第68話 三年間のひきこもり
※分割した最終話その①。文字数増量キャンペーン!
「あ、やっぱり男の子だったんだ。願掛けしたって結果は同じなんだから、次からは先に教えてほしいな。女の子でもおかしくない名前って考えるの大変だし。でも予定通り、七海と大夢でいいか」
結婚から丸三年経って、沙華さんは四人の男の子のお母さんになりました!
結婚した翌年の九月に双子の男の子出産。
その翌々年の十二月の今回も事前に双子だというのはわかってたし、お医者さんも竜胆叔父様もノーコメントだったからたぶん男の子なんだろうなぁって皆が察してた。
だけど、白絹お祖母様の願掛けドリーム発動!
『もしかしたら性別が変わるかもしれないじゃない! やっぱり女の子に生まれてきたいって、きっと沙華さんの赤ちゃんなら魔力で性別変えられるから、事前に決めつけるのはよくないわ。ええ、きっと今回は可愛い可愛い双子の女の子が生まれるのよ! え? ええ、陽玖も星夜も可愛くないわけじゃないのよ。ええ、本当に可愛いんだけど、あっという間に大きくなって、骨太でみっちりずっしり重くて声が野太くていつだって汗臭くて……』
いろいろ言いながらも白絹お祖母様、双子の赤ちゃん溺愛中。積極的に育孫して、沙華さんの負担を大幅に減らしてあげてる。沙華さんとはもう実の母娘以上に仲良し。
だからこそ白絹お祖母様の希望通り、事前の性別告知なしで沙華さんが臨んだ今回の出産。前回から二年ちょっとでまたも双子って医者も周囲も心配してたけど、母子ともに無事でよかった!
沙華さん、これでわたしとミルクちゃんを含めて六人の子供のお母さんに! まだ二十二歳なのにすごい!
赤ちゃんの名づけは月白お兄様。最初の双子の時から、沙華さんと闇王パパが話し合って決めたみたい。
『この先の人生、月白くんのほうが親よりこの子たちと長い時間、一緒にいることになるよね。だから、月白お兄ちゃんが呼びやすい名前をつけてあげてほしいな』
沙華さん、さらっと周囲が老い先短い年寄りってほのめかしてたけどね……。
まあでも、その時点で沙華さんのおなかにいるのが双子の男の子ってわかってたから、弟が一気に二人もできる月白お兄様もご機嫌だった。
『じゃあ、あとで闇王伯父様の気が変わったら、闇王伯父様の考えた名前にしてあげてくださいね。うーん、どんなのがいいかな。僕が月だから、太陽とか星? あ、沙華さん、この先も赤ちゃんいっぱい産むつもりなんですよね? 真津子さんがつけてくれたミルクの名前には一花って、数字の一が入ってるし、真珠は音が十だから、間の数字を入れていって……うん、じゃあ、九から始めて陽玖と星八……八は夜壱お祖父様にちなんで、星夜でどうでしょう?』
ということで、今二歳三カ月の双子は陽玖と星夜。わたしはようちゃんとせいちゃんって呼んでるよ。
黒髪に青い瞳の色白美幼児で、将来のイケメン間違いなし! 今も周囲のだれもをメロメロにするラブリーさ!
双子のことをホワイト家の人々は勝手にヨークとスターって呼んでる。ヨーク・ホワイトとスター・ホワイトのパスポートまで作成済み。
わたしもパール・ホワイト名義のパスポートをプレゼントされた。でも、パールとホワイトのあいだにアルファベットがいっぱい。
月白お兄様が読み上げてくれたところによると、エタニティとか、クイーンとか、エリザベスとか、ルナとか、ホープとか……おじいちゃんと四兄弟が一個ずつ付けたらしい。
そんな長い名前覚えられないし、そのパスポートぜったい使わない! いらないから!!
