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第7話 むしろ兄の誕生日

 わたしが常日頃暮らしている黒玄家の離れには、二階にいかにも乳幼児の部屋らしい可愛い寝室と遊び場があって、一階に広いサンルームがある。


 離れといっても、普通の一軒家の何軒か分の大きさがあるみたいで、ピンクでメルヘンな子供部屋は一部屋一部屋がやたら広いし、長い廊下の途中にはわたしが入ったことのない部屋の扉がいくつもある。

 なので、当然、本館とは別にダイニングルームとキッチンが一階にあった。これまた広いそのダイニングで、朝ごはんは月白お兄様と竜胆叔父様も一緒。

 というか、二人は真珠ちゃんと一緒に食べるために来てくれたようなんだけど、闇王伯父様はもうお仕事に行っちゃったんだって。


「せっかく闇王様でも合うマントと帽子が手に入ったのに、残念。いい記念になると思ったんだけどなぁ」


 さては魔王コスプレで写真撮影したかったんですね?

 残念そうにつぶやきながら、竜胆叔父様は伝統的な和朝食をとても綺麗な箸づかいで食べております。

 月白お兄様も同じ和食。

 ごはんにお味噌汁に卵焼きに魚の塩焼き、野菜の煮物にホウレンソウのおひたしに焼きのり、納豆。色んな種類のおかずを少しずつ盛沢山!

 なのに、真珠ちゃんは哺乳瓶ばぶぅ……。


「あぅああ!」

「ええ、そうですわね、真珠お嬢様も早く同じ食事を食べられるようになりたいですわよね。今朝のおなかの具合ではもう少し離乳食を増やしてもよさそうですから、お昼はいろいろな味を試しましょうね」

「ああい!」


 少々うらめしげにミルクをごきゅごきゅ飲みながらも、ばあやに抱っこされてご機嫌スノーマンなわたし。

 

「真珠って、けっこう話はわかってるみたいだね。これなら外国語もすぐに覚えられそう」


 いえ、ぜんぜん覚えたくありません! 転生チートで最初から理解できる日本語しか覚えられませんから!


「面白いよね、その子。一番の優先は食欲みたいだけど、闇王様になつく赤ん坊も初めてなら、僕を見て抱っこをねだらない子も初めてだよ」


 そういえば魔王な大きい伯父様はガジガジしたくなったのに、この綺麗なお兄さんはそんなにおいしくなさそう? 綺麗すぎて観賞用って気がするよ。


「真珠お嬢様はそれだけ黒玄家の血が濃く現れたのでしょう。見た目などまったくあてになりませんわね」

「うーん、てかね、闇王様の魔力って、僕でもまともに食らうと息苦しいんだよ。だけど、その子、喜んで受け入れたんでしょ。先天的な魔力量が多いだけじゃなくて、大食らいっていうか、よほど魔力の許容量が多いんだろうね。それとも変換か循環? だけど、昨夜もけっこうミルク飲んでた気もするし、それ以前に僕にまっしぐらしない赤ん坊なんて、基本的に魔力が不安定な存在としては相当レアなケースで……」


 よくわからないことをつぶやき始めた竜胆叔父様に、ばあやがぴしゃり。


「竜胆様は月白お坊ちゃまの時も同じようなことを言っておりましたわね」

「え? あ、そっか。月白の妹だもんね。それに月白はお母さんっ子で、父親より闇王様より、母方親族の僕に抱かれたがったけど、真珠ちゃんはそもそもお母さんの魔力を知らないんだもんね……」


 はっ! これは天才月白お兄様に感謝?

 転生チートで大人な頭脳の赤ん坊と同じくらい……というか、むしろもっとすごい本物の天才の月白お兄様のおかげで、わたしが賢い赤ん坊でも、ばあやにとっては普通! 竜胆叔父様にとっても当たり前! 助かる!


 それにしても魔力とか魔力とか魔力とか……一見、前世と同じ日本な気がするけど、やっぱり違うダンジョン世界。

 なのに、クリスマスはクリスマスだからかえってまぎらわしいんだよ!


「あうぅ、や! や! や!」


 朝食後にみんなで行った本館玄関のクリスマスツリーの下で、わたしはひたすら首を振る。

 ツリーの下には昨夜はなかったプレゼントの箱が山積みにされていた。ぱんぱんになにかが詰まった巨大靴下も木の枝にいっぱいぶらさがってる。


 クリスマスっぽいカラフルなラッピングの箱は、白と黄色のリボンが月白お兄様用。赤とピンクと紫のリボンがわたし用と分けられているらしい。

 月白お兄様が開封する箱は、どれもこれも本!

 わたし用の箱はばあやとすすきさんが開けてくれるんだけど、ぬいぐるみとか服とかアクセサリーとか外国語の絵本とか……一応乳幼児用っぽいんだけど、ちょっと、いやかなりずれてる! どれもこれも飾りに大きな宝石がついててゴージャス! というか、固くて触り心地悪い!


