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第63話 すすきさんショック!

※1話当たりの文字数が多くなりすぎたので、話を分けていたら残り話数が増えて書くのに時間がかかりました。まだ最終話までたどり着いていないのですが、とりあえず土曜日まで1日1話更新します。その後はまたその後☆


 白いドレス姿のわたしの前に一人の青年が跪く。


「我が姫、貴女に心からの敬愛と永久の忠誠を。私はいついかなる時も貴女の側に立ち、我が力の及ぶ限り貴女を守り、貴女の命に忠実に従うことを誓います」


 黒玄家別館のホールにて、わたしと青年の足元には半径三メートルほどの複雑な模様の魔法陣が描かれている。

 誓いの言葉を述べた後、青年は手で直接、魔法陣の一部に触れた。特殊な魔石インクで描かれた線が光を帯びる。わたしの傍らで膝をついて付き添っている宵司がわたしを促した。


「あー、はい、承りましたってのはムリか。まあ、なんか、OKだの、いいよだの、適当に頷け、チビ」

「ちび、ちあう!」


「や、チビはチビだろ。あっちのは見るたび背が伸びてるのに、おまえ、ぜんぜん大きくなんねーし」

「ちょーじ、ごあぇい! ぐばい!」


 本気でムカッとするよね、このゴリラ! ほっぺたプンプンで、抗議のぴょんぴょん!

 なのに、わたしが膨らませた頬を宵司は面白げにつつく。


「おお、怒り状態で頬袋パンパン! リス科の新種モンスターか? ほら、攻撃してみろ、チビ」

「やっ! どーとたっちみぃ!」


「宵司兄さん、あんまり真珠で遊ばないでくれるかな」

 と、魔法陣の外から憲法がため息とともに声をかけてきた。

「やっと閉じ込めたスライムが檻を破壊して真珠を助けに行きそうだ。このスライム、魔石インクを消せるからね。まさかこんなことで何度も余分な時間を取られるとは思いもしなかったよ」


 憲法の横に立ってる竜胆叔父様とばあやもため息。


「もう諦めたら? 真珠ちゃん、賢いけど、さすがにまだ一歳半だよ。意味もわからないのに守護騎士認定させなくても、当面の代理人は実の父親の宵司様で足りるんだからさ」

「今日は朝から薄さんがいなくてご機嫌斜めですからね。一週間以内にA級冒険者に昇格して一度帰ってくる予定ですが、彼女の実力なら数年のうちにS級昇格も確実でしょう。何度か顔を合わせた程度の人間ではなく、まず薄さんを真珠お嬢様に守護騎士と認めていただいて、それから他の人間をというのが順当です」


 今朝は違和感ありまくりのスタート。

 なんと、なんと、すすきさんがどこにもいなかった! ショック!


 おかしいなぁ? いつもの朝と違うんだけど……って、どこ見てもすすきさんの姿がないことに気づいた瞬間、ギャン泣き!!

 おかげで朝から竜胆叔父様がわたしの顔の点々治療に呼び出されたよ。


 まあ、どうせ竜胆叔父様、黒玄家に住んでるんだけどね。たぶん研究所が本宅の憲法とか、基本的に夜遊び外泊な宵司よりここんちにいる時間長いよ。だって毎晩、月白お兄様のベッドで寝てるからね、一人で。

 ふふん、月白お兄様は真珠ちゃんと白絹お祖母様のベッドですやすやだもーん!


 闇王パパが沙華さんにプロポーズしたのはまだ昨日のこと。

 そしてあの場でホワイト家ダンジョンの話を聞いていたすすきさんは、わたしのためにS級冒険者になることを決意したらしい。


 すすきさんは難関大学在学中に学業と並行してB級冒険者になった文武両道なスーパーウーマン!

 赤ん坊の子守りなんてもったいないほど頭脳明晰、冒険者として華々しく活躍できるけど、家庭の事情とか本人の事情とかいろいろあって、憲法が露茄さんの護衛として直接スカウトしてきたらしい。


 スカウトの決め手は、「ピタゴラスの定理を美しく証明するように、彼女は人間相手に最も完璧な手加減ができる」から……。


 白絹お祖母様とばあやがぼやいてた感じだと、例の幼少期からダンジョンに入った弊害による不妊問題とか、不妊女性冒険者に対する侮辱的な扱いだとか、まあ、ほんとにデリケートな個人情報。

 要はすすきさん、自分に危害を加えようとした冒険者男性たちを全員、片タマ潰し、精巣一個破壊で無力化したらしい。

 十人がかりの集団で襲い掛かってきた相手の悪質さもあって、もちろん正当防衛で無罪。


 だけど、命は取らないものの男にとって死ぬレベルのトラウマを的確に与える凄腕女子大生の噂を聞きつけた憲法が、愛妻の護衛にぜひにと懇願!

