第053話 人間なんて
「そんじゃ復興事業の経過報告をお願いね」
あれから数日。
妖怪と化した人々が混乱して行なった家屋の破壊。
状況を飲み込めない人々による妖怪討伐。
蚊虻教に対する暴動。
混乱に乗じた犯罪事件。
混沌からの回復に、新体制の御所藩が挑んだ。
「瓦礫の撤去はほぼ完了れあります」
ここは城内の会議室。
元気よく発言するのはサクラ。
藩主・サソリの号令により、御所藩における被差別身分は撤廃された。
「サクラちゃん、すごーい!」
サソリが幼い復興隊長をべた褒め。
「ところで悪いやつらにいじめられてない? もう差別とかない?」
「大丈夫れあります。妖怪がいっぱいなのれ、身分を気にする人がいないれあります」
「よかったー。で、妖怪になっちゃった人たちは大人しくさせられた?」
サソリに話を振られたのは瀬良寺。
「妖怪になった本人も、家族が妖怪になった人々も、徐々に落ち着きを取り戻しています。マギとリケイカインの存在も大きいようです。彼らに御所藩の子供のふりをさせました。妖怪になったにもかかわらず楽しく過ごす様子は、特に大人たちの心に響いております」
「妖怪になった人たちは暴れてない?」
「棍棒を用いた厳しい指導を繰り返した結果、問題を起こす者はいなくなりました」
「怖……」
結論としては、復興の目処がそれなりにたったということ。
すかさずビタリアが、
「サソリ様、そろそろ息子を江戸に発たせてくださいませ」
「いいよー」
サソリは軽いノリで返事をする。
「むしろ今までありがとうね。おかげですっごく助かった」
「公儀祓除人として当然のことをしたまでです」
瀬良寺は謙虚に答えた。
「これからは将軍様の護衛かー。おめでとう。御所藩主の誇りだよ、瀬良寺ちゃんは」
* *
「誇りを持って生きなさい」
出立の日を迎えた瀬良寺。
見送る母からはいつも通りの厳しさ。
「復讐はむしろ誇りを奪います。私自身も愚かでした。もうあなたは家業である将軍様の護衛にだけ集中なさい。父上が果たせなかった夢を息子が果たす。これが人の道です」
「心得ております」
「江戸は都会です」
「は?」
「悪しき心を持つ者も多いでしょう」
「何のことです?」
「変な女に騙されないように。あなたの結婚相手は私が選びます」
思わぬ提案に瀬良寺は頭を抱えた。
――いっそ本当のことをぶちまけてみようか。
ふと頭をよぎる憎悪をすぐに打ち消す。
サソリとルドルフの愛。
神葉の父への想い。
それらに触れて、わかったことがある。
――父上は自分を圧し殺したんじゃない。父上なりに母上への愛を全うしようとしたんだ。今なら父上を誇りに思える。
「母上、お体にお気をつけて」
ただ健康だけを願うことにした。
それからマギとリケイカインを見て、
「お前たちはやはりここに残るのか?」
「余には行く宛もしたいこともないぞ。もうこの体はきっと元には戻らないであろうから」
「リケイカインは? ……聞くまでもないか」
マギに密着してどつかれるリケイカイン。
見慣れた光景に瀬良寺は微笑む。
「楽しい旅だった。色々と助けられてばかりだったな。いつかまた会えたら、今度は私が助けになるよ」
瀬良寺は旅立った。
「……暇ぞ……」
「男子たる者、国家のために死ぬべきです」
虚無なマギに対し、ビタリアから強い思想が繰り出される。
「マギ、好きぃ♡」
リケイカインはマギさえいれば幸せそうだ。
だがビタリアがそれを許さない。
「男同士で、なんてこと!」
リケイカインの硬い体を、ビタリアがぽかぽか殴る。
「こんな暮らしも悪くないぞ」
目を細めるマギ。
冷たい風が吹く。
秋が近い。




