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第62話 遅咲きのきゅんはぎゅうほ

 いつのまにか月白お兄様の腕からわたしを奪い取って、闇王パパは幼女アロマで心を落ち着かせながら最後の抵抗を試みる。


「私だけでなく、宵司も沙華さんと結婚するというのはどうだ? 私は沙華さんの保護者、そして宵司が実質的な夫となればいい。そうすれば宵司のダンジョン代理人としての身分も保証されるし、二人の相性は確認済みだ。宵司の息子が生まれれば頼もしい冒険者に育つだろう」


 沙華さんと結婚すれば、ホワイト家のダンジョンへのフリーパスが手に入る。喜ぶのかと思ったら、宵司は意外にも顔をしかめた。


「さっすが離婚歴二桁。歴代嫁が兄貴の嫁でい続けるメリットより、さっさと慰謝料もらって縁切り選んだわけだ」


 白絹お祖母様も容赦ない。


「わたくしの子育ては一人目から完全に間違えていたことがよくわかったわ。ここは跪いてプロポーズするところだっていうのに……この鈍感ふぬけな外面(ソトヅラ)ヘタレ!」


 そして、憲法は最終段階に入った。


「沙華さんは本能的に自分に一番必要な相手を理解して、闇王兄さんを選んだと思うよ。宵司兄さんが女性をどう扱うかわかってるよね? まさか沙華さんに再び娼婦になれとでも? 他の男にしても、ほんの少し勘のいい人間なら沙華さんの劣等感を刺激して、簡単にマインドコントロールしてしまえる。沙華さんが受け継ぐものを思えばあまりに危険だ。実際、僕は利用することしか考えていない」


 他人の劣等感を刺激してマインドコントロールのできる憲法は、もちろん兄のいかなる感情をも利用する。


「だけど、闇王兄さんなら、いや、闇王兄さんだけが今も沙華さんに可哀相だという同情心と、真珠の母親だという敬意をもって接しているだろう。可哀相は可愛いに、同情は愛情につながる。そこに相手への敬意が加われば、それはもう充分男女の、夫婦の愛情と呼べるものだ。闇王兄さんのこれまでの人生にまったく欠けていた感情だから、自分で気づけないのは当然だろうけどね」


 飴と鞭と、理解と共感と。憲法ってホワイト家の面々もこうやって言葉巧みに追い詰めたんだろうね……。

 それでも目的が世界平和のための魔道具開発とかだったら、すごく有能で頭のいい人としか思わないんだけど、超究極的な目的が生まれ変わった露茄さん捜しだからねぇ。やっぱりお祓いグッバイしたいよねぇ……。

 沙華さんも本気で宵司はイヤそう。


「宵司様、お店のお姉さんたちのあこがれの人だったからからなぁ……。宵司様が結婚したら、すっごいショック受ける女の人がいっぱいいそうだし、子供だけ作るっていっても、宵司様の赤ちゃんだとまたあたしのおっぱいイヤがりそうだし……」


 あう、ごめんね! 最初は眠かっただけだけど、わたし、おばさん記憶のある赤ちゃんだったから、どうしても母乳には恥じらいがあって……。

 それに沙華さん大好きなミルクちゃんは、闇王パパの娘。

 宵司の子供はわたしみたいになる可能性がないわけじゃないし、出産で大変な目に遭うのは沙華さん。だから、沙華さんが望む相手の子供を産むべきだよ。

 なので、わたしは全面的に沙華さんをバックアップ!


 宵司、白絹お祖母様で言葉を無くし、続く憲法で撃沈。もはや頷くしかない闇王パパは目を閉じていた。その大きな手はほとんど無意識のうちにわたしの背中をトントンさすさす。うん、赤ちゃん体温、落ち着くよね。だけど、ここは心を鬼にして子離れしていただきましょう。


「パパ、だ、ちゅき!」


 まずはだいちゅき攻撃でパパの目を開けさせて、目が合ったところでスマイル炸裂!


「まじゅ、パパ、ちゅき! まじゅ、にーた、ちゅき!」


 真珠ちゃん、パパも好きだけど、にーたな月白お兄様も好き。


「真珠? ああ、真珠は私も月白のことも好きなんだな。もちろん私も真珠が大好きだ」


 ふむふむ、ちゃんと伝わってるね。

 なので、とどめ。


「まじゅ、かーた、ちゅき! パパ、かーた、ちゅき?」

「かーた、は、沙華さんのこと、だったな? あ、ああ、真珠はお母さんのことが好きで……いや、私に聞いているのか? いや、質問だと!? なになに期は二歳過ぎからと聞いたが……」


 おおっ、闇王パパが育児の予習してる! うん、月白お兄様が時々読み聞かせてくれる育児書によると、これなぁに?ってなになに期が二歳過ぎで、三歳過ぎてからなぜなぜ期みたいだね。

