第050話 よしよし偉い偉い
「神葉、どうしてそんなやつの言いなりになるのだ!?」
マギは神葉相手に苦戦していた。
「救祖はとんでもなく身勝手なやつぞ!」
「あんたも中々っすよ」
神葉は強い。
その上、マギを間近で見てきた。
性格も戦法も熟知している。
間合いに入るくらい造作もなかった。
ただ一点、
「飛べるようになったんすか!?」
マギに翼が生えたことだけは想定外だった。
殺すつもりの一振りを回避される。
すぐにもう一度狙いを定めようとしたが、
「稽古をつけていただこうか」
棍棒で殴りかかられた。
「瀬良寺殿じゃないっすか! 相手を間違ってるっすよ。救祖様を倒すのが公儀祓除人の務めっしょ?」
「公儀祓除人は引退だ。私は私怨のために戦う」
神葉を瀬良寺が引き受けたため、マギはすることがなくなった。
周囲を見渡せば妖怪の卵が飛んでいる。
サソリとルドルフが卵を割って浴びている。
城下を見下ろせば人々が妖怪化している。
――一度妖怪になったらもう元には戻れないというのに。
惨状から民を守ることができなかった。
「余は公爵失格ぞ。人間もちょっと失格ぞ……。神葉、余は一体どうすれば……」
頼れる人はもういない。
* *
「きりがない!」
城門付近では依然としてビタリアが蚊虻教信者たちを相手に戦っていた。
思いの外、信者の数が多くて決着がつかない。
「一旦引いら方がいいれあります!」
サクラが叫ぶ。
戦いに慣れていない穢多たちに疲れが見えていた。
更に、
「卵みらいなのが飛んれるし、様子が変れあります!」
「情けない! 男子たる者、敵前逃亡を恥と心得なさい!」
「卵が落りれ来るれまります!」
穢多や信者のうち何人かが妖怪になった。
「なんとおぞましい……」
さすがのビタリアも青ざめる。
そんな彼女の頭をめがけて卵が落下し始めた。
悲鳴。
* *
その一部始終をマギは見ていた。
「母上が!」
うじうじしている場合ではなかった。
咄嗟に翼をはためかせ飛び降りる。
「母上が?」
マギの言動と行動の意味を察した瀬良寺。
神葉との戦いを中断し、マギの後を追う。
――こんな簡単なことをどうして忘れていたんだ。
マギも瀬良寺も同じことを考えた。
――民を守るために力がある。
「リケイカイン、頼む!」
「あい!」
瀬良寺はリケイカインに飛び乗り、降下。
「おわぁぁあぁ」
「マギ、落ち着いて。飛べてない。落ちてる」
リケイカインがマギにアドバイス。
「飛んでる自分を想像して」
「むうぅ……」
なんとなく勘をつかんだマギ。
一直線に卵に向かう。
「母上は任せた!」
瀬良寺はサクラの方に向かう。
サクラの頭上にも卵。
妖怪化の危機が迫っていた。
「でぇええぇぇぇぇい!」
マギは白鳥を伸ばす。
瀬良寺は棍棒を振るう。
割らずに、かっ飛ばす。
卵は遥か彼方へ。
「サクラ、これで借りは返せたか?」
瀬良寺は着地し、サクラに問う。
「お釣りが出るれあります」
サクラは微笑んだ。
「公爵様……そのお姿は……」
「いや、これは……」
一方、マギはビタリアの前でもじもじ。
股間や背中を隠し、
「醜い姿で申し訳ないが、余は……余は……」
「ご立派です!」
「えっ」
「ご自身の危険をかえりみず、自ら死地に突入するお姿、ご立派です。民のためにこそ、権力はある。そうでしょう、公爵様」
思わぬ褒め言葉に、マギは涙を浮かべる。
「母上ぇ~!」
「私はあなたの母上ではありません!」
穢多たちは戦いを中断し、避難を呼び掛ける業務に移行。
サクラ、ビタリア、瀬良寺はマギとリケイカインに搭乗する。
「改めて、いざ蚊虻教退治!」
あっという間に城の最上階へ。
「とにかく救祖を退治すれば解決ぞ!」
元気を取り戻したマギ。
しかし神葉が立ちはだかる。
「覚悟はできたみたいっすね」
「あなたは……!」
ビタリアが驚愕の表情を浮かべる。
「母上、私の想像ではこの者が父上の仇ですが……いかが」
瀬良寺が確信をもって尋ねると、ビタリアは、
「そうです。あなたの父を裏切った公儀祓除人……金月タマキです」




