の政府”の者です」
私は眉をひそめ、不信感を隠せずに彼らを睨んだ。
2205年?
今より150年近くも先の年代じゃないの。
トキのセイフ?
何の冗談?
そんな私の反応も想定内だったのだろう。
彼らはうなずき、話を続けた。
「我々の時代では、“歴史編纂主義者”と呼ばれる者たちが現れ、歴史を改竄しようとしています。
それを阻止するため、我々は過去へと来たのです」
彼らが話しているのは日本語であることは間違いない。
だが。
意味が何一つわからない。
歴史編纂主義者?
歴史の改竄?
過去へ赴いてきている?
一体、本当に、……何の冗談だ……。