だけど、実はミルクちゃんにもミルク・なんちゃら・ホワイト名義のパスポートがある。
この三年、わたしはホワイト家に対して常に「ドントタッチミー!」。お触り厳禁イヤイヤ幼女。
だけど、ミルクちゃんは自分からフランシスおじいちゃんにずりずり接近。泣く子が失神するホワイト家四兄弟に対しても長い脚に体当たりアタック! 座ってたらすかさずよじ登ろうとする……。
憲法と竜胆叔父様の話じゃ、たぶん沙華さんと魔力の型が似てるんだろうって。
『魔力もそうだが、骨格や見た目が親兄弟で似ているからね。ミルクが一番好ましく思う相手が沙華さんだから、むしろ我々よりホワイト家に親近感を感じるんだろう』
『ミルクちゃん、沙華さんの母乳で育ったもんね。本能的にホワイト家の魔力や体臭に惹かれるんだろうね』
どんなに見た目が可愛くても、わたしはぐずぐず泣きわめく幼児。すすきさんやばあやに抱っこされてればご機嫌だけど、ホワイト家の人々には指一本触れさせない。
なのにミルクちゃんは闇王パパや宵司に対してより、ホワイト家の人々に好意的。フランシスおじいちゃんにも四人のあんこぉにも自分から近づいて抱っこと肩車と高い高いをねだる。
なつかないツンツン猫より、じゃれついてくる愛嬌満点の子犬にほだされるのはまあ自然な流れ。ミルクちゃん、すっかりホワイト家のアイドルに!
さすがヒロイン! 一歳から強面中高年を手玉に取る幼女!!
おかげで隙あらばわたしを抱っこしようとするホワイト家の攻勢が和らいだんだけど、ミルクちゃんの沙華さんラブって、わたしにも適用されるんだよね。気がついたら『まーた、ちゅき!』って、月白お兄様と奪い合うようにわたしのこと好き好き抱っこするようになってたよ。
いやほら、わたし、沙華さんの娘だし。魔力も見た目の色合いも沙華さんに一番似てるし、なによりちいさいから。ミルクちゃんが抱っこできるくらい、ちいさいから……。
……っ、ぜんぜん認めたくないけど、わたし、ちいさい。
ちゃんとした理由があって、ちいさい。
理由の九十九パーセントは、憲法! 一パーセント弱がわたしの体質で、ゼロコンマいくらかがクアアへの魔力供給といえなくはないけど、ううん、やっぱり百パーセントぜんぶ憲法のせい!
「先月から順調に伸びてたし、この調子だと一割……二割は行かないと思うんだけど、沙華さんが一七五センチあるから一割減だと一六〇弱、二割減で一四〇……いやいや、真珠ちゃん、両親とも高身長だもんね。元の身長が一八〇くらいだったかもしれないから、きっと白絹様くらいには大きくなれるよ。それに姉さんも一五五センチだったし、月白は小柄な女の子のほうが好きだよね?」
沙華さんの出産に付き添ったあと、竜胆叔父様は診察室でわたしを定期健診。
自宅出産っていうか、沙華さんがいっぱい子供を産む気だったから、おうちに診察室や分娩室がある。いや、憲法も露茄さんのために離れに分娩室用意してたっけ。
でも、ここは黒玄家新居のまるっと病院棟。
黒玄家の新しいおうちは闇王パパがわたしのために計画し始めたけど、途中で沙華さんとの愛の巣になって、ホワイト家が加わってとんでもない規模になった。
たぶん前世の南海トラフとか現世の大型スタンピードが起こっても何年でも立てこもれる超大規模要塞。見渡す限りの周囲の山々や田畑がぜんぶ自分ちで、山のむこうに綺麗な湖もある。自宅で釣りやボート遊びもできるよ。
ホワイト家が世界各地のダンジョン周辺に持ってる邸宅もぜんぶこの規模らしい。例のダンジョン相続旅行で泊った時は気づかなかったよ。真珠ちゃん、寝てるか、ねーたねーたって泣いてばかりだったし……。
だから、ホワイト家にとって黒玄家の敷地に間借りする形でおうちを建てても、犬小屋レベルの出資額。
もう常識外れのお金持ちイヤ! 立派なおうちが世界中にあるんだから、そっちに帰って! ゴーホーム!!
って思うけど、憲法が豪語したフランシスおじいちゃんの隠し子が世界中いくら探しても見つからなくてね……。
まだ冒険者ギルドを通じての捜索の第一段階みたいなんだけど、かなり難航中。もちろん露茄さんと同じ魔力の型を持つ生まれ変わりなんて論外。
憲法ざまぁ!
だから結局、ホワイト家の人々にとっての血縁は、沙華さんとわたしと沙華さんが産んだ赤ちゃんたち。
そして、彼らを恐れず可愛らしくなついてくれる幼児はこの世でただ一人、ミルクちゃん。
この点に関しては陽玖と星夜もダメだった。白絹お祖母様が付き添い出産からその後も常にべったり抱っこしていたからか、すっかり黒玄家の魔力になじんで、宵司に抱っこされてもスピスピおねむ。なのに、ホワイト家が同じ部屋にいるとわんわん大泣き二重奏になっちゃう。
まあ、双子ちゃん、父親である闇王パパと過ごす時間も長いからね。闇王パパ、オムツ交換やお風呂までできるようになって完璧なイクメン!
