第051話 マスクの下には
「金月タマキ」
そう呼ばれたのは神葉。
「私は父上の報告書を発見しました」
瀬良寺は眉間にしわを寄せながら、
「そこにあったのは、あなたにそっくりの似顔絵。そして父の姓名……ギューデン・カミル。あなたの姓名にそっくりだ」
神葉ギウデは一切、表情を崩さず、
「偶然ってあるっすよね」
「なぜ父上を裏切った!? なぜ私を欺いていた!? 答えてもらおうか!」
瀬良寺が棍棒を構えて突進する。
神葉との一騎討ち。
「上半身ばかり前に出て、下半身がついてこれてないっすよ。ほら、バランスを崩したっしょ」
「今さら師匠面をするな!」
「どんな時も冷静に。ほら、視野が狭くなると死角が増えるっす」
だが実力では神葉が遥か格上であった。
「悪いっすけど早めに片付けるっすね。あんたの後ろに本命がいるんで」
神葉は難なく瀬良寺を追い詰めた。
刺し殺そうと刀を振り上げたところで……
「誘われたな」
「……へぇ」
瀬良寺の作戦勝ち。
わざと押されているように見せかけ、確実に一撃を加えた。
そう、たった一撃だけでよかった。
「〝捧棒〟鬼殺しの新能力【幻覚━ハルシナツィオン━】!」
立ち尽くす神葉の耳元で、瀬良寺はささやく。
「お座り」
言われた通りにする神葉。
瀬良寺はまだ神葉から聴取を行なおうとはしない。
優先すべきことがある。
「マギ、リケイカイン、やつを任せた」
カラクリを背負い飛行する救祖。
神葉の失態を受け、この場からの逃走を図った。
「リケ、どうにかしろ」
「あい♡」
リケイカインが飛ぶ。
リケイカインは黒鳥を伸ばし、救祖を串刺しにしようと試みる。
「串刺しになるのはお前たち鳥ですぅ」
救祖は銃をぶっぱなす。
放たれるのは銃弾ではなく、串。
ただちにリケイカインは体を硬質化。
「マギ、下がってて! 守ってあげる♡」
「あやつを鳥で縛れ」
「縛るだけ?」
「美味しいところは余に寄越せ。同じ目にあわせてやる。自由を奪うやつから自由を奪うぞ」
「あい♡」
黒鳥が救祖をがんじがらめにする。
「ヤバっ……戦うのはやめて話し合ってみませんか?」
猫なで声を出す救祖。
しかしマギは冷たく、
「だったら、まずはマスクを外せ。余は公爵ぞ」
白鳥のくちばしが救祖のマスカレードマスクを穿つ。
砕け散るマスク。
あらわになった素顔は、
「どこかで見たことある気がするぞ」
首をかしげるマギ。
救祖はうなだれて、
「本当、癪にさわるバカですねぇ」
「余は公爵ぞ!」
「私だって公爵ですぅ」
「むぅ?」
「お前は兄の顔も忘れたんですか?」
マギは5人兄弟である。
ただし長男はすでに死んだとされている。
瀬良寺が神葉に指示を与える。
「記憶を覗け。お前が仕える大工部家に関する記憶だ。救祖の正体がマギの兄だというのは本当か?」
「う……う……マジっす」
大工部家の長男・マガ。
「こんなやついたか……?」
バカなマギには記憶がなかった。
瀬良寺には確認したいことがあった。
加古川で救祖が、
「父の死の真相を知りたくないですかぁ?」
と示唆した件だ。
「お前にとってメリットのある言動だったとは思えない。私たちが御所藩に来ない方がよかったはずだ」
「……長男はつらいじゃないですか」
悲しげな笑みを浮かべ、救祖は、
「本来だったら私が松山藩主後継の第1候補ですよ? で、そこのバカが蚊虻教の救祖を務めるはずだったんです。それなのに次男の頭がイカれすぎてとても外に出せないってことで、私がどさ回りです」
「なるほど。お飾りの藩主はバカでも務まるが、実務は任せられないということか。で、その話が私とどう繋がる?」
「同じ長男同士わかり合えるかなって」
要するに勝手な同情だった。
瀬良寺は困る。
「いや、私は一人っ子だから……」
「……」
救祖ことマガに対する聴き取りは終わり。
「では聞かせてもらおうか」
瀬良寺が神葉に睨みをきかせ、
「父上を殺したのはなぜだ?」




