第4章 決戦と絶望
総会の壇上で、私はマイクを握っていた。会誌の発行報告も、OB会の会計報告もすべて終わり、あとは──幹事長選挙の立候補者による最後の演説。壇上から見る会場は、いつになく静かだった。
「私は、今回の幹事長選に落選したら、交研を退会します」
言葉が落ちた瞬間、空気が凍るのを感じた。ざわめきはすぐに打ち消され、誰もがこちらを見つめていた。無謀だと、重たいと、思われただろう。でも、それが私の“本気”だった。
幹事長になるために、私はこの1年すべてを捧げてきた。それが叶わないなら、この場所に残る理由はもうなかった。
そして、選挙管理委員から開票結果が読み上げられた。
「小野寺俊輝さん、38票」
「朝倉透子さん、24票」
──私は、負けた。その瞬間、何も聞こえなくなった。拍手も、ざわめきも、先輩たちのコメントも、全部が遠くで鳴っているようだった。
すぐに部屋を出た。トートバッグを肩にかけ、階段を一段飛ばしで下りていく。建物の外に出ると、夕方の光が遠くに見えた。
どこに行けばいいかわからなかった。でも、体は勝手に、新幹線駅の方角へ向かっていた。
「どこか、誰も知らない街に行きたい」
「このまま、ホームから落ちたら、楽になるかな」
そんな考えが頭をよぎった。でも、私はできなかった。できるほど、勇気もなかった。
気づけば、私はゆりかもめの高架をたどり、東京ビッグサイトの前に立っていた。あの巨大な建物の向かい、静かな船着き場。風が吹き抜け、海の匂いがした。誰もいないベンチに腰を下ろし、私はただ、泣いた。声を殺して、ずっと、泣いていた。
交研に入ったのは、幹事長になるためだった。ずっとそれだけを目指してきた。それが、終わった。努力も、覚悟も、全部、届かなかった。
選ばれたのは、小野寺だった。彼に負けたこと自体は、もう仕方ないと思っていた。彼は人望があり、場の空気を読む力もある。ああいう人が選ばれる。それは、どこかで納得していた。
──でも、どうしても、どうしても受け入れられないことがひとつだけあった。葛城先輩が幹事長になれたのに、私はなれなかったという現実。活動にはそこまで顔を出していなかったはずの彼女が、1年前に幹事長に選ばれ、その後も、どこか“自然体”で職務をこなしていた。私は、それを“素敵だな”と思っていた。でも今は──ただ、悔しい。私は、あんなにも必死に走って、それでも届かなかった場所に、彼女は、ほとんど迷いもなく立っていた。それが、苦しくて、許せなくて、何より悲しかった。
恋心と、敗北感。尊敬と、嫉妬。そのすべてが、ぐちゃぐちゃになって、胸に突き刺さっていた。──私は、何のために、ここまでやってきたんだろう。その問いに、答えは出なかった。出ないまま、私はベンチで、ひとり海を見ていた。