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第6話 クリスマスは続くよもう少し

 正装姿の演奏家たちによるクリスマスソングの生演奏BGM。

 シェフの前のテーブル上には丸ごとローストチキンに塊ローストビーフ、生ハム原木。

 別のテーブルにはざっと見ただけでもビーフシチュー、チーズフォンデュ、アクアパッツァ、パエリア、生牡蠣、キッシュ、グラタンなどなどが並び、リクエストに応じてメイドが給仕してくれる。

 ソムリエはワインやシャンパンだけでなく、月白お兄様のためのソフトドリンクまでサーブしてくれる至れり尽くせりぶり。

 なのに、赤ちゃんは哺乳瓶……。


「んぶあぅあ……」


 不満げなわたしに気づいたのか、隣の席から闇王伯父様が問うてきた。


「真珠も食べたそうだが、何か食べられるものはないのか?」

「今日はお昼に離乳食をたくさん食べたので、夜はミルクとおかゆで済ませる予定でしたからね。先ほど闇王様の魔力もいただいてしまいましたし……おなかのことを考えると、せいぜい食後に果物くらいでしょうか」

「そうか。おなかか……小さいな」


 ばあや抱っこで哺乳瓶を抱えているわたしのおなかをじっと見る闇王伯父様。セクハラけしからん! まあ、見られても困る大きさじゃないけど。


「ねえ、ばあや、真珠も来年には同じごはん食べられる?」

「そうですね。来年には月白お坊ちゃまの用の料理を半分くらいなら大丈夫でしょう。成人男性用は塩分も脂分も多いですから、ばあやも月白お坊ちゃま用くらいがちょうどいいのですけどね」


 丸いテーブルの向かいの席に座る月白お兄様に、ばあやが答える。

 座席は四つ、闇王伯父様、月白お兄様、竜胆叔父様、ばあやwithわたしが時計回りに並んでる。

 でも、室内にはこれまで見たこともないほど大勢の人がいるよ。

 コックコート姿のシェフとか白いエプロン姿のメイドとかスーツにネクタイのソムリエとか執事っぽい眼鏡のおじさんとかガタイのいい護衛とか、たぶんこの家で雇われてる人だけでも十人以上!

 それにプラス、生演奏BGMのための楽器を抱えた人たち。フルートとヴァイオリンと、たぶんヴィオラとチェロだっけ。もちろんピアノを弾いてる人もいて、華やかクリスマスホームパーティー!

 なのに、哺乳瓶……。


「だぁあい!」


 さすがにこれは要りません! せめて、せめて、あのとろっととろけたチーズフォンデュ、フランスパン一口くらい!

 あ、むこうにはデザートのテーブルが! チョコレートフォンデュもあるじゃないですか! さてはあの黒いコックコートのお兄さんはパティシエですね。

 イチゴ! イチゴチョコください! 生クリームたっぷりの純白のクリスマスケーキでもミルフィーユでもブッシュドノエルでもなんでもいいです!


「ばぁば、ああいい!」


 ばあや、あれがほしい!


「まあ、真珠お嬢様、いけませんよ。まだ消化できませんから、あとでおなかが痛くなってしまいます。とはいえ、こうも食べ物がたくさんあるのに我慢というのも可哀そうですから、そろそろお暇してお風呂にしましょう」

「いー、えーあぁい!」


 お風呂よりケーキがいいの!


「ケーキですか。そうですね。はちみつを使っていないもので、甘さ控えめのものは? モンブラン? ああでも洋酒が使われているなら駄目ね。じゃあ、あちらのケーキのてっぺんのプリンだけくださいな。カラメルソースと生クリームはよけて、メロンと洋ナシとブドウを添えて」

「うぃん!」


 プリン!


「はい、真珠お嬢様。果物が甘すぎるので、先にプリンから食べましょう。つるんとなめらかでおいしいですね。気に入りましたか?」

「んま!」

「ええ、ではまたいつか作ってもらいましょうね。メロンのお味は? ええ、おいしいですね。洋ナシとブドウもやわらかくておいしいですね」

「あう、んま!」


 さすがばあや。見事に手玉に取られたわたしは目先のプリンとフルーツでご機嫌になって、遠くのごちそうを忘れてしまう。

 いや、だって幼児の視野って狭いから、目の前のものしか見えないし。

 なので、横で竜胆叔父様が不思議そうに首をかしげているのにもまったく気づかなかった。


 甘いデザートを堪能した後、わたしはばあやに連れられて部屋に戻った。

 アヒルとともにお風呂に入ったあとは、自然とおねむの時間。


「庭の探検は明日にしましょう。今日はいろいろありましたし、思わぬ方々に出会ってお疲れでしょうからね。よい子にはサンタさんが素敵なプレゼントを持ってきてくれますから、今夜はゆっくり休んでくださいね」


 そしてばあやが読み聞かせてくれるクリスマスの物語を聞きながら、いつものようにすやすや夢の世界へ。


 でも翌朝。

 目覚めた私はゆきだるまに変身していた……。


 自分でもなに言ってるのかよくわからないけど、眠い目をこすりながら……実際はばあやに顔を拭かれながら着替えさせてもらって、鏡を見たら白いゆきだるま!

