第063話 〝公儀祓除人〟金月タマキ
「背中ガラ空きっすよ」
タマキが妖怪を一刀両断。
守られた同僚ターマン・ホーマーは平身低頭。
「感謝でございます、タマキ様。わたくしめは手裏剣を得物とするため接近戦が苦手でございまして」
「んじゃわしが近くの妖怪を殺すんで、あんたは遠くのやつをやっちゃってくださいっす」
「承りましてございます」
全国各地の定期祓除を経験する中で、タマキはめきめきと成長した。
武士としての天性の素質に加え、命を惜しまない戦闘スタイルが強さの秘訣であった。
「俺の見込んだ通りだったぜ。あいつ強くなりやがって。俺も負けちゃいらんねぇな」
やや離れた場所で戦うカミルがにやり。
二刀流を振るう手に力が入る。
* *
「タマキ様は既にわたくしめを超えたかと」
反省会という名目のささやかな宴の場で、ホーマーは面目なさげ。
ひたすらタマキを持ち上げた。
「史上最強の公儀祓除人らしいぜ」
酒をあおりながらカミルが笑う。
緑刀使いの新人公儀祓除人は有名になっていた。
もはや出自を理由に資質を疑う者など一人もいなかった。
しかしタマキは謙虚に、
「わしなんてまだまだっすよ。ただあんたの正義の心に報いたいだけっす。そのためなら死んでもいいっす」
「確かにおめぇはどんな戦況でも周りをよく見てる。苦戦してるやつがいりゃ助けに入る。……だが自分のこととなるとダメだ」
カミルが刀を抜く。
タマキに向かって一振り。
たじろぐターマンとは対照的にタマキは動じない。
彼の背後でどさっと音がする。
真っ二つに斬られた蛇。
「敵は妖怪だけじゃねぇぜ」
不敵に笑うカミルに対してタマキは無表情。
「味方がいないことは知ってるっす」
「それは違いますよ、タマキ様」
蛇の死骸を処理しながらターマン・ホーマーが、
「お気づきでしょうがわたくしめの姓は一般的ではございません。これは日本ではなくアメリカという国で使用されていた姓だそうです」
「アメリ……? 藩じゃなくって国っすか?」
「かつては日本以外にも国があったようでございます。先祖から代々語り継がれていることに過ぎず、わたくしめ自身がこの目で確かめたことではございませんが。カミル様も旧姓は珍しいですよね」
カミルが話を引き継いで、
「ギューデンってんだ。俺の先祖はドイツって国にいたらしいぜ」
「へぇ。で、それが何なんすか?」
「おめぇの髪の色はどうよ。金髪だろうが。珍しい。おめぇだってどっか遠い国の子孫だろうぜ」
「わしが……」
「つまり俺たち3人は揃いも揃っていわゆる〝普通〟から外れてんのさ。そんな俺たちを繋ぐのは何だと思うよ?」
「利害っすか?」
「絆」
* *
「瀬良寺様!」
「お帰りなさいませ!」
「我が藩の誇り!」
御所藩に到着した一行は大歓迎を受けた。
カミルの故郷だからだ。
「てっきり飲めや歌えやの大宴会かと思ったのによ……」
カミルは嘆く。
藩のお偉方に各種の報告書の作成を求められ、缶詰状態にされてしまった。
ホーマーが遊びに出掛けた一方、タマキはずっとカミルのそばに控えていた。
特に話すことはない。
筆の音だけが部屋に響く。
「失礼します」
静寂を破ったのは一人の女性。
「弁当を持参しましたが……あら、お邪魔でしたか?」
「よせよ、ビタリア」
ビタリアと呼ばれた女はきっとタマキを睨んだ。
カミルの妻・瀬良寺ビタリアである。
「お初にお目にかかるっす。わしは金月タマキっす」
「お出掛けにならないのですか? 久々の休息でしょうに。それともここで私の夫と2人きりでいる方が楽しいですか?」
自分に向けられるトゲに理由を見つけられず、タマキは戸惑う。
妻の言動にカミルは苛立ちを隠せず、
「帰ってくれ。俺は仕事をしてんだ」
「あなたもなるべく早く家に帰ってくださいね。子供が待ってますから」
「……ああ……」
「親が子に背中を見せる。家を守ることを名誉と心に刻み込む。家族が仲睦まじく暮らす。大切なことです。そして……とても普通のことです」
ビタリアが部屋を出て行くとカミルはごろんと横になる。
「いいっすね、帰るところがあるって」
何気なく口をついた言葉がタマキ自身をなぜか傷つけた。
カミルは吐き捨てるように、
「自分が普通じゃねぇことを思い知らされる場所さ」
カミルの言っている意味がわからず、タマキは何も言えなかった。
気まずさをまぎらわすために書類の整理をしようと、机に近づく。
「……これ……」
なんのことはない。
カミルはろくに報告書の作成をせずにラクガキばかりしていた。
絵だらけの紙。
そこに描かれているのは自分達の似顔絵。
その中でも一番数が多く尚且つ綺麗に描かれているのはホーマーだった。




