第071話 〝伊方臨時町長〟大工部マゴ
「あ゛~。低気圧で最悪な朝ですこと」
前伊方町長・満丸モチミチの邸宅にて、大工部マゴが目を覚ます。
宇和島藩ではここしばらく雨が降り続いていた。
「それじゃあ早速、朝食を……の前に身だしなみを整えなくてはいけませんわ。持てる者は持てる物をふんだんに使うのが持つべきマナーですものね。こりゃ、召し使いや」
マゴの合図で召し使いの女性たちが寝室に入る。
運び込まれるのはメイク道具。
「おーひょひょひょ。江戸の老舗メーカーはいい物を売ってますわ。安物とは乗りが違いますものね」
「マゴ様、申し上げにくいのですが……」
侍従の一人がおずおずと、
「出費がかさんでおりまして……その……もう少しなんと言うか、こう……節約を……」
「じゃかあしい!」
「ひぃ」
マゴが机をドンと叩く。
「実家に無心すればいいじゃない! マガお兄様もマギバカお兄様も城から出てったんだから、その分わたくしたち兄弟の養育費の取り分が増えてんじゃねーの!?」
前町長辞職の後マゴが伊方町の臨時町長に採用された。
マグが城主筆頭候補となりマゲが嫁入り先を探す中、末子のマゴだけは暇を持て余していたためである。
正式に次期町長が決まるまでのお飾り。
だからマゴはのほほんと暮らしていた。
「政治とかわかんないしさ、女装くらいしかやることないんだっつーの。わたくしの唯一の生き甲斐を奪おうっての!?」
「だって女装とかバカみたいじゃないですか」
「はい、こいつ処刑で」
「ひ~~~っ。お助けを!」
連行される召し使いを横目に、マゴは、
「おーひょひょひょひょ。気分爽快。よい朝ですわ」
そんなこんなでメイクを終えると、マゴは居間へと向かった。
「騒がしいですわね。ちょっと、あなたたち! 町長の使用人としての自覚を持って! お上品なわたくしを見習ってくださいまし!」
「おはよう」
マゴを出迎えたのはドデカイ白鳥だった。
食卓に並ぶ食事をついばみながら、親しげに挨拶をする。
いや、そもそも本当に白鳥であれば人語を喋ることなどできないはず。
つまり、これは、
「よよよよ、妖怪ーーーーーー!!!!!」
マゴの悲鳴を受けて白鳥は溜め息。
「やはり兄弟の目にも余は妖怪として映るのか」
「はぁ!? わたくしとあんたが兄弟~!!? ふっざけんじゃねー! それじゃあ、わたくしも妖怪ってことになんだろうがよ!!!!!」
「余はマギぞ」
「!?」
「家を出た後も体の変化が続いて、こんな姿になってしまったぞ」
マゴは股間が白鳥になってしまった兄の姿を思い浮かべる。
そして目の前のクソデカ白鳥と比較する。
「……本当にマギお兄様なのですか……?」
「どうすれば信じられる? そちの隠し事を言おうか? ブラシを集めるのが趣味だと言いつつ、ブラシの棒の部分を使って夜な夜な――」
「やめろー! 殺せー! こいつを処刑しろー!」
「待て。余はそちを助けに参ったのだぞ」
「はぁ!?」
マギはこれまでのことを簡単に説明した。
にわかには信じがたいような大冒険。
引きこもりのマゴにとって刺激的な内容だった。
「……というわけで妖怪皇帝は船を手に入れたいと申しておったぞ」
「へぇ、お船を。妖怪のくせに結構な趣味ですこと」
マゴは食後のルイボスティーをすする。
「大陸にいる妖怪を船に乗せて、列島までやって来るらしいぞ。そうしてこの地を自分達の住みかにするらしい」
「マギバカお兄様、そんなことに荷担するおつもり!? 処刑しますわよ!」
「逆ぞ。余は皇帝よりも先に船のところまで行って、船を破壊する」
「ふーん。で、その船はどこにありますの?」
「将軍陵墓の中にあるらしい。だが、どうすれば中に入れるかわからないゆえ、そちを訪ねて参った」
あまりのことにマゴは絶句。
やがて大声で、
「不敬者!!!!!」