赤ちゃん二人が加わって、とってもにぎやかになった黒玄家。
朝から晩まで四六時中うるさいともいうけど、ホワイト家の人々は大人だけの静かな生活には飽き飽きしていたらしい。
誕生日とかクリスマスとか、大人だけだと家族のイベントが味気ないからね。毎年、これといった変化も成長もないし。
なので、家族の記念日やイベントのたびに顔出ししてたら、おじいちゃんもあんこぉ四人も一年のほとんどをニュー黒玄家で過ごすことになってた。ホワイト家メンバー、それぞれの誕生日パーティまで黒玄家で開催。
とはいえ、広大な敷地内に巨大な建物がいっぱい立ち並んでるから、感覚的にはご近所様。ホワイト家なんて宵司や憲法に較べれば害はないし、誕生日のお歌や手作りバースデーカードくらい大したことじゃない。
うん、ほんっと、存在がムカつくゴリラと、すべての元凶のマッド魔法使いに較べれば、おじいちゃんもあんこぉもウェルカム!
「え? 小柄って……そっか。お母様は今の僕よりずっと小さかったんですね。お祖母様も僕の中で存在が大きいから、小さいなんて思ったことなかったなぁ」
竜胆叔父様の定期健診を終えたわたしは診察室のソファで月白お兄様にへばりついてる。
月白お兄様は今度のクリスマスで十一歳。小学五年生にしては背が高くて一七〇センチ近い。小三から髪も短くして、すっごくかっこいいんだよ!
今日は月白お兄様が学校から帰る少し前に新たな双子ちゃんが誕生。
なので、わたしが健診を受けてるあいだに、月白お兄様はせっせと赤ちゃんの命名札を書いたらしい。白絹お祖母様が性別を知らされたくないってごねてたから、男女どちらでも違和感のない名前を考えるのに苦労したみたい。
三人目の弟はストレートに七つの海から『七海』。
四人目の弟は数字の六が六十分とか時間に使われるのと「六」や「時」にかけて『大夢』。
七海と大夢、ななちゃんとたいちゃんっていい名前だね。さすが月白お兄様! ホワイト家はセブンとタイムって呼びそう。
弟がまた二人増えたのはすごく嬉しい。
だけど、知らされた結果にショックを受けたわたしは月白お兄様の胸に顔を伏せてぐずぐず泣き虫、引っつき虫。
だって、将来一八〇センチ超えて宵司のこと見下ろすはずだったのに、なのに……!
「うん、でも、たとえ真珠が僕より大きくなっても好きだけど、小さいままでも同じくらい好きだよ。僕が可愛いって思える女の子は真珠だけだけど、お祖母様くらい背が伸びたら、びっくりするくらい綺麗になるんだろうね。楽しみだけど、ちょっと心配」
「そうそう。むしろ小柄で可愛いから、真珠ちゃんモテモテで困りそう。沙華さんなんて最近、綺麗になりすぎて近寄りがたいくらいだもん。まあ、闇王様が相手構わず牽制しまくるからだけど、ほんっと、真珠ちゃんも沙華さんみたいなスキルだったらよかったんだけどねぇ……」
一歳のわたしが目覚めたスキルはテイマー。
だけど、実のところ、その時のわたしにはまだクアアをテイムするだけの魔力が具わっていなかった。
なのに、ばあやを助けたいって強い意志の力が……前世の大人メンタルが己の肉体の一部を燃料に大気中の魔素を魔力変換しつづけてしまったらしい……。
竜胆叔父様や憲法の説明によると、この世界の人々の体内には魔力変換器官っていうのがあるんだって。
人類が魔素に適応して進化したのか、元々あるのに使っていなかった器官なのかは不明だけど、おなかの下辺りにある魔力変換器官が大気中の魔素を魔力に変換してくれるらしい。
個人の魔力量はその器官の変換能力次第。一般的には身体の成長とともに魔力変換能力が増して、四十歳前後がピーク。それ以降は働きが衰えていくらしいから、宵司はもう老化一直線、ざまぁ!
