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第61話 ホワイト家のダンジョン


 実は闇王パパってば、沙華さんとの子作りに同意したわけじゃなかった。

 その場の旗色が悪いから、とりあえず戦略的撤退。

 大切だったのは来年の七月までに沙華さんが妊娠しなかったら諦めるって、『期限』だったらしい……。


 で、多忙だ疲れていてその気になれないだのなんだのって沙華さんとの接触を避けてやりすごそうとしていたみたいだけど、そうは問屋が卸さない。


 だって、白絹お祖母様が完全にウエディングドリームに入っちゃったからね!


「や、あたし、別に結婚式とか、そもそも結婚してもらえなくてもいいけど……」


 でも、沙華さんにしても欲しかったのは赤ちゃん。結婚も結婚式もまったく考えてなかったみたいなんだけど、なんと白絹お祖母様と憲法が最強最恐タッグを組んだ!


「きみの結婚式に招待するという条件で、フランシス氏が自分のダンジョンの所有権をきみに譲渡してくれることになったんだ」


 目的のために手段を選ばないストーカーは、ストーキングに必要な素材を手に入れるためなら兄をも売り渡す!!

 というか、憲法、すでに闇王パパに対して相当やらかしてるんだけどね……。

 でもって、長兄のみならず、うきうきダンジョンに出かけていた次兄を憲法が入ダン直前に強制的に呼び戻したところで、家族会議となりました……。


 二学期がはじまった月白お兄様の帰宅後になったから、わたしは当然月白お兄様のお膝。ほっぺたすりすりスーハ―されてるよ! ソファの隣に座ってる闇王パパもわたしナデナデで精神安定中……。


 白絹お祖母様のお部屋の、コの字に置かれたソファの一番奥の部分にわたしたち。

 で、闇王パパの斜め横に沙華さん、その隣に白絹お祖母様。

 わたしと月白お兄様に近いソファに宵司と憲法って、こう、座る場所からして闇王パパをがっつり追い込んでるような……。

 

 あ、ミルクちゃんは宵司を避けて、真津子おばあちゃんとプール。

 ばあやとすすきさんは部屋の片隅のわたしの遊び場で待機してくれてる。クアアと子豚ぬいぐるみもわたしと遊ぶのを待ってるよ! 絵本もいっぱい!

 だけど、メイドさんや護衛の人たちはお部屋の外。一応、家族だけのお話合いということになったらしい。


「ホワイト家を納得させるレベルの結婚式となると、やはりメインはウェストミンスター寺院だろう。その後はハネムーンとして世界各地の教会や宗教施設を訪れて、沙華さんの晴れ着姿を撮影してもらう」


 憲法ドリーム、ハンパないね。露茄さんとの結婚式のために調べたんだろうけど、ウェストミンスター寺院って、前世じゃイギリス国王の戴冠式とかロイヤルウェディングが行われるところだった気がするよ。

 あげく世界一周ハネムーンだけど、これはビジネス、商取引らしい。

 なにせ本当の訪問地は宗教施設ではなく、ホワイト家が世界各地に所有するダンジョン。


 実はフランシスおじいちゃんが沙華さんに譲渡しようとしているのは、今回宵司が入りそこねたダンジョンの権利だけじゃない。世界各地に所有するすべてのダンジョンの自分の持ち分をそっくり沙華さんに渡すんだって。


 譲渡っていうより、相続?


 フランシスおじいちゃんは七十五歳のときに自分が所有するすべてのダンジョンの権利を息子四人と分けて、五人がそれぞれ二十パーセントずつ持ってる状態だった。

 だけど、この世界で個人でダンジョンを保有しているのはホワイト家と一部の専制君主制度の国家元首だけ。天下の黒玄家だって入手不可能!


 なので、名義変更にはすさまじく複雑な手続きと高いハードルがあって、書き換えるには所有者も譲渡される人間も現地ダンジョンに行かなきゃいけない、新たな所有者はそのダンジョンの最下層ボスに対抗しうる戦力を所持していることを証明する必要があるだのなんだの……。


 ホワイト家の人々は全員がSランク冒険者だから、冒険者カードの提示で証明完了。

 だけど、沙華さんは無力。


 この場合、沙華さんは代理人を立てることができる。代理人は夫である必要はなく、誓約魔法で沙華さんに忠誠を誓えばいい。

 たぶんダンジョンの譲渡が沙華さんに対してだけだったら、闇王パパは宵司や憲法に代理人役を押し付けてごまかせたかもしれない。


 ところが、とっても気前のいいホワイト家の伯父さんたちは、現在ただ一人の姪っ子である真珠ちゃんにダンジョンの権利を譲ると言い出したらしい。


 その代わり沙華さんの結婚式に出席させろとか、その場で真珠ちゃんとの写真が撮りたいとか、できれば抱っこしたいとか……。


 で、憲法が勝手にサクサク交渉して、わたしへのお触り厳禁、だけど結婚式参加とその場での家族写真の撮影はOKって条件で、四人の伯父さんたちが自分の所有権の半分をわたしに渡すことになったんだって。


 ダンジョンって特殊なものだから、資産といっても全世界で治外法権。相続税や贈与税の対象外。

 とにかく管理が大変で、もしもダンジョン崩壊を起こしたら全額損害賠償しなきゃいけない。責任重大だけどその分、入場料や魔石、素材、お宝品売買の手数料で毎月毎年、天文学的なお金が入ってくる。


 なのに、真珠ちゃんはわずか一歳にしてホワイト家が世界各地に所有するダンジョンをそれぞれ四十パーセントずつ保有することに!

