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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
最終章 〝妖怪皇帝〟SON OF A BITCH
104/111

第104話 増やして壊して

「やべぇ、漏れそうだぜ」

「ここでなさったらどうです?」

「バッカ! 廊下でんなことできるかよ」

「じゃあ戻りますか?」

「またあいつと顔合わせるの気不味すぎだろ」


 廊下を走りながらお喋りする瀬良寺夫妻。

 ここに至るまでの無理がたたったのか、ビタリアがふらつく。


「おぶってやんよ」

「はい……」


 あの頃と変わらない大きな背中を感じるビタリアであった。


     *     *


「哀れじゃの。旧き時代ならば同性同士で子をなすこともできたものを」


 2人の様子をモニター越しに見ていた将軍がぽつり。

 操縦室では城内全域の様子を視聴できる。

 将軍がそんな暇潰しに興じている理由は先代皇帝を待っているからであった。


「どうじゃ? 体の調子は」

「将軍閣下のご厚意により大幅に回復である」


 将軍は大江戸城を動かして数匹の妖怪を操縦室まで誘き寄せた。

 妖怪は妖怪を食べることで傷を癒すことができる。

 床の上には血だまり。

 先代皇帝の口元には血を拭った痕。


「よしよし。ならばいざ尋常に子作りじゃ」

「畏れながら将軍閣下、不可能である」

「みの体に魅力がないゆえかの?」

「生殖機能の問題である」

「どうしても? どうしても無理でおじゃるか? 我らは言わば旧き時代の科学技術の結晶じゃ。なの力でみを身籠らせることはできぬのか? 逆でもよいが」

「妖怪は同種族の妖怪としか子をなすことができぬ」


 将軍は落胆する。

 妖怪になることに憧れて卵を割って浴びたことがある。

 しかしAIに乗っ取られた体は妖怪化しないと判明した。

 自分という存在が壁だった。


「ところで将軍閣下よ」


 先代皇帝が尋ねる。


「そもそも貴殿は如何なる理由で子を欲しがるか」

「だって子育ては楽しそうなのじゃ。人間は子育てが下手っぴじゃが、みなら上手くやれるでおじゃろう。天才じゃからの」

「娯楽であるか。僭越ながら育児の先達として申し上げれば、子育てとは種を存続させる手段でしかなく、また決して楽ではないのである」


 重苦しい雰囲気を纏う先代皇帝。

 将軍は反論しづらくて黙った。


「助言を致そう。生命の本質は増殖である」


 先代皇帝が威厳を放ちながら、


「しかし子孫繁栄だけが増殖に非ず。自身と思想を共有する者を作り出すという手段もある」

「マギのことでおじゃるか?」

「如何にも。吾輩の見込み通り、マギは妖怪殲滅の意志を持った」

「今となっては、なの方が妖怪を滅ぼすことに躊躇しておるようじゃがの」

「……子育てとはままならぬものである。例えばリケイカインのような出来損ないも誕生してしまう始末」


 ここで2人はモニターに目を向ける。


     *     *


 リケイカインは城の中を縦横無尽に飛び回っていた。

 分厚い壁も【硬質化━ザイフリート━】の能力を使えば簡単に突破できた。


「助けてくれ。足が挟まれて動けない」


 困っている人がいたら助けた。


「ありがたい。しかしきみはどうして私を助けてくれた? 妖怪が人間に協力するなんて不思議だ。今は戦争の真っ只中なのに」

「ぼく、ようやく気づいた」


 リケイカインは片っ端から人を助け、瓦礫を片しながら、


「先代皇帝はクソ。ぼくを愛してくれなかったもん。でも復讐したって愛してくれるようになるわけじゃないよね。愛してくれるのは親だけじゃない。あんなにそばにいたのに、ぼくなんで気づかなかったんだろ」

「……よくわからないが、結局のところ私はきみにとって敵なのでは?」

「あなたとも友達になれるかも」

「私みたいなおじさんと……」


 リケイカインは飛ぶ。

 全力で誰彼構わず助けながら。


     *     *


「……出来損ないは吾輩であったか……」


 先代皇帝は目を見開く。


「まだ遅くはないかもしれぬのじゃ」


 将軍も同じ想いを抱いていた。


「「友達になろう」」

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