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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第6章 〝ネクロポリス〟死の都
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第055話 雨乞いをする少年

「世界は広いな」


 見下ろす限り、どこまでも豊かな国土が続く。

 マギはリケイカインとともに空を飛んでいた。

 彼らには翼がある。

 わざわざ地べたを歩き回る必要はなかった。


「こんなもんじゃないよ、世界の広さは」


 リケイカインはいつも通りニヤニヤ。

 少しイラついたマギは白鳥でどつきをかましてから、


「そちは理想郷の場所を知っていると申したな」

「そうだが?」

「遠いのか?」

「もう着いたよ」

「むぅ?」


 降り立ったところは荒んだ土地。

 御所藩とはまるっきり逆で、あらゆる植物に生気がない。

 土がからっからに乾いている。


「余は理想郷を所望したはずぞ」


 詰め寄るマギ。

 リケイカインはそれを無視して、


「あれ見て」


 リケイカインが示したのは一人の少年であった。

 マギと同じくらいの背格好。

 目を真ん丸にして、マギとリケイカインを見つめている。


「お前ら妖怪か?」


 それは当然の発想であり、そして紛れもない事実である。

 とは言え、面と向かってはっきり聞かれるとマギは答えに窮する。

 イライラを相手にもぶつけてやりたくて粗探しをする。


「そちこそヘンテコではないか。首輪をつけられリードに繋げられるなど、人間らしくないぞ」

「翼があるなんて羨ましいな。お前らどこにでも行けるんだろ」

「追放されたから仕方なく飛んできたまでのことぞ。それより何をぼーっとしている。余は公爵ぞ。もてなすがよい」

「見てわかんない? 俺、忙しいんだよね」


 少年の手にはシャベルが握られている。


「町を救わなきゃいけないんだ」


 彼は大きな穴の中にいる。

 おそらく自分で掘ったのだろう。

 マギは眉をひそめ、


「平民に民を救う務めなど分相応ぞ。大体、穴を掘ったところで民を救えるわけなどないであろう」

「うるせー! キモイ妖怪のくせに偉そうなこと言うな!」

「余は公爵ぞ!?」


 生意気な少年に怒り心頭に発したマギ。

 しばいてやろうと白鳥を伸ばす。


「汚いモノ近づけんじゃねぇ! 大人を呼んでやるからな!」


 少年は首輪に付いている鈴を鳴らした。


「どうした、キビ!」


 わらわらと駆けつけた大人たち。

 マギとリケイカインを見てびっくり。


「妖怪だ!」

「もう来たのか!?」

「まだ宴をやってないけど……」


 ざわめき。

 混乱する人々をなだめたのは一人の老人だった。


「落ち着け、皆の衆。まだ時は満ちておらんぞい。そやつらはてんで関係のない妖怪じゃ。とは言うものの、ここにいられたんじゃ迷惑じゃ。どうにか追っ払わんとな」

「よろしくー♡」


 リケイカインは媚びへつらうような挨拶をした。


「バカめ。そのような態度で受け入れられるものか」


 舌打ちするマギだったが、意外にも町長は、


「喋る妖怪とは珍しいぞい。おまけにかわいい。うちで飯でも食っていかんか?」


     *     *


 2人を受け入れてくれたのは田村町。

 家は荒れ、着物はぼろく、人々は痩せている。

 とても理想郷とは呼びがたい地。

 そのことは町民も自覚しているらしく、


「まともな食事も出せずに申し訳ないのぉ」


 自宅に2人を招いてからも、町長は気恥ずかしそうな様子を隠せずにいた。


「余にはビタリア殿より差し出された干し肉がある。おかずにちょうどよい」

「マギ、ちょっとちょうだい♡」

「黙れ」

「マギ、好きぃ♡」


 どうしようもない妖怪たちを眺めながら、町長はにこにこ。


「ところで、どうしてこのような荒れ地に参ったのかな? 町長のわしが言うのもなんじゃが、ここには何にもないぞい。ずっと日照りが続いておってな、飲み水も食糧も尽きかけておるわい。わしらみんな飢え死に寸前じゃて」

「お上に頼ればよいのではないか?」

「幕府は無策じゃよ。あいつらは妖怪退治も食糧不足も全部ほったらかしじゃわい。まあ、こんなこと妖怪のあんたらに愚痴っても仕方ないがのぉ。ほほほ」

「うむ……」


 この時ばかりは公爵の身分を明かせないマギであった。

 町長は表情を明るくして、


「じゃが、もう少しでこの苦境ともおさらばじゃよ」

「妙案があるのか?」

「孫に雨乞いの儀式をさせるでな」


 穴を掘る少年・キビのことである。


「なーんだ、結局迷信にすがっているだけではないか。そんなことより理想郷の在処を知らないか?」

「理想郷じゃって?」


 町長は一笑して、


「昔から人は理想郷を求めとるのぉ。妖怪のいない場所。食に困らない肥沃な土地。そんなものはないんじゃよ。生きるとは、妥協。何かを諦めて細々と生きるしかないんじゃ」

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