第7章 もう一度、始発駅から
大学を学年3位の成績で卒業し、学長の表彰も受けた。誰もがそれを「立派」と言った。そのまま大手企業に就職し、企画職として配属された。毎日スーツを着て通勤して、昼休みに後輩に頼られて、Slackで企画の進行をさばいて、上司から「君は本当に優秀だ」と褒められる。たぶん、私は“順調そう”に見えている。きっと世間的には「才女」なのだと思う。
──でも、そんなことはどうでもよかった。幹事長になれなかった。ただ、それだけの事実が、私の中ではまだすべてだった。葛城先輩が幹事長になれて、私はなれなかった。活動にもあまり顔を出していなかったあの人が、まるで当然のように、役目を引き受けて、静かに勇退していった。
私には、それがどうしても許せなかった。自分に対する怒りにも似た感情が、いまだに胸の奥にこびりついている。私は、何のために交研にいたのだろう。何のために、あんなに走っていたのだろう。
社会人になって何年か経つ今も、私はときどき妄想する。──もし、他の学部に再入学できたら。──もし、もう一度交研に入って、今度こそ幹事長になれたら。そんな天文学的な可能性にすがることが、私の唯一の生きがいだった。
もちろん、それはただの空想に過ぎない。再入学に向けて何か準備をしているわけでもないし、受験の予定もない。今の自分が再び学生になったところで、選ばれるはずがないこともわかっている。でも、だからこそ──その“あり得なさ”にすがっている。届かない夢を見続けることで、ようやくバランスを保っている。心のどこかに、まだ「幹事長になりたかった私」が眠っている。それが、今も私を生かしている。