とにかく普通の人間は魔力変換器官が作り出した体内魔力が枯渇した時点で終了。意識がなくなるか、下手すれば死ぬ。
だけどわたしの場合、一歳児らしからぬ意志の強さが災いした。
憲法や竜胆叔父様も不思議がってたけど、たぶん前世の責任感の強さっていうか、期限厳守、徹夜休日出勤して我が身を削ってでも絶対に仕事を終わらせるって社畜精神のせいだろうけどさ……。
クアアのテイムに必要な魔力を作り出すまで、わたしの魔力変換器官は他のありとあらゆる細胞を燃やしてまで働き続けた。
運動してエネルギー不足になった身体が脂肪燃焼、貯めこんだ脂肪をエネルギー変換するような仕組みっぽいけど、問題はそのせいで骨の成長軟骨板って部分にある軟骨細胞までバーンと燃やしちゃったことで……。
というかね、わたしの魔力変換器官はこのことでめちゃくちゃ活性化したし、いっぱい魔力を作っても自動的に魔力循環できるから、わたしの魔力量はありえないくらい多いらしい。
だけど、成長線のところの軟骨細胞が……のみならず、背が伸びるのに必要なホルモンを作り出す肝臓の機能低下とかいろいろ要因が組み合わさって、わたしの身長は一歳の誕生日からほぼ横ばい。
魔力枯渇で寝込んでた一カ月があったから、最初はばあやも竜胆叔父様もかかりつけのお医者さんも気楽に構えてた。
ところが数カ月変化なく、ミルクちゃんと一緒に暮らすようになった。
健康優良児のミルクちゃんは日々成長して、一歳から二歳で十センチ以上背が伸びた。それに較べて……って、周囲はけっこう焦っていたらしい。
事情を聞かされても平気で無視する宵司だけ、わたしにチビだのちいさいだの無神経な言葉を吐きつづけてたけどね! まあ、栄養豊富なダンジョン産の野菜フルーツ、肉野菜を貢ぎ続けてはいるけど、味が濃すぎてすぐ飽きるし……。
だから、一歳の夏のあいだ、竜胆叔父様が月白お兄様のお部屋で寝泊まりしていたのは睡眠中のわたしを診察治療するため。
その後のホワイト家のダンジョン巡りで竜胆叔父様がわたしに付きっきりだったのも、魔素の多い環境ならわたしの成長が促進できるのか調べるためだったらしい。ごめんね、ダメダメな大人と信じてて!
不本意ながら、憲法がクアアにかまっていたのもわたしからクアアへの魔力供給を減らしてみるという実験のため。
さらに憲法はわたしからの魔力供給を完全に遮断するための魔道具を開発したり、身体強化のように魔力を身体の成長促進に使えないかとか、成長ホルモンに魔素を追加した特製ポーションを開発。
配下の研究員たちにも成長促進効果のありそうなポーション、動植物、魔道具を徹底的に調査させたり、組み合わせによる相乗効果実験をどうのこうのと大忙しだったらしい。
だけど、どうやってもわたしの身長が伸びなかったホワイト家ダンジョンツアー三カ月間の結論としては、もはやお手上げ。
わたしが魔力変換の燃料にした分の肉体成長は諦めて、それより今後。
この先、わたしが二度と魔力不足にも魔力枯渇にもならないようにしっかり見守っていくしかないだろうってことに……。
あ、すすきさんとの守護騎士の誓約儀式は問題ないんだよ。あれはわたしの魔力じゃなく、憲法が描いた魔法陣がわたしの魔力に反応して光ってただけで、わたしの魔力消費はほぼゼロ。
だからこそ儀式のための魔法陣とか魔石インクの製作には大量の魔力が必要で、どちらもS級冒険者でもある憲法にしか作れないものらしい。
だけど、憲法、手掛けてる仕事が多いし、本当にやりたいことはただひとつ、生まれ変わった最愛の女性捜し。
なので、自分の代わりの魔道具師育成に本気で乗り出した憲法。
自分の研究所とか、黒玄魔法アカデミーの生徒とか、ホワイト家お抱えの魔道具師とかを徹底的に鍛えて、何十人どころか何百人もの優秀な魔法使いの心を折って挫折させつつメンタルケア。飴と鞭と二枚舌を駆使して、今年、ついに二人の魔法使いに及第点を与えた。
ただし、守護騎士の誓約儀式に必要な魔石インクを作る人と、超複雑模様の魔法陣を描ける人と、それぞれが一人ずつの二人。どちらもまだ憲法の半分以下のレベルだとか、ほんっと究極的に紙一重な有能さ……。
なにはともあれ、そうしてようやく深川少年がわたしの守護騎士になれた。
そう、あれからずっと深川少年、儀式待ちだったんだよ。憲法が儀式の準備より魔道具師の育成することにしたからね。
まあ、深川少年にとって待ち遠しい期間だったんであって、わたしはどうでもよかったけどね。
だって、この三年、わたし、おうちにしかいなかったから。
途中でおうち自体の引っ越しがあったけど、それ以外は黒玄家の敷地内から一歩も出ず!
