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白鳥サノバビッチ  作者: えすくん
第1章 〝公爵〟大工部マギ
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第001話 少年の目覚め

「生えているが!?」


 白鳥が、マギの股間から生えていた。

 妖怪の目もマギの股間の白鳥に釘付け。


「暴れているが!?」


 マギは絶叫した。

 マギの意思とは関係なく、白鳥は勝手に動き、次から次へと妖怪の大群を虐殺した。


 無双。


 残るは黒鳥の妖怪のみ。

 敗北を察したためだろうか、彼は黒い翼をはためかせ大空へと舞い上がった。

 顔には笑みを浮かべて。


「余は公爵ぞ!!!」


 マギは飛び去る妖怪に向かって叫んだ。


「この股間を何としてくれる!!」


     *     *


 何も楽しくない人生。

 朝、目を覚ますのが苦痛だった。

 今日も生きていることを呪う。

 体を起こさずに卵を抱いてぐずぐずする。


 無理矢理ベッドから引きずり出され、食堂に連れて行かれる。

 せめて美味しいご飯で一日を始めたい。

 しかし、


「つまらないぞ!!!」


 机の上に出されたのは白米と味噌汁。

 大工部(だいくべ)マギは思いっきり机を叩いた。


「もっとたくさんご飯を寄越せ! 余は公爵ぞ!」

「マギ様、子供みたいなことを言っちゃダメっすよ」

「余は子供ぞ!」

「まあ、そうっすけど」


 マギはまだ十歳を過ぎたくらいの歳だった。


「でもマギ様はこのお城の跡継ぎなんすからね? もっと大人な振る舞いしなきゃっすよ」


 たしなめるのは侍従長の神葉(かみば)ギウデ。


「それに今この城の財政は逼迫してるんすよ。経済ズタボロっすからね」

「なら、どうにかせい」

「それをどうにかするのがマギ様のお仕事じゃないっすか」

「……城主は父上であろうが」

「親父さんは都に行ってんすから、今この家の代表はマギ様なんすよ」

「もうよい!」


 雑に議論を打ち切り、マギはヤケ食いを始めた。

 そんな少年公爵の悪態にはすっかり慣れている神葉。

 淡々と伝達事項を伝えていく。


「少子化が進んでて、このままだと領民消滅っすね」

「よきに計らえ」

「妖怪がこの辺りにもたくさん出没してるんすけど」

「よきに計らえ」

「マギ様がポンコツって囁かれてて、疑惑を払拭するためには元服するしかないっすね」

「よきに計らえ」

「じゃあ、元服するっすか」

「よきに計らえ。……え?」


 侍従長はほくそ笑んだ。


     *     *


 言質を取った以上、行動あるのみ。


「もぉ~、着替えくらい一人でできるようになってほしいっすよ」

「ふん! 騙しおって」


 マギは手伝ってもらわないと着替えられなかった。

 神葉は溜め息をつきながらマギを近くの森林へと引っ張った。


 元服。

 自力で妖怪を退治できて初めて人は大人として扱われる。

 簡単な条件のように思えるが、マギは震える。


「妖怪退治など、カラクリですればよいではないか」

「マギ様ってビビリっすもんね」


 侍従長にいくら煽られたところで怖いものは怖い。

 春の陽気の中にあってもマギの心は陰鬱だった。


「あ、そこにいるっすよ」


 茂みから小さな妖怪が姿を現した。

 蝦蟇月蝦という名の妖怪で、


「土地を緑化するだけのミミズみたいなやつっす。叩けば即死するザコなんで、さすがにこれならマギ様でもやれるっしょ」


 神葉は楽観していた。

 ところがマギはガクブル。

 顔面蒼白。

 目にはうっすら涙。


「マギ様、武器を構えるんすよ」

「……あ……」

「マギ様?」

「あああああああ!!!!」

「マギ様!?」


 マギは走って逃げた。

 まるで城の次期当主とは思えない行動。

 公爵様のダメっぷりに慣れた神葉もさすがに溜め息をつく。

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