第103話 あなたがくれたから
「おめぇは何がしてぇんだよ?」
呆れ顔のカミル。
神葉の刃を軽くいなす。
カミルは操縦室から追放された後、厠でばったり神葉と遭遇した。
即座に刀を抜いた神葉に襲われる。
「わしは……あんたにすべてをもらったんすよ」
神葉は苛立つ。
ようやく最愛の人に会えたのに上手く想いを言葉にすることができない。
妖怪相手なら勝負を決め損なうことなどなかった。
戦いの中で勝機を見出だし敵を一刀両断にすることなど容易かった。
なんとも歯痒い。
「姓も刀も地位もくれてやったよな。それで、他に何がほしいってんだ? って言うか小便させろよ」
鈍感なカミルは決して優位ではなかった。
長い眠りから目覚めたばかりの体。
相対するは自分を凌ぐ実力者。
激しい尿意。
「……わしはあの日あんたを殺したっす」
「介錯してくれたんじゃねぇか。気にやむこたぁねぇぜ。まさか俺に斬られて責任を取ろうってんじゃねぇよな? そんなことよりおめぇも小便しに来たんだろ?」
「あれからずっと考えてるんす。どうしてわしじゃないんすかって」
「あ?」
「ホーマー殿はわしが殺したっすよ」
「!!!」
カミルの顔から余裕が消える。
「……俺が死んでる間に何があった?」
「あんたのことを忘れようかと思ったこともあったんすけど皮肉なもんすね。あんたの息子さんに出会っちゃって、今度はわしが剣術の師匠っすよ。……いや、息子さんっていうのは不適切っすかね」
「……?」
「あんたのお子さん、娘さんっすよ」
一瞬だけカミルは脱力した。
思いもよらない事実に驚愕したのだ。
だがすぐに怒りが沸いてくる。
「もう一度聞くぜ。おめぇは何がしてぇんだ」
「あぁ、もう、じれったいっすね! 好きっす!!!!!」
静まり返る厠。
勢い任せとは言えやっとのことで想いを打ち明けられたことにほっとする神葉。
そしてドキドキ。
一体どんな返事が聞けるのだろうか、と。
「はぁ?」
カミルは汚物を見るような目を神葉に浴びせる。
「ふざけてんのか? 本っ当にわけわかんねぇ。今どんな状況か、自分が何言ってんのか、わかってんのか?」
「いや、ふざけてなんて……わし本気っす!」
「だったら尚更クソだな。心底気色悪いぜ」
「なんでそんなこと言うんすか? カミル殿、ゲイっしょ? ホーマー殿に惚れてたっすよね? めっちゃわかりやすかったっすよ? わしにだって優しくしてくれたし。名前とか刀とかくれたっす。まあ、自分でこんなこと言うのもなんなんすけど……ちょっとはわしに気があるんじゃないっすか?」
「死ねよ」
「キスしてくださいっす!」
神葉はまったく冷静ではなかった。
自分が何をしようとしているかもわからないままに、カミルに猛突進。
絶対に唇を奪ってやるぞという気迫。
さすがのカミルも気圧された。
「お待ちなさーーーい!」
破られる扉。
肩で呼吸する女が叫ぶ。
「家庭を持つ男に接吻しようとは何事です!!!」
ビタリアだった。
カミルは驚き、
「ここ男性用の厠だぞ!? いや、それよりどうやってここまで……」
「壁を破壊し続けてここまで来ました。縛られていた縄も自力で破壊しました」
「ははっ。俺ぁ随分すげぇ嫁をもらっちまったみてぇだな」
カミルは苦笑した。
神葉は動揺などせず見下すように、
「女なんかに用は無いっすよ。カミル殿は男色家なんすからね」
「承知です」
「……え?」
ビタリアは堂々と、
「夫婦ですから。隠し事などありません」
要するに、とっくにカミルはカミングアウト済みだったという話。
その上でお互いを伴侶として選んだのだ。
その理由を妻と夫はそれぞれこう語る。
「この人はこの人なりの表現で私に愛をくれたからです」
「こいつぁ俺に愛を、そして居場所をくれたからよ」
そして2人はキスをした。
「……っ」
神葉は膝から崩れ落ちる。
戦闘意欲を喪失した神葉に敢えてとどめを刺す必要はないとカミルは考えた。
夫婦は静かに厠を出ていく。
「……やっべ」
下腹部を押さえる夫。
妻は心配して、
「どうしました?」
「小便するの忘れてた」




