第081話 貴族院のこまりごと
「おほほ。この体もこなれてきたのぉ」
大江戸城の大奥には多くの男が常駐する。
今夜、選ばれたのは武士階級の屈強な男。
「将軍閣下、それがしはもう……」
「情けない声を出すでない。みはまだじゃぞ」
男の上で身をくねらせるのは将軍。
体は男だが心は女。
顔には鏡がぴったりくっついている。
「お、おおぉ……」
やがて体を震わせる将軍。
お相手の男にぐったりともたれかかる。
「なは武士であろう?」
「いかにも」
「負けたことはあるかの?」
「負けるとは死ぬこと。それがしが生きておるということは、即ち誰にも負けたことがないということでござる」
「それはよい」
将軍は素早い身のこなしで男から体を抜き、棍棒に手を伸ばす。
そして武士の頭をかちわった。
この間、一秒にも満たない。
将軍はにんまり。
「まことよき体じゃ」
* *
遊びは終わって執務の時間。
貴族院は荒れていた。
「死にたくない!」
異口同音に叫ばれる命乞い。
妖怪皇帝によって将軍陵墓の中の船を奪われたことはすでに日本中に知られている。
やがて妖怪が大挙して押し寄せるだろうということはバカでもわかる。
「何か策を講じなければならない」
貴族院議員たちはいつになく熱心だった。
「もはや無為無策ではいられないのだ」
「いにしえの時代に、人間が妖怪の卵を発明してしまったことがすべての原因。我らはその歴史的事実を重く受け止め、自らが妖怪になることで罪を償おうとした」
「妖怪同士なら仲間として認めてもらえるという魂胆でもある」
「だがもう卵を悠長に集めている暇はない」
「蚊虻教め。やつらがとろくさいせいで」
だが彼らに解決策を導くだけの能力はない。
ともすればいがみあい、罵りあい、責任転嫁を図ろうとする。
結局これまで通り、将軍に意見をあおぐ他なかった。
将軍とは人類の知の結晶――人工知能である。
「将軍閣下、御聖断を」
恭しく頭を下げる議員たち。
その中にあって、大工部ヒトフリだけは冷ややかだった。
――人間は醜いですね。滅びればいいと思います。
将軍が口を開きかけた時だった。
「妖怪が襲来しました!」
警備員による報告が議場をどよめかせた。
早くも妖怪の軍勢が襲来したか、と。
しかし報告によれば、妖怪はたった1匹とのこと。
「黒い体に翼を生やしたおかしな妖怪です」
将軍にはぴんとくるものがあった。
妖怪を殺すか和議を結ぶかと騒ぐ議員たちを無視して、将軍は脳内を検索する。
――リケイカインとな。
念のため警備の者に確認してみる。
「その妖怪の股間はどうなっておるのじゃ?」
「やけに長いモノが生えております」
「リケイカインで間違いないの」
将軍は大声で宣言する。
「みの部屋までつれて来よ。大丈夫じゃ。その者はただの妖怪ではない。妖怪皇帝の息子なのじゃからの」
* *
「み一人でよいと申すに」
応接間には将軍の他にヒトフリと神葉ギウデの姿があった。
「閣下の御身に何かあってはいけません」
「ふぅむ……? 理由はそれだけかの?」
「じゃあそうです」
ヒトフリは平静だった。
「あれ!? 神葉と瀬良寺!!!」
やがて部屋まで案内されたリケイカインはびっくり。
当然の反応だった。
人間を束ねる将軍がどんな顔をしているだろうかと考えていたら、瀬良寺だったのだから。
神葉はさもありなんといった様子で、
「まあ、なんやかんやで瀬良寺殿が将軍になったんすよ。わしは幕府側の人間なんで、ここにいる感じっすね。で、こっちがマギ様の親父さんっす」
「マギ、嫌い!」
「痴情がもつれてるみたいっすね」
「マギ、ぼくを裏切った!」
神葉もヒトフリもリケイカインに対して恐怖や敵意を感じなかった。
超鳥の固有能力【魅了━ファスツィナツィオン━】のためである。
しかし将軍は単刀直入に、
「土産はないのでおじゃるか?」
有益な情報を寄越せ、ということである。
リケイカインはマギとの決裂、マガとの共闘などをかいつまんで話した。
要点は、皇帝を倒すためなら幕府に味方するということ。
ヒトフリは何の期待もなしに皇帝の固有能力を尋ねてみた。
「ヤバイ能力だよ!」
「どうヤバイんですか?」
「死者を甦らせる!」
ヒトフリは必死に平静を保った。




