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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
最終章 〝妖怪皇帝〟SON OF A BITCH
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第096話 目を背けたくとも

「嘘……! 私の体にそんな人の血が流れているなんて……!」


 過去の人類の栄光などどうでもよかった。

 ビタリアにとって最も衝撃的だったのは先祖の性的指向。


「いや、でも、同性同士なら子供を望めないではありませんか! そう、そうですよ。嘘をつかないでください。ひとのご先祖様を侮辱するなんて最低の振る舞いです!」

「昔はできたのじゃ」

「……」

「科学技術は不可能を可能にする術じゃからの」


 ビタリアの思い付きは将軍に一瞬で論破された。

 それとともに冷や汗が流れ出る。


「もしかすると、そのせいで私を……人類を恨んでいるのですか? だとしたら……ご先祖様に代わってお詫びします。どうかお赦しを」

「反省しておるのか?」

「はい」

「前にも言うたが、この体の持ち主の性にも寄り添わなかったのでおじゃろう? 正直に申してみよ。倒錯者を嫌悪しておるのじゃろうが」

「……」


 まったくの図星。

 ビタリアは黙りこくるしかない。

 夫が同性愛者であったことからその手の人種を嫌っているのだ。

 まさか自分自身の先祖にレズビアンがいたとも知らず。

 血と運命を呪わずにはいられないというのが正直なところであった。


「せっかく子供を生めたというのに、その体たらく。みがなを軽蔑するのはそこじゃ」


 将軍は苛立ちを殺人で発散しながら、


「羨ましいのじゃ。みは子供を作れないのじゃから。科学技術がいまだ為し得ていないこと。それがみの子作りじゃ。みが取り付いておる間は体から生殖機能が喪失するのじゃからの。ああ、子供がほしいでおじゃる。みが親になればたっぷり子供を愛してやれるぞ」


 ――どうすればよかったのでしょう。


 うちひしがれたビタリアは自問する。


 ――夫を否定しなければよかった? ですが、あの人は私を愛してくれませんでした。息子にもっと向き合うべきだったでしょうか? 育児に手を抜いたつもりはありません。何が正解でしょう? ああ、非力。私一人では解決できません。あなたがいれば……。


 そして願った。


 ――もう一度、あなたに会いたい。


     *     *


 マギは空を飛ぶ。

 戦禍の中にあって悠然と空を飛ぶ姿はまるで平和の象徴のよう。

 しかし、内には大いなる野望を秘めていた。


 ――長かった。


 何も楽しくない人生。

 朝、目を覚ますのが苦痛だった。

 生きていることを呪うだけの日々。


「あなたは本当に殴り心地がいいですね!」

「ありがとうございます!」


 母は父のサンドバッグだった。

 母は父に逆らわない。

 逆らうとより痛くされると学習したからだ。

 それでもたまに耐えられなくなって逃げる。


「マギ、あれを見つけてきてください」


 父の命令に逆らえないのはマギとて同じだった。

 母の隠れ場所はいつもなんとなく勘でわかった。


「母上、父上がお呼びです」

「ねえ、マギちゃん。お願いがあるんだけど」

「はい」

「今日はマギちゃんが殴られてくれないかな?」


 母はいつも卑屈に笑った。


「言うこと聞いてくれないなら……」


 母はマギをつねった。

 マギは逆らえなかった。

 死こそ救済。

 それ以外の願望は叶うことがない。

 何事も諦めが肝心。

 塞ぎこむマギが不意に本音を打ち明けられた相手はリケイカインだった。


「翼があるのはよいな。余はどこか遠くに飛んで行きたいぞ」


 どこからか飛来した見ず知らずの妖怪。

 マギにとっては死神でもあり救世主でもあった。

 てっきり自分の人生にとどめを刺してくれるのかと思いきや、妖怪の卵を渡された。


「中身を浴びたら妖怪になれるよ。鳥みたいな妖怪に。空を飛べる。自由になれる」


 そして妖怪になって、列島各地を飛んで、船に乗って大陸に渡った。

 得たのは、世界のどこにも理想郷がないという事実。


「生まれて来なければ苦しまずに済んだものを」


 今、マギは江戸の市街地を視野に入れる。

 妖怪と人間の乱戦に大江戸城が加わり戦争は混沌と化している。


「余がすべてを終わらせてやろうぞ」


 そろそろ機が熟す。

 マギは先代皇帝から作戦を授かっている。


「マギ、よく聞け。戦争が始まり人間と妖怪の勢力が混戦する時、【無効化━アヌリルン━】を発動せよ。固有能力を封じられ不利になった妖怪たちは間違いなく全滅するであろう」

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