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第66話 日本人女性初!



「ねーた!」

「真珠お嬢様!」


 ひしっと抱き合うわたしとすすきさん。

 抱き合うっていっても、大きさの都合上わたしが一方的にすすきさんからぎゅうっとされてるけど、三カ月ぶりの抱っこは力強さアップ!


 なんとすすきさんは異例の速さでS級冒険者に昇格してしまったらしい。この世界の日本で女性初だって!


 前世の日本で戦争を知らない子供たちがふつうになってしまったのと同じくらい、この世界の子供たちにとってはダンジョンのある生活が当たり前。むしろダンジョンを知らない子供がいない。

 一攫千金も夢じゃないから、どんなに命の危険があっても子供の人気ナンバーワン職業は男女問わずに冒険者。


 とはいえ冒険者って、始めるのは簡単だけどスポーツ同様、続けるのも上のランクに昇格するのもたゆまぬ努力とある程度の才能が欠かせない。昇格要件に男女差がない分、体力や体格で勝る男性が有利になってしまうし、基本的な魔力量も男性の方が多いらしい。

 だから、女性S級冒険者は全世界でもこれまで十人いるかいないか、その十人には自称女性も含まれているんだとか……。


 まあ、ホワイト家の四兄弟だって男性不妊なんだから、女性冒険者に生殖能力がなくても同じレベルで性別超越。男女で区分する必要ない気もするけど、とりあえず自分の子供のいる女性S級冒険者はいない。

 男性のS級冒険者でも子供がいる人は数えるほどで、筆頭はフランシスおじいちゃん。だけど、この世界にダンジョンができたのはフランシスおじいちゃんが十二歳の時。


 となると、アフターダンジョン生まれの驚異的なS級冒険者っていうのが、黒玄家の夜壱氏と憲法になる。この二人はS級冒険者になった後でも自分の血を引く子供を授かった。

 ただし、夜壱氏の嫁の白絹お祖母様も、憲法の嫁の露茄さんも、先天的に魔力量が豊富で冒険者ランクも高い才能豊かな女性だった。嫁が優秀なら子供が授かるのではと、闇王パパもホワイト家四兄弟もいろいろな女性と関係を持つことになったらしい。

 だけど、竜胆叔父様曰く、


「やっぱり魔力循環がね。ハワード氏は今から努力すれば魔石化した生殖細胞を復元できるかもしれない。でも、生きてきた歳月の分だけの時間がかかるから、四十年後かな。その点、黒玄家はもともと魔力循環のできる体質だから、これまで闇王様と宵司様に子供ができなかったのは、相手の女性との魔力の相性の問題だね」


 なにはともあれ、絶対数が少ないS級冒険者。

 だって、B級冒険者でも相当な高収入だから、お金が目当ての冒険者はB級で稼げるだけ稼いで冒険者業を引退する。特に女性はその傾向が強い。

 必然的にA級昇格試験を受ける人も少なくなるけど、さらにその上のS級冒険者を目指す人なんて日本ではここ最近いなかった。日本で一番若いS級冒険者は、なんと憲法!


 ということで、深川少年は世間的には憲法以来の若き天才S級冒険者!

 マスコミの前で記者会見を開いて、宵司の愛弟子で、黒玄家お抱えの冒険者だって自分の立場も表明したらしい。ただし、その時は魔道具で変装して、身長一八〇センチ、黒髪黒目の爽やかイケメンに偽装。名前も偽名。協力はもちろん憲法。

 わたしの傍で働くには、身バレしないほうがいいだろうという判断だとか。


 実は深川少年、宵司が才能を認めて、ここ数年難関ダンジョンで死ぬ目に遭っていたからダンジョン経験自体は超豊富だった。

 A級S級の昇格要件もとっくに満たしていたけど、本人がめんどくさがって昇格試験を受けなかったらしい。


 対して、すすきさんは黒玄家で働くようになってから、冒険者業をほぼ引退状態。

 冒険者はランクに応じて納品すべき最低限の年間魔石量が決まっている。

 露茄さんの護衛時代のすすきさんはお金のためではなく、自己鍛錬のために休日にダンジョン探索していた。B級資格はそれで維持できたし、A級昇格にも手が届きそうだったくらいにもともと強い!

 ところがわたしが生まれて、赤ん坊につきっきりになったすすきさんは完全にダンジョンに行かなくなった。冒険者カードの更新も放置。


 しかし、ここで秘かに手を打っていたのが白絹お祖母様。

 去年の年末に病気治療して元気になって、白絹お祖母様が最初に手掛けたのはわたしの養育環境の確認。

 その際、わたしの将来的な最側近になるであろうすすきさんが冒険者カードを更新していないことに気づいて、代わりに魔石を納品しておいたって。まあ、それだけじゃなく、裏で世界の女帝パワーが働いたみたいだけど……。 


 この一年半、自己鍛錬を怠っていなかったすすきさんは能力的にはA級に限りなく近いB級冒険者だった。

 だけど、A級冒険者への昇格試験を受けるには、事前の手続きだけでも数週間かかる。

 深川少年はぜんぶすっ飛ばして、一気にS級昇格ダンジョン一人制覇を達成したらしいけど、それはS級トップの宵司直々の推薦あってこそ。例外中の例外。


 だけど、すすきさんいないと、わたしが泣く!