 だけど、転生幼女な真珠ちゃんが一歳半で賢くコミュニケーションできても、月白お兄様は喜ぶだけ。白絹お祖母様もばあやもそれ以前の子育てで苦労してるし、ミルクちゃんだって一歳半の身体能力じゃない。なので、わたしの舌ったらずな質問なんて、ほほえましい赤ちゃん語でしかない。


「真珠、可愛い! だけど、真珠が一番好きなのはにーただよね? パパより、にーたのほうが大好きだよね?」


 闇王パパが戸惑っている間に、ささっとわたしを取り戻す月白お兄様。ほっぺにちゅうされたから、もちろん真珠ちゃん好き好きちゅっちゅお返ししますとも!


「にーた、だぁちゅき! パパ、より、だぁちゅき!」

「すごい! ちゃんと『より』も言えるようになったんだね! うん、じゃあ、次は『が』も言えるかなぁ? にーたが好き、って言える真珠? にーたと、好きのあいだに『が』って言ってみて」


「にーた、が、ちゅき!」

「よくできました! 真珠は世界で一番可愛くて賢いよ。にーたも真珠が一番好きだからね!」


 相思相愛、ラブラブ幼児!

 月白お兄様のナイスアシストによって、隣で一人孤独に取り残される闇王パパ、シングル中年の悲哀!


「子供はすぐに大きくなるんだな……。片手に収まる小ささだったあの真珠がもうこんなに……」


 ちょっと寂しげにつぶやいてから、闇王パパは覚悟を決めたように沙華さんに向き直った。


「沙華さん、私は年齢的にも女性に対する配慮のなさからしてもきみの相手には相応しくない。だが、逆にきみに紹介できる見合い相手として、私が一番望ましく思えたのは二十年後の月白だ」


 闇王パパ、一応沙華さんのお見合い相手を大至急捜索したみたい。まあ、ホワイト家対策をあれこれしてるときに世界中の名のある冒険者や有力者の子弟もチェックしてたみたいだからね。


 だけど、結局、財産目当てではない男性で、ある程度の若さと見た目と才能を持ってて人間性に問題がなかったら、とっくに嫁や恋人がいる。

 完全にシングルなのって、それこそ黒玄家の強烈な三兄弟とか、ホワイト家の四兄弟とか……。


 そう、黒玄家だけじゃなく、実はホワイト家の四兄弟も全員独身。

 だけど、恋人っていうか、愛人っていうか、事実婚の妻みたいなのは何人もいるみたい。父親を見習って、子供ができたらきちんとした『妻』にすることにしていたとか、なんかもう傲慢身勝手なクズばっか!


 なので、闇王パパが世界中探しても今現在、沙華さんに相応しいお見合い相手は存在しない。望みがあるのは月白お兄様だけど、それも二十年後ってあたりでめっちゃ相手への要求水準高いよね……。


「きみの若さと美貌と才能に私が不釣り合いなことはよくわかっている。だが、きみが望んでくれるなら、私は全力できみを守り支え、きみとともに成長していきたい。真珠とミルクの親としても、一人の人間としても、きみとなら私は自分に不足している何かを育てていけると思う」


 と、ここで闇王パパは立ち上がって、沙華さんの前で膝をついた。


「私と結婚してくれますか、沙華さん?」

「え? あ、はい。あ、あたしでよかったら、喜んで」


 パンパカパ―ンな公開プロポーズ! ハッピーウエディング!!

 やったね! おめでとう!

 もう今度こそダントラ終了!のつもりだったけど、


「闇王伯父様と沙華さんと一緒に、僕と真珠も結婚しちゃおうか? うーん、でも、真珠はウエディングドレス似合いそうだから、毎年結婚式挙げてもいいかなぁ?」


 なんか、もうちょっと先送りにしてきた自分の問題があるような気もするね……。

 まあ、いずれ時間の経過で解決するだろうから、ここは真珠ちゃんお得意技。


「ばぁば、ごはん! まじゅ、おなかちゅいた!」


 壁際のばあやにヘルプ! 一歳児はまだまだお母さんが一番好きですとも!

※ここまでお読みくださった方々本当にありがとうございます!

 評価ブックマークいいね!等、大変励みになっております♪


 三月も終わるというのに完結できませんでした! まさか春になってからもこの話を書き続けることになろうとは……!(笑)


 敗因は遅咲きのキュンキュンがのろま牛歩の長男です。本日更新分の第61話62話は、予定では第60話に収まっているはずだったのに……。

 なので、予定は未定のドリームをここに書いても予告詐欺になりそうですが、希望としてはあと4~5話で終わるはずです。きっと4月中には終わるはず。

 来週は更新できるかわかりませんが、来月こそ完結目指してがんばります!

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