陸:そうして私は現身のさせ方を教わった
「禍気を宿した刀剣を倒せば、それらは消えて無くなるのでしょうか」
私のその問いに、彼らは顔を曇らせた。
「それは……はっきりした事はわかっていませんが、消えるのではなく、散っていくのではないか、と思われています」
「散っていく…?」
「ええ、だから、時間をかけ、また集まり、固まるのではないかと」
それは…終わりが見えない戦いではないのだろうか。
「しかし、その倒した禍気の中から、こちらの側の刀剣を引き出す事もできるはずです」
「引き出す…?」
名だたる名刀を模した刀剣、いわゆるレプリカの刀剣に禍気が宿っていた場合、サニワの思いの強さから、そのレプリカに本当に刀剣の気が宿り、形を成して現れることがある、という。
しかし、その刀剣の力が大きければ大きいほど、形を成させるのは困難であるらしい。
ふむ…。
この御社のご神体は、たしかに剣だった。
刀身がちゃんとあるものなのかも怪しい。
普通に考えると、ご神体になるのは三種の神器の一つを模したものであろうけれども、どうにも、そのような形状ではなかったと思う。
形は短刀程度であったが、どこかの宝物館に収められているような、有名な刀剣の写しであろうはずもない。
銘もなく、製作者も分からず、誰が模したのかも定かでない。
そんな由来も不明な代物だった。
「名だたる刀剣でなければならない、というのは、あくまで我々側の発想です」
黒服のひとりが静かに言う。
「歴史編纂主義者たちは、むしろそうではないものを狙う傾向があります。
由来が不明であるということは、いくらでも『物語』を挿入できるということなのです。
名のある刀には、すでに確固とした来歴がある。
下手に弄れば矛盾が生まれますが――」
「名前が無いなら、歴史に捏造の余地がある、ということ…ですか」
私の呟きに、彼らは同時に頷いた。
「彼らは、あなたの家が代々守ってきたこの社が、目に見えぬ力を封じていると気づいた。
いや、それだけではない。おそらくは、社そのものが結界になっていたのでしょう。
しかしそれも、禍気によって浸食され、今朝、完全に消滅した」
――社が消えたのは、偶然ではない。
それは“壊された”のだ。
いや、“解かれた”と言ったほうが正しいかもしれない。
「結界が壊され、中にあった剣は、彼らに回収され、禍気を宿された可能性が高い。
このまま放置すれば、どこかの時代に現れ、歴史を変える一手となるでしょう」