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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第8章 〝不朽戦艦〟天照の鱗
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第079話 土砂土砂土砂

「癪にさわる弟ですねぇ……!!!」


 救祖が笑う。

 今、彼は将軍陵墓の外にいた。

 宙を舞いながら、崩壊する宇和島藩を眺めていた。

 すべてが土砂で洗い流されていく。


     *     *


 さかのぼること数十分前。


 ――戦わずにして勝ちますぅ!


 将軍陵墓の内部。

 妖怪皇帝とマギを相手にしつつ船を破壊するのは至難の業。

 ならば隙を突くのが必勝法。


 ――まずは母上の件でマギを硬直させましょう。


 目論見は成功。

 衝撃の事実にマギは動けなくなった。

 次は皇帝を釘付けにしなければならないわけだが……


 ――リケイカインを殺しますか。


 安易だが確実と思われた。

 だが、伏兵がいた。


「将軍陵墓を吹き飛ばせ」


 皇帝が命令した相手は粧か无。

 そんな妖怪がいるなどとは聞いていない。


「言うの忘れてた」


 反省など1ミリもしていなさそうなリケイカイン。

 粧か无。

 半径数十kmに及ぶ範囲で自在に土砂災害を引き起こすという固有能力を持つ。

 皇帝がこのとんでもない妖怪を将軍陵墓に連れてきた意図は明白だった。


「土砂の力を利用して将軍陵墓を破壊するつもりですね……!」

「いかにも」


 平然とのたまう皇帝。

 救祖の怒りが頂点に達すると同時に、粧か无が能力を発動する。

 マゴが鼻をくんくんさせ、


「いい匂い」


 土を緩くする成分が満ちている証拠である。

 救祖は大声で吐き捨てるように、


「そこまでして人間を滅ぼしたいですか! 将軍陵墓の外壁だけじゃ済まないでしょう。宇和島藩ごと吹っ飛びますよ。そして大勢の人が犠牲に……」

「皇帝と交渉なんてできっこないよ」

「リケイカインの言う通りですね。だったら力ずくで……!」

「あい♡」


 救祖とリケイカインが跳躍する。

 もはや策を練る暇はないため、戦って殺すというシンプルな作戦に変更。

 2人の敵意を察知し、鬼たちもまた動き始める。

 マゴの願いは届かない。

 混戦の予感。

 だが、


「マギ、【無効化━アヌリルン━】を発動せよ」


 途端に、救祖と鬼がその場に崩れ落ちる。

 リケイカインだけは飛行を続けられたものの、


「愚息め」


 皇帝の長い脚に蹴り飛ばされてしまう。

 本来なら固有能力【硬質化━ザイフリート━】のおかげで硬いはずの体。

 今はマギの能力によって軟弱にされているのだ。


「マギ、嫌い!」

「推測通りである」


 皇帝は満足げに、


「マギの【無効化━アヌリルン━】は妖怪の固有能力のみならず全ての科学技術を無効化できるのである」

「癪にさわる弟ですね」


 救祖がのたうちまわる。

 体をカラクリに改造していることが裏目に出た。


「マギお兄様……本当に人間を裏切るのですね」


 マゴの頬を涙が伝う。


「民を救うためぞ」


 大量の土砂が将軍陵墓にぶつかった。


     *     *


 雨が降る。

 宇和島藩では数週間も長雨が続いていた。

 ただでさえ地面が緩くなっていたところに粧か无の能力である。

 ひとたまりもなかった。


「この世の終わりだ」


 土の流れは止まらない。

 城が崩れるのを目の当たりにして、領民たちは最後の希望を失った。


「諦めるわけにいかないですぅ……!!!」


 マギの固有能力から解放された救祖。

 体を自由に動かせるようになったはいいものの、土砂に飲み込まれたために全身を激しく損傷してしまった。

 髪はほどけ、顔は傷だらけ。

 死の恐怖に襲われる。


 ――でもその前に一太刀だけでも。


 皇帝とマギが船を雲のような物体に載せている。

 急げば間に合う距離。


「死なないで」


 すぐ近くで人の声がした。

 成人女性が女の子を土の濁流の中から救出しようと試みている。

 おそらく親子。


「……こんな時に……」


 見過ごせる救祖ではなかった。

 さっさと救助してすぐに皇帝を追いかけようと思っていたが、意外と手間取る。

 流れてきた瓦礫が体を貫く。


「私の人生、こんなもんですか」

「ありがとうございます、妖怪さん!」


 娘を抱き締める女性が涙を流す。

 助けられた子供は、


「お母さん、違うよ。この人は妖怪じゃなくて公爵様だよ」

「お。私を知ってますか」

「だって前にお母さんを助けてくれたじゃないですか。縞根っていう妖怪から」

「……え?」


 かつてマギに救われた母娘だった。


「癪にさわる弟ですねぇ」

「あれ? 人違い? すみません。すごく似てたので」

「あなたは兄弟の中で一番愛されてますか?」

「私一人っ子です」

「あ、そ。そりゃよかったですね。私は……ずっと……」


 遥か上空を王水門が飛ぶ。

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