 なので、黒玄家はわたしのためにすすきさんのA級昇格を全面的にバックアップ。もちろん本人の実力あってのことだけど、すすきさんは異例の速さでA級冒険者にランクアップした!


 女性のA級冒険者は世界でも少ない。この時点ですすきさんは女性としては日本でトップクラスの冒険者になった。

 大国の国家元首や世界の超VIPでも常勤護衛に雇えるのはA級冒険者が最高ランク。っていうか、今の現役S級冒険者で一番多い苗字が『黒玄』の三名だからね。次が『ホワイト』の二名だからね……。


 若き女性A級冒険者なんて、どこの国の偉い人も三顧の礼を尽くして迎え入れたい超優秀な護衛。

 だけど、黒玄真珠は周囲にS級冒険者がゴロゴロいる特殊な家庭環境のお姫様!

 だから、わたしが幼いうちにS級冒険者相応の実力を身につけて、わたしが大きくなってからもわたしをずっと守りたいっていうすすきさんの熱い想いに、白絹お祖母様だけではなく、ホワイト家の面々も感銘を受けた。


 なにしろわたしが外見で出自を疑われていたときでさえ、すすきさんは赤ん坊のわたしを愛情深く育ててくれていた女性。

 この先、すすきさん以上にわたしが信頼できる人なんて現れるはずもない。特に今後、ホワイト家絡みで近づいてくる人なんて下心ありまくりになっちゃうからね。


 なので、可愛い可愛い真珠ちゃんの平和な未来のために、黒玄家とホワイト家が手を組んだ。

 わたしにホワイト家のダンジョンを相続させる裏でそのダンジョンを使ってすすきさんに超特級ブーストキャンプ。昇格試験のためのダンジョンアタックにはホワイト家秘蔵の神話級武具や憲法作の魔道具ポーション使い放題、竜胆叔父様の治療受け放題だったとか……。

 しかもわたしが寝静まった夜とかに、すすきさんは時々わたしの寝顔を見に来て、憲法はクアアを魔石で釣ってダンジョンに連れてって勝手に強くしてたとか……!


 ひどい! わたし、すすきさんが強くなるより、いっぱい遊んでもらいたかったのに! 近くにいたなら会いたかったのに!! それにクアア、勝手にダンジョンに連れてくとか、クアアの身にもしものことがあったらどうするの!


「ねーた、クアア、いーこ!」


 すすきさんのあったかい胸の中でクアア抱えていい子いい子!

 なのに、憲法、ほんっと、わけわかんないこと言ってるし……!


「真珠の前では可愛らしいペットに擬態しているが、そのスライム、すでに総魔力量で宵司兄さんを超えている。巨大化してドラゴンを呑み込むなんて、ダンジョン内食物連鎖の最上位種だ。テイマーたる真珠をS級冒険者に認定させてもいい気はするが、さすがによちよち歩きと赤ちゃん言葉を誤魔化す魔道具なんて馬鹿馬鹿しすぎて作る気になれないな」


 クアアは可愛いぷにぷにパンダ! 巨大化なんてしないもん! ドラゴンなんて謎生物、食べたりしないもん!

 だいたいさぁ、真珠ちゃん、テイマーなんて知らない! ダンジョン危険! 戦うなんてイヤ! 冒険者ならない! 頭おかしいストーカーの戯言なんてムーシ無視!


 だけど、憲法を始めとする黒玄家やホワイト家の俺TUEE男性たちでも、A級からS級冒険者に昇格するまでに年単位の時間がかかったらしい。

 でも、深川少年がつい最近、先例作ったからね。

 すすきさんはすさまじい速さでめでたくS級冒険者に! 涙の再会! もう離さないもん!


「ねーた、まじゅといっちょ! づっと、づーっと、いっちょ!」

「はい、もうこの先はけっして真珠お嬢様から離れません。初めて触れた瞬間、私はこの手に感じた貴女様の熱さに己がこの世に生まれてきた意味を知りました。貴女様の涙は私に命の尊さを教え、貴女様の笑顔は私に幸せという感情を与え、貴女様の怒りは私に困難に打ち勝つ力を授け、貴女様の成長が私の無上の喜びとなっております。私のすべては貴女様のために。貴女様は光、貴女様の存在が私の生きる希望。真珠お嬢様、どうか私を貴女様の守護騎士としてお認めください」


 腕の中のわたしと目を合わせてほほえむすすきさん。

 この世界に生まれたときからわたしを傍で見守り続けてくれていたきれいで優しいお姉さん。

 抱っこしてもらうと安心できて、遊んでもらうと嬉しくて、わたしの愛と信頼の土台となる大切な存在。

 そのすすきさんに真摯な瞳で乞われたら頷くしかない。


「ねーたは、まじゅの、ちゅごいきち!」

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