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交差点の先で  作者: tjrtr
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番外編 交研連総会でのひと悶着

 ──2年生の夏、全国大学交通研究会総連合、通称「全国交研連」の総会が、大阪の大学で開催された。総会は2日間にわたり行われ、初日は加盟団体による総会、2日目は一般来場者向けの見本市として、模型や写真などを展示する形式だった。もちろん、うちの交通研究会──交研も参加し、私も手伝い要員として同行することになった。総会自体は滞りなく終わり、各大学のプレゼンテーションも盛況だった。参加者たちは皆、満足そうにしていた。──表向きは。

 だが、私たちの内部では、ひとつ厄介な問題が燻っていた。それは、ある出版社から依頼されていた、総会の様子を紹介する雑誌記事についてだった。依頼自体は喜ばしいものだったが、問題は、その原稿をうちの交研が作成し、完成後に全国交研連の"事前チェック"を受けることが決まっていた点だった。

 ──それって、もう、私たちの交研の記事じゃない。原稿確認を受けるくらいなら、最初から交研連に記事そのものを任せるべきだと、私は思った。個別の事実確認(たとえば、展示物がどの大学によるものかの確認)ならまだ理解できる。しかし、完成した原稿そのものを全国交研連に提出し、"ご指導"を仰ぐという流れは、まともな情報発信のあり方とは根本的に相容れない。私は直感的に強い違和感を覚えた。

 さらに腹立たしかったのは、そんな重要な方針が、執行部という一部の役職者たちの間だけで決められ、私たち一般会員には事後報告で済まされようとしていたことだった。幹事長・副幹事長・会計──この三役は会則で定められている。それ以外にもいくつか役職はあるが、三役以外にどの役職者が執行部に含まれるかは曖昧だった。

 私は前年、副幹事長選に敗れ、書記という役職についていたが、執行部の意思決定にはまったく関与していなかった。今思えば、書記とは「上がりポスト」、つまり実権を持たない名誉職のようなものだったのかもしれない。──この時点で、私の未来はもう定まっていたのかもしれない。

 それでも、私は黙っていられなかった。まあ、執行部のうちの誰がそれを言い出したのかは、大方想像がついた。原稿が事前確認されると知ったその瞬間、私は執行部に強く抗議した。内心では、事前確認は交研連からの要請だと思っていた。だが蓋を開ければ、うちの交研の側から「自主的に申し出た」ものだったという。「交研連の圧ではない。だから問題ない」──執行部の弁明は、まるで煙に巻くようなものだった。問題の本質はそこではない。自主的であれ強制であれ、私たちが作成した記事の表現を、外部組織の意向に委ねるという姿勢そのものが、おかしいのだ。

 前日の会場設営中、私はついに執行部の一人と廊下で口論になった。その先輩は、原稿の事前確認を言い出した張本人ではなかったが、執行部の一員として方針を擁護しようとしていた。本当は、その先輩に対しては今でも申し訳ないと思っている。でも、あの状況では、私には他に選択肢がなかった。周囲には他大学の参加者もいた。他人の前で恥をさらしたという自覚もあった。情けなさと悔しさが胸に込み上げたが、それでも引き下がるわけにはいかなかった。

挿絵(By みてみん)

 ──そして、幹事長・葛城先輩。私がどれだけ食い下がっても、彼女はただ静かに「原稿確認は自ら申し出たもの」という答えを繰り返すばかりだった。まるで自分の考えではないかのように、誰かの判断を後追いするだけだった。

 好きではあった。でも、憧れていたわけじゃない。こんな人に幹事長が務まっているという事実が、どうしようもなくもどかしかった。もともと届くはずのない場所にいる人。私が何を言ったところで、きっと彼女には届かない。そんな諦めと、一線を引かれたような寂しさが、じわじわと胸に広がっていった。

 結局、話し合いの末、"監修"の表記を記事末尾に加えることで妥協が成立した。──この記事の件については、私の"戦術的勝利"だった。

 でも、勝った気なんてしなかった。私がもぎ取ったのは、正しさではなく、孤立だった。交研内部に確かな溝が生まれた。そして数か月後、私はそのまま幹事長選に臨むことになる。敗北への道筋は、副幹事長選での敗北からすでに生まれていたのだと思う。それでも、この夏の騒動は、その流れを決定的なものにしてしまったのだろう。

 それでも、後悔はしていない。もし、あのとき声を上げなかったら。私は本当に、ただの一会員で終わっていただろう。泡沫候補として笑われ、何も成せないまま消えていたに違いない。

 この騒動で、私の考えに賛同してくれた人たちが何人かいた。その人たちが、幹事長選で私に投票してくれた24人の中にも含まれているのだと思う。あの夏、孤立してもなお、支えてくれた存在だった。今でも、心から感謝している。そして──その期待に応えられなかったことを、今も悔やみ続けている。

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