第047話 辿り着いた答え
サソリと瀬良寺が階段を駆け上がる。
「二手にわかれましょう」
サソリは一人で片っ端から戸を開けていく。
「妻ちゃん、どこー!? ルドルフー! バカチビー!」
「無礼者!」
広間には殿様と数名の家臣が勢揃いしていた。
どことなくサソリに似ている殿様は、
「私を誰だと思っておる! 御所藩主・風詠サソリであるぞ!」
「へー。そりゃ失礼しました、藩主様」
「あっ……ご本人」
偽サソリは慌てた。
本人と鉢合わせた場合にどうするかは考えていなかった。
家臣たちは正真正銘、本物。
彼らもまた行方不明になっていた藩主の帰還に驚く。
「サソリ様、よくぞご無事で……」
「どの口で言うの! 蚊虻教に洗脳されて、サソリを殺そうと企んで、サソリの偽物を用意したくせに!」
「洗脳ではありません。我々は心から蚊虻教の教義に感服しておるのでございます」
「もっとひどいじゃん!」
家臣一同は熱心に蚊虻教の良さをまくしたてる。
曰く、蚊虻教には理想があるだの、人類と妖怪の種を超えた平等が実現されるだの。
「サソリにだって理想があるよ。穢多を解放して人類平等を実現したいもんね」
「とんでもない愚策です! ……畏れ多くも申し上げますと、サソリ様ではお世継ぎすらままなりません。我々としては蚊虻教こそ我が藩にふさわしいリーダーかと」
「あんたたちさ、ただ保身に走ってるだけじゃない?」
決裂。
――どうせこの人たちとは分かり合えないって思ってたけどね。
それに何よりサソリの怒りは偽藩主に向けられていた。
「似てないっつーの! サソリはもっと美人だもん!」
サソリは髪飾りを外す。
形状が変わり、武器になる。
まずは偽藩主を、それから手当たり次第に家臣を殺害していく。
「サソリ様、ご乱心か! ただでは済みませぬぞ!」
しかしサソリは慌てずに、
「蚊虻教に殺されたってことにすればいいの」
「お待ちを! 話せばわかる……」
「ごめんね? サソリには、これ以外の解決方法は思い付かない」
城が血に染まる。
* *
「止まってください」
一方、瀬良寺は突然に声をかけられて驚いた。
無我夢中で城内を走っているところだった。
「……何者だ……?」
瀬良寺は棍棒に手をかける。
相手は重傷を負った人物。
しかし、なかなかの手練れであると感じられた。
「わたくしめはターマン・ホーマー。公儀祓除人でございます」
「なに?」
ターマンは手裏剣を飛ばした。
手裏剣が刺さった床が開く。
落とし穴だ。
下には無数の刃がきらめく。
「……感謝する。あなたが引き留めてくれなかったら私は負傷していただろう」
瀬良寺はまだ警戒を緩めずに、
「申し遅れたが、私も公儀祓除人。瀬良寺サンと申す者」
「存じております。お父上によく似ておられます」
「父上とお知り合いか?」
「……」
ターマンはうずくまる。
出血が止まらない。
「ターマン殿、手当てを!」
「それには及びません」
「しかし……」
「書庫をお探しなのではございませんか?」
「どうして、そのことを」
「わけあって蚊虻教に潜入しておりました。書庫までご案内できます。さあ参りましょう。わたくしめの命が尽きる前に」
必死で使命を全うしようとするターマン。
その姿勢に、瀬良寺は感銘を受けた。
「あなたを傷つけた蚊虻教の輩には報いを受けさせましょう」
ターマンは苦笑した。
* *
やがてたどりついた書庫で、瀬良寺は父の報告書を探す。
そこに、父を殺した者の手がかりがあるかもしれない。
藁にもすがる想い。
「……〝公儀祓除人〟ギューデン・カミル……?」
ふと目についた一冊の本。
見覚えのない姓と見覚えのある名前。
「あなたのお父上の旧姓でございます」
「……ターマン殿、あなたはなぜ私に協力してくれるのですか?」
「……あなたさまとわたくしめは同じでございます」
「それは……」
「本を開いてみてください。カミル様は絵を描くご趣味がございましたから、似顔絵のひとつでも挟まっているでしょう」
瀬良寺は報告書を開いた。
そこには、父の描いた似顔絵が。
描かれているのは、父カミル、母ビタリア、ターマン、そして、よく見知った人物。
「ターマン殿、これは……!」
聞きたいことがあったが、聞けなかった。
瀬良寺は頭を下げる。
ターマンは死んでいた。




