『千夜千字物語』その10~リセット
「一緒になりたい」
付き合い始めて2年。
割り切った関係でと始まったのだが、
男と会う度に女はそう思うようになっていった。
女は20歳そこそこで結婚をした。
夫は50代の会社社長。
女にとってその結婚は、
金目当て以外なにものでもなかった。
性欲はあまりなさそうなので
たまに我慢をするだけで贅沢な暮らしができると
安易に考えた結果だった。
だが、いざ結婚してみると
大方予想通りであったものの束縛が予想以上に強く、
それが女にとっての大きな誤算だった。
お金があっても使うのは買い物ぐらいで
遊びに行くことは限られていた。
20代にとって自由を奪われるのはストレスしかなく、
ましてや夫の独りよがりのセックスは
女を暴走させるには十分すぎるくらいの決定打だった。
マッチングアプリでセフレを探し、
何人目かで知り合ったのがいまの男だった。
年齢が近く、すぐに意気投合。
会ったその日にホテルへと行った。
男と会うのは習い事の後、
時間にして2時間ぐらいがお決まりだった。
引き締まった身体、ほどよい前戯、
セックスの相性が何より良かった。
月に2回ほどしか会えないこと以外は
何の申し分もなかった。
セフレとして付き合いだしたが、
女の心が男へと移っていくのは
ごくごく自然のことだった。
ある日のこと、
買い物を終えた帰宅途中、
井の頭公園内を歩いていた時だった。
女はこの公園はどこか陰湿な感じがすると
いつもなら遠回りして帰るのだが、
その日は、まだ日も高いし近道だからと思い
公園をてくてくと歩いていた。
あと少しで住宅街へ出るところで
何者かに口を塞がれ草むらへ引っ張り込まれた。
女は一瞬にしてことを察し、
一刻でも早くこの状況から脱したい思いから、
抵抗はせずにレイプ魔に身体を預けた。
女は解放されると
タクシーを拾い警察署へと駆け込んだ。
事の成り行きは夫の耳にも入った。
夫は妻が被害者であることは頭ではわかっていた。
でもどこかで許せない思いもあった。
夫婦関係はギクシャクするようになり、
ほどなく二人は、
高額な慰謝料を支払うことを条件に、
離婚することになった。
「うまくいったな」
実はこれは二人で計画し、
レイプ魔はセフレの男だったのだ。
しかし、喜びも束の間、
男はすぐに逮捕された。
なぜなら、
女は離婚が決まると警察へ行き、
実はレイプ魔は以前から付きまとわれてるストーカーで、
その特徴を詳細に報告したからだった。
自由と金を手にした女は、
最終的に人生をリセットすることを選択した。