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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第5章 〝アンソポリス〟花の都
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第044話 サソリとルドルフ

「パパもママもうるさいんだよ。早く結婚しろー、早く世継ぎをーってさ」


 少し昔。

 まだサソリが藩主ではなかった頃のこと。

 いつものように城を抜け出し、穢多の村に遊びに来ていた。

 その日は土砂降りの雨。


「サソリ様、そろそろ見張りが参ります。お城にお戻りください」


 穢多の人たちもサソリの来訪にすっかり慣れていた。


「何言ってんの。サソリも一緒に仕事するよ? 早く服とマスク貸してちょうだい」

「もう十分、助けられておりますよ」

「お菓子も持って来たよ」

「サソリ様、子を持つのも悪くないらしいであります。家が賑やかになって、人生に張り合いが生まれるとか。私にももうすぐ子供が生まれるでありますが……」

「説教なんてしないでよぉ!」


 サソリは走って逃げる。

 穢多に教えてもらった抜け道を使う。


 ――人生にも抜け道があればな。


 願っても叶わないことだと、瀬良寺家にて痛感する。

 剣術の師範をしているのが瀬良寺ビタリア。

 毎日、彼女の息子とともにサソリはきつくしごかれる。

 ようやく帰宅できるという時になって、その日の反省ついでに、


「サソリ様、男子たる者、家の名誉を後世へと繋ぐことが本懐です」


 などと説教された。

 逃げるように屋敷を出たところで強風が吹いた。

 庭に咲く万年桜の花びらが舞う。


「落とされましたよぉ」


 サソリは目を奪われた。

 猫背の小さな男。

 寝癖のついた髪に、眠たげな表情。

 彼が差しのべる手には、


「穢多のマスクじゃん!!」

「どうしてこんなの持ってるんですかぁ?」

「ぎゃー! ちょっと、あんた、こっち来て!!!」


 思わずサソリは男を引っ張って行った。

 抜け道を通って、2人きりになれる洞窟へ。


「とりあえず、あんた誰!?」


 息を切らしながらサソリが問う。


「ぼくは(かつら)ルドルフ。剣術のお稽古に行くところで拉致られましたぁ」

「サソリは通りすがりの一般人で、そこら辺で穢多のマスクを拾って持ってただけで、別に怪しい者ではないので、今日見たことは全部忘れるんだよ? いいね? いいって言いなさい」

「藩主様ですよねぇ?」

「ちちち違うけど!?」

「……」

「寝るな!」


 ルドルフは意識を取り戻し、


「ごめぇん、ごめぇん。ぼく、ついついのんびりしちゃうんですぅ」

「……はっ。面白い男」

「えへへぇ」


 和やかな雰囲気は一瞬で終わった。

 突然、穢多の集団が大挙して洞窟に入り込んできた。


「どうしたの?」

「サソリ様、妖怪が現れたであります!」

「みんな無事なの!?」

「それが……妊婦が逃げ遅れているようであります」

「大変!」


 すぐさま助けに行こうと走り出すサソリ。

 しかし足が止まる。


「これは飽くまで藩主としての使命だかんね? 決して穢多のみんなと普段から仲良くしてるとかじゃないからね?」


 言い訳をしておかねばならなかった。

 しかしルドルフは寝ていた。


「あっ。ごめぇん。のんびりしちゃってましたぁ」

「バカチビ!」


 走るサソリ。

 ついていくルドルフ。

 案内されずとも妖怪はすぐに発見できた。

 あまりにも大きくて異様な存在感を放っている。


「龍……?」


 のようにも見えるが、しかし、それは地面から生えている。


呑し友駁(のましともぶち)だ、これ」


 サソリは公儀祓除人の報告書などで、その名を知っていた。

 それほど強い妖怪ではないことも。


「あんたたち、大丈夫!?」

「サソリ様、逃げてください!」


 呑し友駁のツノに捕らわれている妊婦と夫。

 食べられる危機に陥っている。

 健気にもサソリの安全を願う。


「ここはぼくにお任せを! ……うわあ」


 何も考えずに突っ込むルドルフ。

 大雨で地面はぬかるんでいた。

 ルドルフはこけて、転がり、呑し友駁の口の中に飛び込んだ。


「食べられちゃうよぉ」

「よくやった、バカチビ!」


 図らずも、呑し友駁はルドルフに狙いを変えた。

 穢多2人が解放される。

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