 憲法の提示した労働条件と、露茄さんの人柄に納得したすすきさんは大学卒業後、露茄さんの専属護衛に。ここで露茄さんのためにであって、憲法のために働いてたわけじゃなかったのがポイント!


 露茄さんの死後、すすきさんは退職も考えた。だけど、生後まもないわたしに指をぎゅっとされて、心をわしづかみにされたらしい。

 しかも数日たつうちに、わたしは目も髪も肌の色さえ憲法の娘とは思えないことが判明した。

 それを聞きつけた黒玄家の親族が文句をつけてきたようだけど、ばあやが白絹お祖母様の名のもとに撃退。その後、わたしは親族が絶対に入ってこれない黒玄家の離れで育てられることになったらしい。


 ばあやは耳の形のこともあって、わたしが黒玄家の血筋だと確信していた。

 だけど、すすきさんには判断できない。それでもすすきさんにとって、その時のわたしは露茄さんの大切な娘で、ちいさなちいさな守るべき命。


『我が子のように思ってはならないことはわかっています。身の程は弁えますので、どうかお嬢様がおちいさいあいだだけでも私にお嬢様を抱っこさせてください。お嬢様がけっして一人で泣くことのないように、露茄様の分も私がお嬢様をこの胸で温めて、お守りしてさしあげたいと思います』


 給料なしでもいいからわたしの傍にいたいと願うすすきさんを、ばあやを通して白絹お祖母様が直接雇用。

 なので、わたしが寝てばかりだった新生児のころは、ばあやとすすきさんがつきっきりの泊まり込み体制だったらしい。


 ばあやは睡眠時間が短くていいからと、途中でうとうとしながら二十四時間三六五日休みなしでわたしの母代わり!

 すすきさんは日中がメインだったけど、業務に親族その他もろもろから送られてくる侵入者撃退も入っていたとか、すっごい大変!


 もちろん、この二人だけじゃなく黒玄家のお屋敷に雇われている人々もわたしの子育てをバックアップ。

 むしろまったく関わっていなかったのが、黒玄家三兄弟。

 一応、闇王パパは裏で別戸籍とか準備してくれてたみたいだけど、直接抱っこしに来てくれたわけじゃないしぃ?


 しかも黒玄家のお屋敷の管理責任者は白絹お祖母様。当然、わたしの養育にかかるお金はすべて白絹お祖母様のお財布から。

 というか、黒玄家で働く人々は全員、白絹お祖母様が社長を務める管理会社の社員という形になっているらしい。

 だから、本当は夜勤残業手当とか、有給休暇とか退職金制度とか、福利厚生制度が充実してたのに、ばあやとすすきさんはその管理会社を辞めて、白絹お祖母様の私的な雇われ人になった。

 そうすることで、もし白絹お祖母様の身に万が一のことがあっても、相続人たる黒玄真珠がばあやとすすきさんの雇用契約を祖母からそのまま受け継ぐことができる。幼いわたしが養い親代わりの二人から引き離されることのないように、白絹お祖母様が完璧に手配してくれていたらしい。

 わたし、見た目が憲法にぜんぜん似てなかったのに、白絹お祖母様、さすがだよね! お金の使い方に愛情がこもってる!


 なので、まだ三つにもなってないけど、三つ子の魂百まで。わたしの幼心に刻まれた父親不在、何それおいしいの?感はもはや手遅れ。

 ゴリラなんて最初からバイバイ。闇王パパですら何日か会えなくても気にしないけど、すすきさんは大事なお母さんの一人!

 振り返ればいつも傍にいることが当たり前で、その人の見守りがあって初めて一人遊びも、未知との遭遇みたいな宵司との会話(?)も我慢できていたのに……。


「っ、ふえっ、ねーたっ……」


 どこを見てもすすきさんがいないことに、目と鼻の奥がつーんとしてくる。

 そもそもさぁ、なんなのこのわけわかんない儀式? 


 ぐずりながら朝ごはん食べて、泣きながら月白お兄様のお見送りして、クアア抱えてばあやの腕の中でシクシクゆらゆらしてたら、泣き疲れて寝ちゃったらしく、いつのまにかこの場所にワープ!

 しかもここにいたのは憲法と宵司! 違う違う! おじさんいらない! 真珠ちゃんが会いたいのはすすきさん!

