第3章 一心不乱の1年間
副幹事長選挙に落選したのは、1年の秋だった。あのとき、確かに悔しくはあったけれど、意外と冷静だった。
「まあ、小野寺くんなら仕方ないか」そんなふうに、自分に言い聞かせた。彼は誰にでも柔らかく接するし、先輩受けもいい。私より社交的で、誰もが話しかけやすい雰囲気を持っていた。
“次がある”──そう思っていた。2年になれば幹事長選がある。それが本番だと、自分を納得させていた。
──だけど、その総会では、もうひとつ“結果”があった。幹事長選挙。選ばれたのは、葛城柚子先輩だった。文学部所属で、ふだんはあまり例会にも来ていなかったはずの女性の先輩。私にとっては──ひそかに恋心を抱いていた人だった。
名前が読み上げられたとき、私は複雑な感情に襲われた。うれしさと、悔しさ。憧れと、届かなさ。自分は副幹事長にもなれず、彼女は幹事長になった──その現実が、心のどこかに刺さった。
でも、口には出さなかった。「私にはまだ来年がある」そう言い聞かせていた。
──そして、その年の葛城先輩は、まるで“それが自然な流れだった”かのように、幹事長の仕事をこなしていた。大きな声を出すわけでも、指示を飛ばすわけでもない。
でも、原稿の確認も、OBへの返信も、印刷所への対応も、黙々と──というより、どこか「まんざらでもない」雰囲気で進めていく彼女の姿が、私にはとてつもなく遠くに思えた。
私は、というと──自分が動かないと崩れると思っていた。Slackの通知、合宿の部屋割り、交通費の集計、会誌の入稿と校了。それを「自分が全部やらなければ」という脅迫観念のような気持ちで走っていた。
けれど、柚子先輩は違った。構えていない。余裕がある。そして、誰からも好かれていた。──この人は、私とは違う。その思いが、知らず知らずのうちに、私の中に劣等感と焦燥を積み上げていった。
──その感情が決定的になったのは、翌年の3月。追い出しコンパの席で、2年生のある先輩が何気なく言った。
「まあ、次の幹事長は小野寺で決まりでしょ」
その瞬間、胸の奥がグッと締めつけられた。──何それ。もう、決まってるの?私が1年間、どれだけ頑張っても、結果なんて最初から変わらないってこと?その言葉が、私の中の何かに火をつけた。
それからの私は、今まで以上に狂ったように動いた。──目の前にあるすべての仕事に手を出した。“誰よりも動いた人間が、選ばれるべきだ”それが、私の正義だった。
「ありがとう」「助かった」──その言葉で満足したふりをしながら、私は胸の内で焦っていた。──これで足りてる?──もっとしなきゃ、追いつけない。




