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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第9章 〝征夷大将軍〟SAN OF A BITCH
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第084話 奴隷商人をやっつけろ

「今夜は冷えるな」


 真冬の夜。

 天蓋つきベッドのふかふか布団の上で男が体を起こした。


「おい、誰か。穢多の女を20人ほど持ってこい。わしの体を暖めさせる」


 男は穢多を危険な場所に派遣して荒稼ぎしていた。


「む? やけに暖かくなってきたな。妙に外が明るい……」

「御館様、大変です!」

「うるさい。早く穢多女を持って来んか」

「火事です!」

「なにぃ!?」


 燃える屋敷に人々の注意が引き付けられる。

 手薄になった穢多の宿舎に、何者かが近づく。

 ひそひそ声で、


「みなさん、出れくらさい!」


 黒装束に身を包んだサクラ。


「身分を解放しに来られあります! もうみなさんは自由なのれあります!」


 朗らかに呼び掛けた。

 しかし暗い牢の中からは老婆が冷めた様子で、


「自由なんてお呼びじゃないっすよ」


 サクラは焦る。


「のんびりしれらら監視の人が戻っれ来るれあります!」

「見たところ、あんたも穢多のようっすね。なら悪いことは言わないっす。夢なんて見ない方がいいっすよ。わしらに必要なのは自由なんかじゃないんす。今日を生きて明日を迎えるための飯っすよ」

「人間らしく生きたくないれありますか?」

「弱肉強食の理こそ生き物らしさじゃないっすか」

「わからず屋のおばあちゃんれありますね。みなさん、聞いれくらさい!」


 サクラは意を決して声を大にする。


「世の中には穢多制度が廃止されら藩もあるのれすよ!」


 故郷・御所藩のことを語った。

 人はみな平等。

 なんなら人と妖怪すら共存している。

 対立はしても話し合いで解決する。

 まるで理想郷があるのだ、と。


「そんな平等ろ平和を列島すべれに広げらいのれあります! どうかわらしを信じれ協力を!」

「無理っすよ」


 老婆の反応は冷たかった。


「わしらは今日一日を生き抜くために必死で頑張ったんすよ。疲れたんす。もう寝たいんす。あんたも自分のご主人様のところに帰った方がいいっす」

「あなららけじゃなくれ、あならの家族のらめにも……」

「息子がいたけど死んだっすね」

「……ごめんなさい……」

「いいんすよ。弱いから死んだだけなんすから」


 お喋りが過ぎたようだ。


「何奴!?」


 監視の者がわらわらと集まってきた。

 彼らの手には刀。

 サクラは慌てず武器を取り出す。

 チェーンソー。

 かつて赤ユリが使っていた物である。


「負けないれす! わらしはビらリア様に稽古をつけれもらっられありますから!」


 当然のことながら、ただの刀よりもチェーンソーの方が強力であった。

 サクラの身のこなしが優れていたのもある。

 だが、実戦慣れしているわけではない。

 やがて劣勢に陥った。


「悔しいれす……。身分に関係なく宴の輪を囲める世の中にしらいのに……」

「マジすか!!?」


 牢が破られた。

 老婆がゆらりと近づきながら、


「美味い飯をたらふく食えるってことすか!?」

「もりろんれあります!」

「それを早く言ってくださいっすよ!」


 老婆は監視員に飛びかかる。

 武器は木の杖。

 刀を紙一重でかわし、的確に杖で急所を打つ。

 あっという間に片がついた。


「すっごく強いれあります……」

「みんなも出てくださいっす。もうわしらはここじゃ生きてけないっすから」

「おばあちゃん、協力してくれるのれすか?」


 次々に穢多が牢から出てくる。

 感激のサクラ。


「飯のためっすもんね。で、これからどうするんすか?」

「もっろ仲間がほしいれす」

「江戸にゃ穢多商人がたくさんいるっすからね。牢獄破りしちゃうっすか」

「はい!」


     *     *


 将軍はベッドの上でリケイカインの鳥を体に絡ませる。


「ねえ、瀬良寺!」

「みは将軍じゃ」

「じゃあ将軍! お願いがある!」

「みが何なりと叶えてやるのじゃ。その代わり……これをみに頂戴なのじゃ」

「妖怪皇帝はクソ! 殺して!」

「殺してあげるぞ」


 しかし簡単には体を許さないリケイカイン。

 将軍に皇帝を討伐するだけの実力があるのか疑う。


「百聞は一見に如かず、じゃ。ついて来よ」


 紹介した場所は大江戸城の最奥部にある空間。

 壁一面にモニター。

 卵のような形状の椅子。

 要するに、


「カラクリ?」

「いかにも」

「これって強い?」

「これは城を動かすカラクリじゃ」


 幕府は人口減少や妖怪による侵略など様々な課題に対してほとんど無為無策で一貫してきたが、決して無能ではない。


「大江戸城それ自体がひとつのカラクリなのじゃ。大勢の妖怪が攻めて参っても、みが直々に城を動かしてやつらを撃退してくりょうぞ」

「将軍、好き♡」

「おほほ。そうじゃ、江戸の民を鼓舞するために演説でもしようかの。きっと人々はこぞってみを讃えるでおじゃろう」

「将軍、かっこいい♡」


 すっかりメロメロのリケイカイン。

 だが、将軍に妖怪を退治するつもりなど毛頭ない、。


 ――妖怪こそ繁栄すべきじゃ。人など滅びてしまえ。

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