わたし以外の家族はちょくちょく旅行に行ってたし、ミルクちゃんでさえフランシスおじいちゃんに誘われて沙華さんと外国の遊園地に行ってたけど、わたしはおうちひきこもり!
ばあやの子育て方針も三歳まで早寝早起き規則正しい生活厳守ってことになってたし、なにより途中で気づいちゃったからね。骨の成長に悪そうな遠距離移動や旅行は一切お断り! 睡眠重視!
でも、気づいたっていうか、現実を現実として受け入れたのは去年の九月。
いやでも、まだ一八〇センチ諦めたわけじゃないけど、ミルクちゃんと並んだ写真を見返したら、例のウエディングフォトツアーの時点でも身長差十センチ、大きさが一回り違った。
だけど、わたしの周囲はミルクちゃんと月白お兄様以外が全員大人。男性は基本的に巨人だし、沙華さんもすすきさんも背が高いから、わたしにとって自分がちいさいのは当たり前。
それにオムツ卒業とかおしゃべり能力とか、それこそスプーンの使い方からお箸が持てるようになった!とか、シールの貼り方ハサミちょきちょき、折り紙上手にできたね!みたいな、手先の器用さや日常生活の細かい点でわたしはふつうの幼児より格段に成長が早かった。
髪の毛とか爪も毎日伸びて、鏡に映る顔だって美人度アップ。
いやぁ、自分で言っちゃうけど黒玄真珠、ほんっとにフランス人形! 今風だと美少女フィギュアっていうのかな?
おかげで白絹お祖母様の可愛い可愛い孫ランキング、不動の一位、もはや殿堂! 着せ替え衣装がすごいことになってるよ……。
なので、自分が成長してないなんてこれっぽっちも思わなかったんだけど、双子の弟たちが生まれてね……。
最初はすごくちいさかった赤ちゃん二人。いや、陽玖も聖夜も生まれた時から三〇〇〇グラム越えてたけど、なんと生後半年でわたしと同じ大きさに!
だけど、二人はまだハイハイしはじめだったから、気のせいかなぁ?って自分を誤魔化せた。
ところが双子が一歳で立ち上がったら、目線が上! 完全にわたしより大きい! 振り返れば、ミルクちゃんとはすでに二十センチ差!
『…………なんで、ようちゃんとせいちゃんが、まじゅよりおおきいの? ううん、まじゅがちいさい? ミルクちゃんのせいちょうがはやいわけじゃなくて、まじゅのしんちょうがのびてないの?』
三歳のわたしのなぜなぜに凍りついた周囲。
それからいろんな大人に延々と説明されて憲法の謝罪もあったけど、プンプン許すまじ!
『けんぽうのバカ! しゃざいにせいいもかんじられない! もういい! まじゅはおにいさまになぐさめてもらう! けんぽうはおにいさまにちちおやらしいことしなさい!』
以後、憲法は「けんぽう」呼び捨て。宵司はもっと前から「しょうじのゴリラ! ダンジョンにかえれ!」扱いだけど、二人とも大笑いして、むしろ喜んでるのが解せない……。
陽玖と星夜と年齢は二歳七カ月差だけど、わたしは二月の早生まれだから、九月生まれの弟たちとは学年で三年違う。
なのに、身体の成長の早い双子はそれからも順調に大きくなって、ミルクちゃんみたいに運動神経抜群で、わたしに姉の威厳まったくなし!
弟たち二人とも、ミルクちゃんが姉で、わたしのことはちっちゃい妹だと思ってるよ!
だって、ミルクちゃんにはじゃれて幼児らしくぶつかりあって取っ組み合いの喧嘩もするのに、わたしには変にやさしい。いい子いい子って抱っこして頭撫でてくれる! 「まーた、かぁい」って、ちゅーもいっぱいしてくれるけど、違う!
わたし、ミルクちゃんより早く生まれた、みんなのお姉さん! 月白お兄様の次にわたしが年長者なの!
なのに、なのに、なのに……ダントラ! わたしの転生人生、やっぱりダンジョンの数だけ罠があったよ!!