第073話 将軍陵墓に入ってみた
「父は俺が処刑しました」
クロワの唐突な告白にマギは絶句。
伊方を去った後の事情をマギはまったく知らない。
「強制されたわけじゃないです。志願しました。父親が犯罪者。俺自身も知らなかったとは言え犯罪の片棒を担いだ。……友達のツキザネを殺した。父を殺すくらいのことはしなきゃ、世間が俺を赦しちゃくれない。世のため人のために生きるなら、まずは自分の地位を守らなきゃいけなかった……」
下した結論が斧を振るうことだった。
体を震わせるクロワ。
労るようにマゴが、
「誠意は伝わりましたわ。その証拠に将軍陵墓の守り人という誉れ高い地位に就けましたものね」
「マゴ様が登用してくださったからです」
「おーひょひょひょひょ。おだてるのが上手ね、この子。マギお兄様、あなたと違って彼は真面目で働き者ですから、将軍陵墓の構造にも詳しいですわ」
「伝書鳩で事情はうかがってます。お役に立てるなら幸いです」
色々と言いたいことのあるマギだったが、とりあえず、
「妖怪は出ないのか? 以前、来た時は将軍陵墓の周りは妖怪だらけだったが」
「ここ最近は少ないですね」
「ふむ」
のんびりした兄の様子にイラついて、マゴは、
「妖怪が妖怪にビビってんじゃありませんわよ」
「どこから中に入れる?」
マギの質問にクロワが答える。
「上です。屋上の床に隠し通路の入り口があります。もちろん入ったことはないけど」
「階段を上るのは面倒ぞ。2人とも、余の背中に乗るがいい」
いぶかしむマゴとクロワを急かすマギ。
「飛ぶぞ」
「「えっ」」
空を飛ぶなど経験したことのないマゴとクロワである。
恐怖。
悲鳴。
全力でマギにしがみつくクロワ。
涙を流しながらマギをどつきまわすマゴ。
「ほら、着いたぞ」
「着いたぞ、じゃねーよ! 心の準備をさせろよ、おらぁ!」
弟に殴られても気にせず、マギは辺りを見回す。
屋上は大砲があるだけの簡素な空間だった。
床の真ん中に丸い扉らしきものがある。
「鍵がかかってるみたいなんです」
とクロワが申し訳なさそうに言う。
「ですけど……マギ様の力なら開けられるかなと」
「妖怪ですものね! 開けられるものなら開けてご覧なさいよ!」
マゴが高笑い。
「むぅ」
マギは考えた。
この扉には取っ手がない。
鍵穴すらない。
何らかのカラクリが仕掛けられているのではないか。
だとしたら最適解は力ずくではない。
「むん!」
固有能力【無効化━アヌリルン━】。
「あっ」
「あら」
クロワとマゴには何が何だかわからない。
誰も何もしていないのに扉がひとりでに動いたように見えたのだ。
「よし、行こう」
淡々としているマギ。
「ちょ……ちょっと」
マゴはまごつく。
「本当に入りますの?」
「そのために来たではないか」
「そうですけど……」
「嫌ならそこで待っていればよい」
「お兄様は何も感じないのですか!? 不敬だとか……不謹慎だとか……」
「余は公爵ぞ」
「バカすぎる!」
マギは無視して穴の中に入り込もうとする。
「おおおお待ちになって!」
「俺も!」
マゴとクロワが反射的にマギにしがみつく。
マギは翼をはためかせ、ゆっくりと穴の中を落ちていく。
「な、なんか不気味ですね……」
身震いするクロワ。
内部は薄暗い。
何が潜むかわからない状況。
雨から逃れられることくらいしか、いいところが見つからない。
「不敬ですわよ、クロワ殿!」
「すっ、すみません……」
本当はマゴも怖くて震えていた。
「中には妖怪などいないはずぞ」
マギが弟をなだめる。
「そそそそんなもの怖くありませんわ!」
「じゃあお化けが怖いのか?」
「……っ! この不謹慎妖怪! お化けが出てくれれば、どんなに嬉しいことでしょう!」
「将軍のお化けに会いたいのか?」
「会いたいに決まってるでしょう!」
「なにゆえに?」
マゴは怒りを通り越して呆れ果てた。
悲しささえ覚えた。
「本当にマギお兄様はバカになってしまわれたのですね」
「余は公爵ぞ!」
「じゃああなたの父親は?」
「……何だったっけ」
「松山藩主にして貴族院議員にして大公ですわ」
「そうだったそうだった」
「じゃああなたの母親は?」
「……何だったっけ」
マゴは憐れむような口調で、
「先代将軍閣下ですわ」