「や! あぅや! や!」


 いや、ないから。いらないから。

 ぷいぷいっと首を振って、ゴツゴツした品々をあっちにばいばいするわたしに、ばあやはちいさなぬいぐるみを渡してくれた。

 ちいさいといってもわたしの頭くらいの大きさはあるけど、白と黒の可愛いパンダ。くたっとしたタオル地で、余計な飾りがついてないから、どこをかじってもいい感じ! 両手にちょうど収まってサイズ感もいい。


「きゃうば! あいあい!」

「やはり、これが気に入りましたか? 本当に真珠お嬢様はお可愛らしいですね」


 うふふっと嬉しげなばあやに、すすきさんが種明かし。


「さすがはばあやさん! 真珠お嬢様が一番に気に入るプレゼントを選べるなんて。似合うと思ったんですけど、こういう変身スティックはまだ真珠お嬢様には早かったみたいですね。でも、誕生日にはリベンジしますよ!」


 どうやらこのパンダぬいぐるみはばあやからのプレゼントだったらしい。

 ごめんね、すすきさん。キラキラ変身スティック、あっちにばいばいしちゃって。でも、固いし重いし握れる太さじゃなかったんだよ。

 むこうのほうで月白お兄様と竜胆叔父様もなにか言ってる。


「絵本じゃなくて、ぬいぐるみかぁ……真珠ってまだ本当に赤ちゃんなんだね。いっそおしゃぶりとかにしとけばよかったかな」

「まあ、絵本は月白が読んであげればいいよ。魔力調整の魔道具をいろいろと混ぜてみたけど、本当に過不足なく体内の魔力バランスがいいみたいだね。調整が必要がないみたいだ。かといって、魔力が少ないわけでもないし、精神的に揺らぎやすい乳幼児としては驚異的だけど、これなら僕の定期的な往診もいらないかな」


 あとでばあやの子守唄で聞いた話によれば、このキラキラ綺麗な竜胆叔父様は『魔医療師』という職業だったらしい。


 魔力を用いて患者を治療する魔医療師はこのダンジョン世界特有の職業で、竜胆叔父様は若くしてトップクラスの実力者。

 死者は蘇生できないけど、身体欠損とかガン細胞さえ正常化できる凄腕なので、仕事の予約はそれこそ百年先まで詰まってる。今回のクリスマス休暇はかなり強引にもぎとったみたいだけど、結局、月白お兄様の誕生日ディナーが終わるとすぐに呼び出されていた。

 いや、本当はずっと連絡が入り続けていたのを無視していたらしく、最終的には別館の屋上ヘリポートに緊急ヘリが飛んできてドナドナされてったよ!


「もう仕事ヤダ! 月白、真珠、お正月までにまた会いに来るからね! え? ドバイとイタリアの大富豪? 知らないよ、僕、そんな仕事入れてないし。だから、断ってって言ってるし、もう引退する! これ以上、お金稼いでも使う暇ないし、余生は甥っ子と姪っ子に遊んでもらうから今すぐ引退!」


 今日の竜胆叔父様は、月白お兄様とわたしと一緒にファッションショーして写真撮影してされて、ものすごく楽しそうだった。

 トナカイとかクマとか犬とか猫とかウサギとかいろんな着ぐるみを着て、模様替えしたサンルームとか飾りつけした庭とか、この家の豪華な応接室とかいろんな場所でみんなでいっぱい写真を撮った。

 動画撮影ももちろんで、途中で真珠ちゃんはすやすや夢の中だったけど、月白お兄様も一緒におひるねする光景すら『天使の寝顔』って天使コスプレ画像になったらしい……。

 まあ、なんだかんだと家族の触れ合いを満喫したにぎやかな一日で、月白お兄様も両親不在の誕生日をすこしは楽しめたんじゃないかと思う。

 なんだけど……。


「お母様はいなくなったけど……真珠がいてよかった。僕が守ってあげるから、おまえはずっと僕のそばにいてね、真珠」


 今夜は一緒に寝たいという月白お兄様のわがままで、お兄様のベッドで寝ることになった真珠ちゃん。くたっとパンダのぬいぐるみ付き。

 昨夜竜胆叔父様が泊まったお兄様のベッドは子供用じゃなくて、ダブル以上の大きさあるから余裕で寝られるんだけど、うとうとしながら気づくわたし。


 ……わたし、真珠じゃない!


 やばい! 昨日からだーっと押し寄せた人と行事と乳児の小さな脳みそで忘れてたけど、これ以上、思い出作っちゃいけない! 情を移されたらまずい!

 わたし、本物の真珠ちゃんじゃないんだよ!

 この家の人とも月白お兄様ともいずれはお別れしなきゃいけないわけで、とんだ甘い罠です。ハニトラ、ダントラ!

 可愛がってる妹が本物じゃなかったなんて、月白お兄様のメンタル危うくしちゃう! これ以上仲良くなる前に作戦考えないと!

 最終的には「本物の真珠ちゃんを探せ!」なんだけど、その前に、「偽物だって知らせろ!」だよね。


 かっこう取り換えっ子DNA鑑定……キーワードを砂場でおえかき? 積み木で絵文字? 

 いや、そのもっと以前に、月白お兄様に嫌われてしまえばいい? わがまま放題で泣き叫ぶ?

 うーん、とりあえず今は眠いので明日からがんばるね! スヤスヤ。

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