 なのに、床の変な模様の上に降ろされて、守護騎士の誓約儀式を始めるとか憲法が言い出してさぁ。

 知らないあいだにやたらフリフリした白いドレスに着替えさせられてたし、頭にもフリフリキラキラつけられてるっぽいし、目の前で跪いてる少年も仰々しい白い騎士服着てるし……。


 あ、少年じゃなくて、実年齢が十九歳だから、青年って呼称が正しいみたい。例の宵司の手下の青い髪の少年こと、深川いずみくんがわたしの守護騎士志願者なんだって。

 でも、青い髪をオールバックにして着飾っても、身長百六十センチと小柄で童顔だから、中学生どころか下手すると七五三。ちょっと発育のいい小学生にも見えるから、やっぱり深川少年としか呼べないね。


 宵司からざっと経歴説明があったんだけど、すすきさんがいないショックでろくに聞いてない。

 深川少年、たぶん沙華さんに劣らない不幸な生い立ちっぽい。年齢も十九歳で沙華さんと同じくらい。ダンジョンで死にかけて髪が真っ白になったから、髪のカラーリングを楽しんでるってのは理解。

 そこで助けたのが宵司とか、非合法暗殺組織とか、ダンジョン副作用で身長が伸びなくなったとか、代わりに魔力が爆発的に増えたとか、あれ? わたし、けっこうちゃんと聞いてた?

 とにかくわたしに会って、推し愛に目覚めた深川少年は、ぜひともわたしの専属護衛になりたいと立候補。

 白絹お祖母様は出自より実力主義。なので、深川少年がもしS級冒険者になって、わたしに誓約魔法で忠誠を誓うなら雇うことにしたらしい。


 だけど、S級って、ふつうはそう言われた時点で諦める超難関。

 そもそも現役のA級冒険者は全世界で百人前後しかいなくて、B級冒険者も相当すごい。強さはよくわかんないけど、B級冒険者の平均年収はなんと一億円だって!

 才能のある人間が努力を惜しまず運にも恵まれて最終的にたどり着けるのがB級冒険者。出世レースで生き残って、大企業の社長とか重役になれた人って感じ?


 なので、学生時代にB級冒険者になったすすきさんって、めちゃくちゃ優秀! 冒険者としての才能別格、その先は異次元に突入するA級、S級候補だったけど、ダンジョン入りもモンスターとの戦闘も高収入の稼ぎも、そのすべてはすすきさん本人の意志や希望によるものではなかった。

 すすきさんが自ら初めて望んだこと、それはわたしの傍にいること。

 そのために選んだ道がS級冒険者。


『この先もずっと真珠お嬢様をお傍でお守りするには今の私では魔力も力も足りません。とにかく急いでA級の昇格試験を受けてきます。S級も要件を満たし次第、すぐに挑戦しますので、これから一年……いえ、数年のあいだ、休職させてください』


 昨夜白絹お祖母様にすすきさんが申し出て、わたしの知らないところで話がまとまったらしい。

 ひどい! わたし、すすきさんが冒険者じゃなくていいし、護衛とも思ってないのに! すすきさんはすすきさん、わたしの一番の遊び相手でいっぱい抱っこしてびゅんびゅんしてくれる人! なのに、一年以上いなくなるなんてムリ!


 だけど、すすきさんに先んじて、深川少年はすでにS級冒険者に昇格したんだって。すっごい異例の速さだったけど、深川少年、身長を犠牲にした分、才能はありあまっていたらしい。 

 なんか少年マンガの主人公みたいだよね。悲惨な生い立ちからこの世界で超リッチなS級冒険者って、宵司よりよっぽど最強オレTUEE伝説って感じ。


 この深川少年もすすきさんもある意味、似た者同士。親や周囲の思惑で幼い頃から強制的にダンジョン入りさせられて身体能力を増強させられた。

 でも、本人に強い使命感や上昇志向があったわけではないから、自由意思に任されれば、宵司と違って最強冒険者を目指したりはしない。


 だけど、この真珠ちゃんの可愛らしさが彼らを目覚めさせた! わたしを守るためになにがなんでもS級冒険者になるって!


 すごいよ黒玄真珠! さすがはダンレン!原作でヒロインのライバルとして立ちはだかる悪役令嬢! 運動神経が多少鈍くても、文字が読めないかもしれなくても、下僕志願者に事欠かない!


 ……って、違う違う! 下僕も守護騎士も護衛もいらない! 真珠ちゃんがほしいのはすすきさんの抱っこ!


「ばぁば、ねーた! ねーた、どこ? ねーた!」


 もう儀式も宵司も放り出して、ぐずっと半泣きでばあやまっしぐらだよ!

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