第045話 虹
ルドルフがドジをかましたおかげで、穢多2人が解放された。
代わりにルドルフは呑し友駁に食べられそうな状況。
「あんたたちは逃げなさい!」
サソリは髪飾りをほどく。
刀に変形。
隠し武器であった。
「おらー!」
しかし呑し友駁には刺さらない。
「サソリ様、助けてくださいぃ」
「情けない声、出してんじゃないよ、バカチビ! あんたもちょっとは頑張りなさいよ! ……あれ?」
なんだかんだサソリも呑し友駁に捕らえられてしまった。
ツノから流れ出るぬるぬるの体液。
獲物を酩酊させる効果がある。
「わあぁ、もうダメだぁ」
ルドルフは泣く。
「しっかりしなさい!」
「でも……なんだか、だんだん眠たくなってきちゃいましたぁ。ぼく、もう死んじゃうんだと思いますぅ」
「あんたは最初から眠そうだったでしょ!」
「……お腹空いた……」
「……ねぇ?」
「……」
「それが最期の言葉!!? もうちょっとまともな言葉を言い残しなよ!!」
「……あっ」
言われてみれば確かにもっと大事なことを言い残すべきであった。
ルドルフはポケットをまさぐる。
「サソリ様、これ渡すの忘れてましたぁ」
穢多のマスク。
黒くて硬くて先端が尖っている。
酩酊しているルドルフはぐらぐら体を揺らして、
「わぁ」
偶然だった。
ルドルフはマスクを呑し友駁の口の中に押し込んでしまう。
「ちょっと待って。こいつ、痛がってない!?」
「……」
「寝るな!」
サソリは体に力を込める。
妖怪に捕まって身動きが取りづらい上、酩酊し始めている。
これが最後のチャンスかもしれない。
そう思いながら髪飾りの武器を呑し友駁の口の中に突き刺した。
「思った通り! あんたも手伝ってよ!」
「……え?」
「サソリの手を押して! 違う! もっと強く!」
「う~ん。とやぁ~!」
呑し友駁が苦しむ。
やがて痛みに耐えかねて、サソリとルドルフを食べるどころではなくなる。
2人はツノから解放された。
「やった……」
退治するまでには至らなかったが撃退に成功。
呑し友駁は這って逃げて行く。
「あんたのおかげだよ、バカチビ……」
「えへへぇ」
「謙遜しろよ」
「あっ」
「え? ……あっ」
呑し友駁のぬるぬる体液にまみれて、2人は抱擁していた。
男同士。
ついうっかりサソリは硬くしてしまっていた。
「いや、これはね、違うの。別にそういうのじゃなくて……あんたも硬くなってない?」
「興奮しちゃうんだもぉん」
恥じらうルドルフを見つめるサソリ。
「もしかして、あんたも……」
言いかけたところで、どよめきが聞こえてきた。
洞窟からだ。
「どうしたの!? また妖怪!?」
駆けつけたサソリ。
しかし騒ぎの正体は、
「生まれた!」
さっきサソリ達が救出した女性が出産したのだ。
赤ん坊の産声が響く。
サソリは悲しげに微笑む。
「やっぱ、これが普通よねー」
誰にというわけでもなく呟く。
「サソリも誰かと結婚して子供を作んなきゃいけないか」
「自分らしく生きないんですかぁ?」
とろとろ走ってきたルドルフが問いかける。
その呑気さにサソリは苛立ち、
「サソリは藩主なの! 後世に血を繋げてかなきゃいけないの!」
「厳しくしないでくださぁい」
「甘えるんじゃないの! このこの!」
「一番大事なのは愛じゃないですかぁ。愛はいつか実を結びますよぉ。ほら、サソリ様の優しさが、あの子を生かしたんですよぉ」
父親になった穢多が近づく。
「サソリ様、畏れ多くも、どうか我が子の名付け親になっていただきたいであります」
風が吹く。
どこからか桜の花びらが舞ってきた。
雨が晴れて、虹がかかる。
* *
時間を現在に戻す。
闇夜の中をマギたちは進む。
目指すは城。
――待っててね、妻ちゃん。サソリが絶対助けてあげる。
サソリは最愛の人を思い浮かべる。
しかし城門に刺客。
「信者だけじゃない! 城勤めの武士まで私たちを邪魔する気だ!」
瀬良寺が舌打ちする。
数十人の規模だった。
相手をするには骨が折れる。
「なるべく、その人たちを傷つけないようにしてちょうだいね! 本当に悪いのは上層部のやつらなんだから!」
それが藩主の意向。
「ならば、ここは私にお任せを!」
名乗りをあげたのはビタリア。
剣術師範を務めているだけあって強い。
更にサクラが穢多の仲間を笛で呼ぶ。
「サソリ様、お気をるけれ!」
「ありがとうね、サクラちゃん!」
いざ、城の中へ。




