第082話 えっ、私の息子が将軍に!?
「さて、もう一人客人を迎えるかの」
リケイカインから妖怪皇帝の能力が明かされると、ヒトフリと神葉は慌てて部屋を退出した。
わざわざ探りをいれない将軍。
リケイカインの股間から伸びる黒鳥に垂涎しているためである。
それはそれとして、将軍としての務めを果たさねばならない。
「名は何と申す?」
妙齢の女性が将軍の前まで連行されてきた。
大江戸城付近をうろついていたところを逮捕された不審者である。
取り調べには完全黙秘を貫いた。
ところが将軍の顔を見るや、
「……サン……?」
「サンと申すか」
「何を言ってるのですか! それはあなたの名前でしょう!」
「みは将軍じゃぞ?」
「バカなことを! 不敬な振る舞いはやめなさい! 第一どうしてあなたが生きているのですか」
「……なるほど、瀬良寺ビタリア。この体の母親じゃの」
埒があかないので将軍は脳内を検索した。
「将軍、好き♡」
リケイカインが将軍に絡み付く。
「男同士でいちゃつくんじゃありません!」
ビタリアは目の前の現実に戸惑いながらも憤る。
将軍暗殺の犯人として処刑されたはずの息子が将軍として生きている。
御所藩を去ったリケイカインもこの場にいる。
喜怒哀楽が渾然一体。
そもそもなぜビタリアが江戸にいるかと言うと……。
* *
「腹を切らせてください」
「ダーメーよ。おばか!」
息子の犯した罪を償おうとビタリアは自死を望んだ。
それを止めるために藩主・風詠サソリはビタリアを拘束した。
城内に軟禁されてなおビタリアは毎日のようにサソリに懇願した。
「生きなさい。死んで花実が咲くものですかっつの」
サソリの返答はいつでも同じ。
ただし、これはお情けではない。
「あんたには力があるじゃんか。剣術であんたに勝てるやつなんていないでしょ。サソリね、力を持ってる者には力を使う義務があると思うよ」
「……私に何をしろと?」
「してほしいことなんていーっぱいあるよ。ご存じの通り、いま御所藩は大混乱じゃんか」
蚊虻教との戦いの果てに、御所藩の民の多くが卵を浴びて妖怪と化した。
「力を制御できない子もいるし、固有能力が環境を悪化させることもあるし、妖怪になった子と人間のままの子の間でいさかいも絶えないし……。かくいうサソリも妖怪になっちゃったから、微妙な立ち位置なんだよねー」
だから面倒事を解決してほしいのだ、と。
ビタリアは躊躇したものの、鋭い眼差しを藩主に向けて、
「切腹をお許しくださらないのなら、戦いの中で死ぬ覚悟です」
こうしてビタリアは藩主直々の任務をこなす日々に明け暮れた。
石を投げられても挫けず。
罵詈雑言を浴びせられてもめげず。
ただただ死にたいがために。
しかし状況は変わる。
「大変なことになった……」
サソリはビタリアを呼び出して愚痴る。
妖怪皇帝が船を奪ったこと。
妖怪が攻めてくること。
一連のニュースが舞い込んできたのだ。
「ますます人間と妖怪の間の軋轢が増すじゃーん」
「城下でも、妖怪化した領民が妖怪に味方するのではないかと邪推されています。ますます私の仕事が増えそうです」
「……ねえ」
「何でしょう」
「江戸に行ってくれない?」
ビタリアは眉をひそめる。
サソリが言うには、今の情勢下で最も必要なのは国の安定である、と。
そのためには幕府の内部を探る必要がある。
「だって、そもそもあの瀬良寺ちゃんが将軍閣下を暗殺するなんておかしくない? きな臭いじゃんか」
「……」
「これはあんたにしかできないことだよ。お願い」
「為すべきことは……」
「世の泰平を」
かくしてビタリアは上京するに至った。
「わらしも同行するれあります」
忍としての素養を身に付けたサクラがついてきた。
「命懸けのお仕事ですよ」
「頑張るれあります!」
「はぁ……なんだか不安が増しますね」
* *
――結果的に連れてきてよかったですね、あの子を。
サクラはまだ捕まっていない。
子供という要素を生かして自由に動き回れるだろう。
だからビタリアは託していた。
――サクラ、あなたなら私の指示を完璧にこなせると信じてます。
ゆえに自身が捕縛された状況には不安を感じていなかった。
むしろ早速にも直接将軍とあいまみえることができてよかった。
息子が将軍として振る舞っているのは予想外だったが。
ツッコミどころは多いが、最も看過しがたいのは息子がリケイカインと濃厚に絡み合っていること。
「いい加減になさい! 男子が男子と睦み合うなど言語道断です!」
「異なことを申す」
リケイカインの鳥をなぜながら将軍は、
「瀬良寺サンは体こそ男じゃが心は女じゃぞ?」
ビタリアの表情が凍った。




