第083話 I LOVE YOU
「とうとうこの時が来ましたーーーーー!!!!!」
「死者を甦らせる固有能力!!! 実在したんすね!!」
「これでようやく!」
「わしらの願いが叶うっすよ!!!!!」
「うおおおぉぉおおぉお」
「っしゃあああぁぁああ」
絶叫のヒトフリと神葉。
将軍の謁見室を退出して2人きりになれる研究室に来た途端、感情を大爆発させた。
「酒!」
「いいんすか!?」
「飲みましょう!」
「乾杯っす!」
「……っぷはぁぁあああぁぁ」
「うめぇぇええぇぇぇえっす」
散々酔っぱらってから、ふと神葉が気づく。
「貴族院に戻らなくて大丈夫なんすか」
「じゃあ大丈夫です」
「まあどうでもいいすよね!」
「ああ、長かったですよ……」
ヒトフリは透明の箱にしがみつく。
中には先代将軍こと彼の妻・大工部ナカノの遺体。
「将軍に人格を奪われ、ガキに殺されたかわいそうなお前。久しぶりに会えます。いったい何から話そうか。ああ、もう一度会えたら、言葉は要らないかもしれません。ただそばにいられるだけで……」
* *
「子供にちゃんと向き合ってあげてください」
ヒトフリは江戸から松山に帰省するたび、妻が偉そうな態度をとることに苛立った。
「うるさいです」
殴って黙らせた。
大工部家には子供がたくさん。
家事や教育は召し使いに任せられる。
もはや妻などいなくてもいい。
「私が死ねば満足ですか」
「じゃあそうです」
「そんなに恨まなくても……」
妻の涙にほだされるヒトフリではなかった。
家庭での苦労を忘れるために仕事に逃げる。
滅私奉公。
将軍閣下万歳。
そうすると暇を持て余した妻が余計なことをするので、ヒトフリにのしかかる精神的な負担が増える。
悪循環。
人を思いやる心が薄れていく。
「マガは藩主の後継者になってください。マギは蚊虻教の救祖になってください」
「あなた、子供たちの気持ちも聞いてあげたら」
ヒトフリが子供の進路を決定した時にも、ナカノは逆らった。
もちろん殴った。
「母上、私は父上のご決定に異存はないですぅ」
「余も同じく」
マガもマギもヒトフリに逆らうことはなかった。
「マギちゃんはそれでいいの?」
ナカノにとって最も気がかりだったのは、まるで感情をなくしたかのような生き方をするマギだった。
しかし当のマギは母の心配を鼻で笑い、
「死ぬことこそ武士道です」
「あなたって子は……!」
思わず手をあげそうになるナカノ。
ぐっと堪える。
夫と同じになってはいけない、と。
「子供は甘えていいのよ。もっとバカになりなさい」
綺麗事を抜かすナカノ。
ヒトフリは一計を案じた。
珍しく妻を江戸への参勤に同行させた。
将軍の体が老化して限界に近いことを把握していたのだ。
将軍に妻を紹介すると、案の定、
「みに差し出してたも」
とおねだりされた。
無論、断れない。
「あなた……」
「喜んでください。あなたの体は将軍閣下に使っていただけます」
「心は?」
「じゃあ、なくなります」
ナカノは察した。
厄介払いされるのだと。
「構いません。あなたの望むようにしてください。ただ、ひとつだけお願いがあります」
「?」
「子供にちゃんと向き合ってあげてください」
* *
妻がいなくなった時、ヒトフリはほっとしたはずだった。
なのに、今は妻の亡骸を抱いてすすり泣いている。
「私はバカでした」
失って初めて気づいたのだ。
「お前というサンドバッグを殴らなければ私はストレスを発散できません」
いつか老化した妻の体は将軍に捨てられる。
その際に若返らせるなり蘇生するなりできるよう新たな科学技術を獲得する必要があった。
「だから子供たちを実験に使いました。蚊虻教を通じて妖怪の固有能力を探りました。妖怪化したマギを放置しました。これまでの苦労がようやく報われます」
「あんた最高にバカっすね!」
号泣するヒトフリを神葉が泣きながら笑う。
「マジ感謝っす!」




