壱:そうして私は彼らとまみえた(1)
ここから本編となります。
その日も、いつも通りだった。
毎朝の日課である掃除をしに行くと。
そこにあるべきはずの、社が無くなっていた。
私は、自分の目が信じられず、辺りを見回す。
ひょっとして、局地的な突風が吹いて、社をなぎ倒したのか——そんな荒唐無稽なことさえ考えた。
そんなはずがない。
社が建っていた場所には、土台も、柱も、その痕跡もなく、ただ草の生えた土があるだけだ。
私は、この小さな小さな、本当に小さな村社 を小さな村社を代々守る家に生まれた。
それなりに神職としての知識と務めはあり、とはいえ本格的な神社ではなく、ただ家系がずっとこの社を管理してきただけのことだ。
必然的に神職の階位が必要となる。
だからと言って家が神社なのではない。
ただ、私の家系が、代々、この小さな村社を守り、管理してきただけの事なのだ。
鳥居をくぐり、数十歩の砂利道を進めば、小さな石段。
その先には、両脇に杉が並ぶ細くじめじめとした土の道が続く。
整備などされていないその道は、所々で杉の根が露出しており、少しずつ上り坂になっている。
木々の密度は濃く、陽の光を大幅に遮って、参道全体を薄暗くしていた。
そのため、必要以上にこの杉の生えた参道は長く感じられるのだ。
子どもの頃から慣れ親しんだ場所だが、この年になっても、この杉並木を通るのはどこか気が重い。
その先に、いくつかの石段と、流造の拝殿・本殿があった——はずだった。
社は、こんもりとした小さな丘の上に建てられていた。
いつもにもまして静かな朝だった。
鳥居をくぐり、参道を歩いていても、雀の声すらしない。
ああ、静かだ…。