第107話 Happy Ending
マギが能力を発動する直前の出来事。
将軍と先代皇帝は操縦室を出て、城の屋根の上にいた。
満月の明かりを頼りに戦闘がまだ続いている。
焚き付けたのは自分たち。
しかし火を消す方法がわからない。
「みは愚かじゃった」
将軍がぽつり。
「友情を知った今となれば、いかに争いが無益であるかわかる」
「同感である。かつては命を惜しんだことなど無かったが、今は一瞬でも長く貴殿と共にいたいと願っているのである」
2人だけの時間は短かった。
窓から屋根へと飛び出てきた者達がいた。
「俺らが一番乗りみてぇだな」
カミルである。
疲弊したビタリアを背中から降ろすと、急いで端へ駆け寄り、
「限界限界!」
放尿した。
「こんな見晴らしのいいとこでションベンすんのは初めてだぜ。気持ちいい~!」
するとビタリアが、
「そんなに良いものですか?」
「おう。おめぇもしてみろよ」
「では失礼して……」
「本気か!?」
「冗談ですよ」
「……」
ビタリアは将軍に向かって、
「改めまして、私たちはあなたを倒します。サンを取り戻すために。戦争を終わらせるために」
「体を返すのはともかく、戦争を終わらせるのには賛成じゃ」
「!?」
意外な返答にビタリアが驚く。
将軍は手短に、
「要するに、みは先代皇帝と友達になったのじゃ」
「意味がわかりませんが……つまりもう人間と妖怪で戦う理由がないということですか?」
「そうじゃ」
将軍の言葉を聞いてカミルは弾けるような笑顔。
「やったぜ! それじゃこれからは仲良くすっぞ~! ……なんて言うかよ!」
カミルが将軍に向けて刀を振るう。
だが当たる直前で止める。
将軍の前に先代皇帝が立ちはだかったのだ。
友を守るために。
「吾輩を斬殺せよ。我が命を以て戦争犯罪の償いを果たす所存である。どうか他の妖怪たちへの、そして将軍への赦しを請う」
「殺すなら、みを殺すのじゃ。先代皇帝や妖怪のことは助けてやってたも。それから、できれば傷ついた人間たちを治療してやってほしいのじゃ」
互いに庇い合う先代皇帝と将軍。
操縦室にいた時の主張とは、
「まるっきり違うじゃねぇか」
とカミルは呆れる。
「って言うか反省してるってんなら言葉じゃなくて行動で示しやがれってんだ。戦争を止めろ。負傷したやつらを助けろ。死んだやつらを弔え。おめぇらが始めた戦争だろうが」
「遺憾ながら困難である」
先代皇帝が申し訳なさそうに答える。
戦争終結を宣言したところで、素直に聞き従う妖怪どもではない。
固有能力【魅了━ファスツィナツィオン━】を使おうにも、射程範囲は限られるし、また永続的でもない。
つらつらと言い訳を並べる先代皇帝だが、本音は別のところにあった。
「流れ矢にでも当たろうものなら死亡する。恐怖である。吾輩はまだ死ぬわけにいかぬ。友との語らいに余生を捧げるのである」
「先代皇帝!」
「将軍!」
ひしっと抱き合う2人。
「わけわかんねぇな、こいつら……」
ドン引きするカミル。
その背後から声がした。
「わしにはわかるっすよ」
神葉だった。
やつれてはいるが、目はぎらついている。
刀に手をかけながら、
「好きで好きで堪らない人と一緒にいたいんすよね。じゃあその願いが叶わない時はどうするんすか? わしなら……わしならいっそ……」
刀を抜いた神葉が後頭部に一撃を食らい、どさっと倒れる。
「バカ!」
目に涙を湛えるのはリケイカイン。
人助けをしながら、ここまで辿り着いた。
「みんな仲良くしよう! せっかく巡り会えた仲間なんだから!」
「その子の言う通りです」
ビタリアが想いを馳せるのはサクラ。
家族と仲良くしてほしいと言い残して散った。
そのためならば、とビタリアは歯を食いしばり、
「あなたにも協力していただきたいです。……人格はともかく……実力は認めざるを得ませんから……。戦を止めるために、あなたの力が必要なのです」
深々と頭を下げるビタリア。
カミルも倣う。
「……いいっすよ。それで満足するっすよ。あんたと共に戦うことであんたを感じていられればいいっす……」
ビタリアは礼を述べて、
「まずは人間と妖怪を分断させる必要があります」
将軍が、
「城の中は広いでおじゃる。妖怪を収容させるくらいわけないのじゃ」
先代皇帝が、
「妖怪の誘導は吾輩に委任せよ」
リケイカインが、
「人間を抑えるのは任せて。ぼくの体に人間の武器は通用しない」
カミルが、
「決まりだな。いざ……」
終戦に向けた最後の戦いへ!
全員の心がひとつになると同時。
マギの【無効化━アヌリルン━】が発動された。