 腕と脚は赤、白いフードのてっぺんには赤い帽子、ふわもこ真っ白ぽっこりおなかが可愛らしい、ラブリースノーマン真珠ちゃんがそこにいるではありませんか!


「まあ、なんておかわいらしいのでしょう、真珠お嬢様!」

「本当にお似合いですわ、真珠お嬢様。大奥様にすぐに動画を!」


 すすきさんとばあやも楽しそう。

 いつのまにか部屋に入ってきた月白お兄様も、一目散に抱き着いてきた。


「真珠、可愛い! 昨夜のサンタドレスも女の子っぽくて可愛かったけど、スノーマンだとぬいぐるみみたい!」


 おや、なんだか距離感というか、スキンシップがひときわ激しくなった気がするよ。そういえば昨夜、だれかさんにずっとべたべた抱き着かれてたもんね。

 そのだれかさんな竜胆叔父様も続けて部屋に入ってきた。


「うん、やっぱり赤い色が似合うね。色白だからピンクも映えるだろうし、意外に黒っぽいのもいいかな。子供ってすぐに大きくなるから、服がたくさん作れて楽しいね」


 実にお金持ちらしい発言ですね、竜胆叔父様……。

 すぐにサイズが合わなくなるのって、ふつうは困りものですよ。赤ん坊用に男女差なんてそんなにないんだから、月白お兄様のおさがりでもわたしはいいんですよ?

 なのに、この綺麗なお兄さんには、前世でまじめな労働者だったわたしの常識がこれっぽっちも通じない。


「クリスマスプレゼント、服だけじゃつまらないから、これ、月白とおそろいのぬいぐるみ。そのブローチ、今はパープルダイヤモンドにしてるけど、普段用にアメシストのブローチもあるよ。まあ、なくしたらまた贈るから、そのままの方が綺麗だと思うけどね」


 背後のおつきの人に運ばせていたクマのぬいぐるみを竜胆叔父様は月白お兄様とわたしにそれぞれ渡してくれる。

 でも、受け取れる大きさじゃない。かろうじて月白お兄様より小さいけど、わたしより二〇センチは大きいし重い!

 しかも月白お兄様のは白、赤ん坊のわたし用のはピンクのクマって、まともに遊ばせる気ないよね。汚れ目立ちまくり! ブローチのでっかい紫色の石といい、赤ん坊の手の届かないところに飾っておく用としか思えない。

 というか、けっこうずっしりしてるから、横からのしっと押されただけで、真珠ちゃん、押しつぶされそう!


「窒息しそうで危険ですから、月白お坊ちゃまも、当分はそのぬいぐるみを真珠お嬢様に近づけないようにお願いします」


 すぐにばあやがわたしをレスキューして抱き上げてくれる。月白お兄様のハグもいいけど、やっぱりばあやの抱っこが一番幸せ! 安定感あるのにあったかくて柔らかふかふか!

 わたしの背中をトントンしながら、ばあやは竜胆叔父様にしっかりダメ出ししてくれた。


「留め金の針で真珠お嬢様がケガする恐れがありますから、そちらのブローチは真珠お嬢様の宝石箱にしまわせていただきます。十カ月の赤ん坊にピアスまで入った真珠のアクセサリーセットを宝石箱に入れて贈る闇王様もどうかと思いましたが、竜胆様も実子が何人もいる方とは思えませんわね……」


 え? 実子が何人もって、この竜胆叔父様が? だって、まだかなり若いというか、とても既婚者には見えないんだけど……。


「僕は単なる種馬だからね。本当に必要なものは本物の保護者が与えればいいんだよ」


 ふふっと謎めいた笑みを受かべる竜胆叔父様に、ばあやはため息をついた。 


「本当に、竜胆様が女性でいらしてくれれば、闇王様のいいお嫁さんになってくださったでしょうに……いえ、それより早く朝食にしないと。月白お坊ちゃまと真珠お嬢様は、それからツリーの下のクリスマスプレゼントを開けましょうね」


 不思議な会話だったけど、子供の前だからね。ばあやはさっさと話を切り上げて、朝ごはんのために一階に連れて行ってくれた。

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