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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第6章 〝ネクロポリス〟死の都
57/111

第057話 どこか遠くに飛んで行きたい

 数日後、穴は完成した。

 粗削りだった穴は丁寧に整えられ、そばには土が山の形に盛られている。


「「「「「宴だ!!!!!」」」」」


 満月の夜。

 田村町の人々は穴を囲うように集結。

 いつになく豪華な食事が用意された。


「今夜は食べ放題ではないか!」


 喜ぶマギだが、


「あんたはいつも食べ放題、飲み放題、寝放題でしょ」


 と町民に笑われた。

 さて、宴会の主役はもちろんキビである。


「皆の者、拍手で迎えてやろうぞい」


 キビの祖父である町長が張り切る。

 大きな拍手に包まれながら、キビがゆっくり歩いて登場。

 リケイカインが製作を手伝った、もこもこの衣装を着ている。

 まるで雲が地を這うように見えた。


「「「「「乾杯!!!!!」」」」」


 食糧も水も不足している町。

 だが今夜は節約なんてしない。

 なぜなら、


「キビのおかげでもうすぐ雨が降るんだから!」


 誰もが楽観的だった。


「キビにしか任せられない仕事だったぜ」

「そうだよな、うちのガキはガリガリでまともに動くのも大変だもん」

「町長の孫だからいいもの食ってたんだろう」

「それにしても上手に掘ったもんだ」

「雨乞いのために生まれてきたような子だ」


 大人たちにちやほやされて、キビはにこやか。


「マギ、どうぞ♡」

「もう飲めないぞ」

「じゃあ、食べて♡ あ~ん♡」

「もう食べられないぞ」


 遠慮という言葉を知らないマギ。

 腹十分まで飲み食いした後は本能のまま眠りにつく。

 枕にするのはリケイカインの硬い膝。


「おやすみ、マギ♡」


     *     *


「よしよし」


 浅い眠りの中でマギは夢を見る。


「いい子いい子」


 温もりがマギを包む。

 それが誰なのかはわからない。

 視界がぼやけている。

 悪い気はしない。


「そちは誰ぞ?」

「いつまでも寝てていいんだよ」

「うむ」

「マギちゃん、愛してる」


     *     *


「「「「「よいしょー」」」」」


 だが夢は長く続かなかった。


「何事ぞ?」


 町民の掛け声がうるさい。

 大人たちが穴の周りで何かしている。


「まだ食事しているのか? 意地汚いやつらぞ」


 マギは立ち上がり、ふらふらと近づく。

 寝ぼけた眼をこするうちに視界が鮮明になる。

 キビが埋められている。


「何をしている!?」


 一気に眠気が吹き飛ぶ。


「キビを殺すつもりか!?」

「邪魔すんじゃねぇ、アホ妖怪」


 町民がマギをどつく。


「キビが起きたらどうすんだ」


 大人たちは掛け声の他には無駄口を叩かず、せっせと土を穴に戻していく。

 穴の中にいるキビが次第に見えなくなる。


「なにゆえ止めないのだ!? そこの者ども! そちらはキビの両親ではないか!」


 キビの父親と母親がいつものように笑っている。


「民を守るのが公爵の務め!」

「マギ、ダメ」


 白鳥を暴れさせようとしたマギ。

 リケイカインがそれを阻止する。

 黒鳥を白鳥に絡ませた。


「リケイカイン君は賢くて助かるぞい」


 町長が笑う。


「雨乞いの儀式を邪魔されるわけにはいかんからのぉ」

「人の命を犠牲にすれば雨が降るのか!? 迷信ぞ!!!」

「ところがどっこい。迷信ではないぞい。この辺りにはお目見(めみえ)という妖怪がおるんじゃ」

「……お目見……?」

「そいつは穴の中の生き物を掘り出して食らうんじゃが、腹がいっぱいになると雨雲を呼ぶんじゃ。どうしてそんな固有能力を持っておるのかは知らんがの」


 迷信ではないらしい。

 となれば、むしろ穴埋めを手伝った方が民のためなのではないか。

 しかし一人の少年の命を引き換えにしてもいいものか。


 ――胸が苦しいぞ。


 マギは答えを出せない。

 ただ苛立ちを衝動に変えて暴れるしかできなかった。


「マギ、余計なことはしないで」


 リケイカインがマギを全力で押さえ込む。


     *     *


 キビは夢を見る。


「翼が生えてる!」


 背中に鳥の翼。

 まるでマギのように。


「もしかして妖怪になっちゃった? それは嫌だな……でも……」


 わくわくが止まらない。

 翼をはためかせると、足が地面を離れた。

 下は見ない。

 満月が光り輝く夜空。


「どこまでも遠くに飛んで行こう」


 キビは覚めることのない夢を見た。

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