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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第5章 〝アンソポリス〟花の都
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第049話 卵が空を飛ぶ

「今からこれ全部使って、御所藩の民を妖怪にしちゃいます♪」


 救祖が今にも実行に移そうとする。

 しかしマギはショックで体が動かない。


 ――妖怪の卵の中身を浴びたら妖怪になる。それが本当なら余はもう……。


 無能な公爵の傍らで、有能な男爵・サソリが毅然と抗議する。


「妖怪になりたい人だけ妖怪になれば? サソリはそんなのになりたくないし、人の自由を無視するようなやり方、絶対に許せないんだけど」

「サソリ様も一緒に妖怪になろうよぉ」


 おねだりするのはルドルフ。

 妖怪の卵をサソリに押し付けながら、


「妖怪になったら幸せになれるよぉ」

「やめて、ルドルフちゃん! どうしても蚊虻教の味方をするつもりなんだったら、サソリは藩主として……ルドルフちゃんを討たなきゃいけなくなるよ」

「ふえぇ……」


 涙目になるルドルフに代わって、救祖が言い返す。


「なんと! 妖怪になれば、卵を産めます」

「サソリは産卵なんかしたくない!」

「ルドルフ様との間に子供がほしくはないですかぁ?」

「……え?」

「妖怪には性別の概念が無いんです。種族が同じであれば、卵を産めますよ。ルドルフ様にお渡ししたのは同じ種族の卵です。ほら、模様が同じでしょ」


 救祖の言葉がサソリの心を揺らす。

 サソリの政治思想は完全に把握されていた。


「ちなみに階級も無いです。人間みんなが妖怪になったら、穢多制度も同性愛者差別も解消よ? これヤバない? 妖怪にならなきゃ損ですよね」

「……でもサソリは藩主として……」

「じゃあお聞きしますけど、サソリ様はどんな差別解消プランをお考えですかぁ? 差別する人を殺す以外に、あなたにできることってありました?」


 サソリが臣下一同を殺したことすら、救祖は知っていた。

 そう、サソリは人を殺したのだ。

 有事とは言え、自分の臣下すら説得できなかったのだ。


 ――サソリに偉そうなこと語る資格ないね。


 サソリはうつむいた。


「じゃ、卵をばらまいちゃいまーす」


 うきうきの救祖。


「させないぞ!」


 マギが白鳥を伸ばす。


「もう余には何もわからないぞ! そちに八つ当たりしてやる!」


 もちろん、狙うは救祖の命。

 白鳥に対抗しうる武器を持たない救祖だが、


「神葉、殺せ」


 紅の刃がきらめく。

 マギにとってはとてもよく見慣れた〝尊刀〟アレキサンドライト。

 その持ち主は、


「神葉!!!!!」


 マギが叫ぶ。

 救祖を刺そうとした白鳥は刀に弾かれる。


「なにゆえに邪魔をするか! そもそも今までどこに行っていた!!」

「お久しぶりっすね」

「どけ!」

「相変わらず察しの悪い人っすね」


 神葉は強い。

 白鳥をいなしつつ、着実にマギとの距離を詰めていく。


「こうしている間にも民が妖怪にされてしまいそうなのだぞ!」

「よいしょー」


 マギは間に合わなかった。

 救祖が天井から垂れる紐を引っ張る。


 カラクリ、作動。


 無数の卵が飛行する。

 卵の一つ一つにカラクリが取り付けられている。

 あまりの数の多さに、誰もが為す術を持たない。

 無理に叩き落とそうにも、


「割って中身を浴びたら妖怪になってしまうっすよ! マギ様、手を出したらダメっすからね!」

「余は……すでに妖怪かもしれないぞ!」


 神葉の忠告を無視して、マギは白鳥で卵を叩き割ろうとする。

 しかし、


「たまには言うこと聞いてくださいっすよ!」


 神葉に阻止された。


「わぁ♡」


 我関せずのリケイカイン。

 ニヤニヤしながら窓の外を眺める。

 卵が空を飛ぶ。

 夜が明ける。


     *     *


 御所藩の人々が目を覚ます。

 一日が始まる。

 蚊虻教に入信している者は教会に行く。


「妖怪と共存できる平和な世界が訪れますように」


 誰もが当たり前の日常を送る。

 いつもと違うのは空から降る卵の雨。


「妖怪だ!」

「こっちにも!」

「妖怪はお前だろ!」

「俺も妖怪になっちまった」

「あなた!」

「神様、助けてくれ!」


 様々な種類の妖怪。

 多様性に満ちた社会。


     *     *


 城の中ではサソリとルドルフが卵を割った。


「妖怪になっても愛してる」

「ぼくもぉ」


 離れたところから2人を見つめる瀬良寺。


「どうぞ、ご自分のお好きなように。私も今は立場を忘れたい」


 そして瀬良寺は神葉を睨んだ。

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