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零:時の政府

こちら、本編が始まる前段階です。

主人公視点ではありません。


歴史に「もしも」はありえない。


それは決まりきった「お約束」である。

しかし、「もしも」を想像するのは自由だ。

想像を創造するのも、ある程度まで自由だ。


そう、ある程度までは……。


歴史資料の編纂作業。

ここでの仕事は、それだった。

この国は、歴史を客観的に記録する事が神代の昔から苦手であったらしく、読み物としての歴史小説や、おとぎ話的なものは存在していても、記録的なそれは驚くほど少ない。


ゆえに、歴史にはしばしば「空白」がある。

その空白を、歴史的小説やおとぎ話的それらから、埋めていく事もある。

また、研究や化学の発達によって、それまで信じられていた歴史的内容が変わってしまったりすることも、そう珍しくはない。


そのような場合、資料を編纂していく作業をしている箇所がここである。



モニタの中に表示される、過去の歴史的内容。

それは、既存の資料ではあるが、ほんのわずかな直しが必要となった箇所があった。

作業している者たちが、そこに目を通している。


――その時だった。


一部分の文章が、突然、滲んだように読みにくくなくなった。

はじめは、それが、ずっとモニタ画面を見ていた事による、疲れ目だと思ったのだ。


文字の滲みは、ゆっくりと、ゆっくりと酷くなっていく。


何だ

これは…



何故、機械の中の文字が滲んで行くのだ。

バグか。

それともウィルスか。

いずれにしても、一大事だ。


上司に連絡を入れようとしたのとほぼ同時に数通の連絡が届いた。


『理由がわからないが、文章の一部が判読できなくなっている』


連絡の全てが、ほぼそのような内容であった。


ここだけではない。

他の箇所でも同じ現象が起きている。


皆に、チリチリとした嫌な緊張が走った。

程なくして、別の部署の者たちからも連絡が入った。


曰く。

『博物館、資料館の展示物が、何者かによって破壊されつつある』


嫌な緊張はますます高まった。

して、その展示物とは。

刀であるという。


何者かが、いや、何らかの団体が関わって、この一連の事をしでかしている。

そんな予感はあった。


案の定、数日もすると「我らこそ、正規の歴史編纂者なり」と名乗りを上げる者たちが現れた。




歴史に「もしも」はありえない。


それは決まりきった“お約束”である。

しかし、「もしも」を想像するのは自由だ。

想像を創造するのも、ある程度まで自由だ。


そのある程度を越してしまうと、それは正さねばならぬ間違いとなる。


その歴史の“あるべき姿”をねじ曲げようとしていた。

彼らは、展示されていた刀を破壊し、その残滓に禍々しい“気”を練り込み、ヒトの姿を模した存在へと変貌させ、過去へと送り出した。

歴史の書き換え――「もしも」を、現実にするために。


歴史ハ

改竄ヲ

許サナイ


編纂作業員、資料管理者、数百名の科学者たちは、急ぎ結集し、急ごしらえの「時の政府」を立ち上げた。

歴史改竄を目的とする輩と対立するに至るまで、わずか一ヶ月。


急ごしらえの「時の政府」は、歴史改竄をもくろむ輩が作り上げた刀身たちに対抗できる力を求めた。


そうだ、こちらも刀へ命を吹き込めばよい。

それをできる者を探せ。


正・不正をはっきりと見分け、物に命とを与える神に近い能力を持つ者。

その能力を持つ者を「審神者」と呼ぶこととした。


人が、神と同様の力を持つに至るというのか。

詳しい宗教観は分からない。


けれど、「時の政府」は信じた。

この国には、八百万やおよろずの神がいるとされる。

この信仰が息づくこの地であれば、無機物に命を与える存在もまた、人の中に現れるはずだと。


とはいえ、神の力を持つ人間など、現実にはいない。

だが、少しだけ空間を曲げれば――可能になるかもしれない。



…自分たちが今、急ピッチでやっているこれは何なのだろう、とわずかに思わないわけではなかった。

だが。

歴史を歪めてはいけない、という考えに固まっていた。


自分たちは、歴史を改竄する者たちと戦わねばならぬのだ。


そうして歴史改竄を目的とする輩の事を

「歴史編纂主義者」

と呼ぶことになる。

歴史資料の編纂作業をしていた側にとっては皮肉な事、この上ない。


果たしてどちらの「歴史編纂」が正しいのだろう……。


ともかく。

審神者を探さねばならぬ……。



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