伍.そうして私は戦場の歩み方を教わった
それを隠すように、私は少しだけ笑顔を作った。
「物へ戦う力と姿を与える他には、具体的に、何をするのでしょうか」
「そうですね…。姿を持った彼らをまとめあげ、禍気をまとった敵を倒す事ですね」
歴史上『もしも』が生まれやすい土地に、歴史編纂主義者たちは、禍気をまとった刀剣を散らばせたらしい。
その場所へ赴き、敵を倒していく。
「彼らが赴いたのは戦場です。
そういった場所は、そもそも澱んだ気を帯びやすい」
先に戦場へ赴いたのが歴史編纂主義者であり、その戦場にたまっている澱みや澱といったものを利用し、こちらを待ち構えているとしたら…。
「ただ野原と思い歩を進めてみると、敵の腹の中にいた、という事があり得るわけです」
「それを避ける手立ては?」
「最悪の事態を避ける方法は考えてあります」
そういって、彼らは十二面の賽子を見せた。
面には数字ではなく、十二支の文字が書かれている。
「方忌、方違え、というのはご存知ですか?」
確か、その方角の吉兆を占い、悪い方角へは出向かないようにする事、だっただろうか。
「それに基づいた賽子です。
赴いた土地で、一番良い方角を選びだすものです」
賽子に、方違え…。
これまた、オカルトめいた方法で行く先を決めるものだ…。
では、この十二支の文字は、方角を示すものか。
「賽子の目に沿って進んだからと言って、敵がいないわけではありません。
強敵がいる事もあるでしょう。
けれど、賽子の目に背いた先は、それよりも悪い事態が待っている――そう考えてください」
賽子の目に背いて進んだ先が、この世の終わりや、地獄のただ中、と考えるべき、ということか…。
これが示すのは“最善”ではなく、“最悪を避ける道”…。
「方違えに基づいている、という事は、その方角も変化する、という事ですね」
ええ、と彼らは頷いた。
歴史編纂主義者たちが、そして、戦場の気が、あちらこちらと惑わす事は容易に想像できる。
だから、賽子を振るのは、歩を進める直前でなくてはならないという。