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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第5章 〝アンソポリス〟花の都
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第052話 鬼

「父上を殺したのはなぜだ?」


 悲願だった。

 父親を殺した犯人を突き止め、復讐する。

 そのために公儀祓除人になった。

 ようやく見つけた犯人が旅を供にする師匠だったのはつらい。

 だが、だからこそ、どうしても聞き出さねばならない。


「理由なんて聞くまでもありません!」


 それなのに母親であるビタリアは吐き捨てる。

 困惑する瀬良寺。


「どうしてですか、母上」

「わかってるんです。どうせ……痴情のもつれでしょうから……」


 瀬良寺の脳内によぎる。

 実家にて母が打ち明けたこと。

 神葉が父の心と命を奪った、と。


「……愛が原因なのか……?」


 どうしても瀬良寺は神葉本人の口から聞きたかった。

 変性意識状態の神葉に記憶を探らせる。

 父との関係。

 裏切りの真実。

 すると神葉の口から予想外の言葉が出てきた。


「んー……正義っす」

「……父上が不正を働いたと?」

「あんたの親父さんは……正義の人だったんす。わしは穢多だったけど……身分じゃなくて実力を評価してもらえて……取り立ててくれたっす」


 神葉の出自に驚きつつも、瀬良寺は矛盾を見逃さない。


「父上は人として正しいではないか?」

「人として間違ったことを……したんすよ。……あの人は本当は同僚の……ターマンを愛してたっす。なのに……自分の心を偽ったんす。……愛してもいない女なんかと……」


 ここでビタリアが我慢の限界。

 神葉を木刀でしばき倒しながら、


「何が正義ですか! つまるところ、ただ嫉妬しただけでしょう! 大体、ターマンとやらではなくあなたがあの人を……」

「母上、落ち着いてください!」


 瀬良寺がビタリアを押さえる。

 もう十分だった。

 これ以上尋問を続けても暴力を振るっても、


「どうしようもないんです……」


 身につまされる瀬良寺であった。


「だから……鬼が……鬼を退治する時に……わしは……わしは……」


 なおもぶつぶつと呟き続ける神葉。

 沈黙する一同。


「てかさ」


 口火を切ったのはサソリだった。


「どうせ妖怪になるなら、もっとかわいいのがよかったんだけど」


 サソリとルドルフがなった姿は呑し友駁。

 頭頂部についた口から人語を発することができるのは不幸中の幸い。

 見た目の醜悪さはかなり不幸だった。

 ルドルフは甘えた声で、


「2人の思い出の妖怪だから、これがいいかなぁって思ったんだぁ」

「んもぉ、好き!」


 姿形は変わっても、変わらない熱愛っぷり。

 永遠不滅の愛を誓ってから、サソリは申し訳なさそうに、


「ごめんねぇ、土壇場で蚊虻教に寝返るようなことして」

「でもこれでサソリ様とぼくの子供ができるよぉ」

「んもぉ、みんなの前でそんな……。あれ? でも、卵でしょ? それってどうやって作んの?」

「知らなぁい」


 救祖が代わりに答える。


「まず産卵する。次に、お相手が卵に命を込める。たったそれだけの簡単なお仕事ですぅ。たーっくさん卵を産んでくださいね。そうしたら今度はその卵を使って、他の藩の人たちを妖怪にしますから」


 あっけらかんとのたまう救祖。

 その様子からは命に対する敬意など微塵も感じられない。

 強烈な視線が救祖に集中する。


「おやおや、なんか険悪な雰囲気ですけど。私を殴るつもりですかぁ?」

「殴られたら多少は正気を取り戻すのか?」

「瀬良寺くん、きみ厳しすぎでしょ! ま、捨てる神あれば拾う神ありってところですかね。お迎えが来たようです」


 轟音と突風。


「妖怪……!?」


 大きな人型の何者かが飛んで来た。

 マギがそれを妖怪と断言できなかったのは、どことなく生き物らしさを感じられなかったからだ。

 体の形や質感に対する違和感。

 まるでそれは、


「物のようぞ」

「鬼です!!!!」


 ビタリアが叫ぶ。


「みんな、退がれ!!!!」


 瀬良寺が指示を出す。

 対峙するのは初めてだが、あまりにも強いという噂は聞いていた。

 そして今まさにその噂が正しいことを知る。


「ぐっ……!」


 鬼が瀬良寺を蹴飛ばす。

 次にリケイカインを。

 そしてマギを。


「おい神葉。しっかりしろ」

「わしは……わしは……」

「ダメだ、こいつ。あ、鬼さん、こっちです。私とこのおっさんの2人をお願いします」


 救祖は当たり前のように鬼に話しかける。

 鬼は頼まれた通り、救祖と神葉を背負って浮遊する。


「逃がさない!」


 気合いで立ち上がった瀬良寺。

 棍棒を鬼にぶつける。

 心臓を破裂させる毒を使って。

 しかし、


「効かない!?」


 鬼は倒れることなく飛び去った。

 手を振る救祖。


「またねー」

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