第2章 憧れの交研
大学に進学して、最初の春。入学式から一週間後、私は大学交通研究会──通称「交研」の部室を訪れた。学生会館の最上階。昼間でも薄暗い廊下の奥にある部室のドアをノックしたとき、手のひらにじんわりと汗をかいていた。
──この瞬間のために、中学から積み上げてきた。そう思っていた。
交研は、60年を超える歴史を持つ老舗の学内団体だった。OBの中には、国交省や大手鉄道会社に進んだ人もいる。部誌は年4回発行、研究発表会、合宿、撮影旅行、会誌編集にOB会──その活動内容はまるで“社業”のようで、私はその一員になることに誇りを感じていた。
「こんにちは、入会希望です」
そう声をかけると、現役部員らしき人たちが私を部室に迎え入れてくれた。
壁には歴代の会誌がびっしり並び、ホワイトボードには次回定例会のアジェンダ。机の上には、昨年度の研究発表スライドが開いたままになっていた。高校とは桁違いだった。あらゆるものが、プロフェッショナルだった。
私と同じように付属校出身の新入生も多かったけれど、どこかで“出身校”が人間関係や派閥に影響しているのを感じた。──あれ、少し違うかも?それが最初の違和感だった。でも、それでも私はここで“幹事長”になると決めていた。簡単じゃないのはわかっていた。だからこそ、燃えていた。
1年生の春、新歓の会合で挨拶をしたとき、
「高校で模型部の部長をしていました」
そう名乗ると、何人かの先輩が頷いた。
「期待してるよ」
──その言葉が、私の胸を刺した。期待。それは、重さでもある。
私が「幹事長になるためにここに来た」ことを、誰にも言っていなかった。でも、自分の中では、それが当然の未来として描かれていた。
選挙は、1年生の秋にある。まずは“副幹事長”として認められなければならない。私は、毎週の会議に全出席し、編集班の手伝いにも入った。会誌のレイアウト案を夜遅くまで校正し、メール対応も買って出た。それが、幹事長への最初の一歩だと信じていた。
だが──その秋、私は初めて“交研の現実”にぶつかる。