 沙華さんがフランシス氏からもらう二十パーセントと合わせると、母娘で過半数越えの六十パーセント!

 ストーキング魔道具のための素材を入手し放題、使い放題になるこのチャンスを憲法が逃すわけない!


 でも、これ、やばいよね?

 だって、ダンジョン、ほっとくと崩壊してモンスターが氾濫するんだよ! そんなのの管理、わたし、大きくなってもできない! しない! 罠いっぱいの危険な場所には近づかないから!


 なのに、一歳児の意向を無視する憲法によると、わたしはホワイト家のダンジョン崩壊の責任だけをいずれ強制的に押し付けられていた可能性があったらしい。まあ、憲法の言うことだからぜんぶ信じていいのかどうかはわかんないけど……。


「僕も知らなかったが、ホワイト家所有のダンジョンにはフランシス氏の血族のみに継承されるという厳格な誓約魔法がかかっている。解除の条件はフランシス氏の直系血族がこの地球上からひとりもいなくなるか、該当ダンジョンが崩壊するかだ。つまり、今の状態だと真珠は知らないうちにホワイト家の所有するダンジョンのすべての権利と責任を負うことになっていたかもしれない」


 なんかさ、悪役令嬢って、生まれ持った血に呪いがかかってるのかな?

 ダンレン!の黒玄真珠って、たぶん自分がホワイト家の血族だって知らなかったよね? なのに、ダンジョン崩壊したら損害賠償押し付けられることになってたってこと?

 いや、たぶん、ダンレン!原作の範囲内だとホワイト家の伯父さんたちが生きてたんだろうけど……。だから、憲法がひそかに目論んでたホワイト家メンバー暗殺計画が白紙になったのはよかったんだけど……。


「ホワイト家の一族や僕たちが元気なあいだはダンジョンの所有権を通して、真珠の個人資産だけを増やしてやれる。だが、ダンジョンは将来的に負の遺産にもなりうる。真珠の、ひいては月白の負担を軽減するには、沙華さんが子供を産んで真珠以外の子供にダンジョンを譲った方がいい。無論、月白が世界征服を目論むなら、ホワイト家のダンジョンをすべて手に入れるべきだが」


 月白お兄様はぶんっと首を振った。

 

「いりません。自分で言うのもなんですけど、僕ってたぶん世界一お金持ちな七歳児ですよね? 夜壱お祖父様の遺産はほとんど僕の名義になったみたいだし、お祖母様もなにかと生前贈与してくれるし、お母様の遺産もお父様が相続放棄してぜんぶ僕名義になったみたいだし」


 祖父や母親の遺産だけでも月白お兄様、めちゃくちゃ億万長者だけど、わたしやミルクちゃんが生まれるまで黒玄家の相続人は月白お兄様ひとりだった。

 なので、父親や伯父たちも資産の月白お兄様への名義変更をせっせと行っていたらしい……。


「お父様は僕が生まれた後の特許権は僕名義で申請してたみたいだし、闇王伯父様も宵司伯父様も新月曽お祖父様から受け継いだ分の株とか特許権の持ち分は僕名義に変更済って。でも、伯父様たちからの分は真珠やミルクに名義変更してもらったほうがいいのかなって、闇王伯父様と弁護士さんに相談したら、手続きが大変だし、真珠やミルクにはこれから作る会社の株や別の特許権や不動産をあげるからそのままでいいってことになったし」


 天文学的な金額のお金配りができる黒玄グループのお坊ちゃまは、七歳にして計算不可能なお金持ちであらせられました……。


 え? でも、ホワイト家って個人資産が黒玄家より多いって、前に憲法が言ってたよね? それってホワイト家、ダンジョン以外の資産もいっぱいあるってこと?

 だけど、ダンジョン以外は血族以外でも相続できるはず! というかもうぜんぶ他人にあげて寄付して! じゃなかったらダンジョン崩壊の損害賠償に備えて貯金でいいから!


 一応、可能性としてはこの先、憲法のストーカーシステムでフランシス氏の隠し子が見つかるかもしれない。

 だけど、権利や責任が分散するとそれはそれでトラブルのもとだから、ホワイト家としてはダンジョン管理をわたしに……というより、月白お兄様と、月白お兄様の背後の憲法に任せたいらしい。

 まあ、ホワイト家にしてみれば、憲法って敵に回すと鬼悪魔だけど、味方にしたら最強だもんね。


 でも、月白お兄様もわたしももう十分すぎるくらいのお金持ちだし、なにより、と憲法が語る。


「月白が物心つく前から触れて喜んだのは、武器ではなく楽器だ。今も必要もないのに無理して学校に行くくらい、人間に対する興味や情が深い。真珠を守るために必要な努力はできるだろうが、時に負傷者を切り捨てるダンジョン探索や、非情な決断を迫られる局面も多い企業経営を好んでやりたいわけではないだろう。僕としても、露茄との最良の記憶に存在する我が子に、本人の適正に合わない仕事を強制したくはない」


 これでも憲法、我が子に対する情がなくはないらしい。なんだかんだと憲法の子供って月白お兄様だけだもんね。


「それに真珠もスライムをペットとして可愛がる子だからね。テイムしたモンスターに戦いを代行させるにしても、目の前で自分のペットが倒されて死ぬのは嫌だろう。だから、真珠と月白にはダンジョンと関わらないで済むような人生の選択肢を残してあげたい」


 うんうん、わたし、クアアが死ぬのは嫌だし、一緒に遊ぶことはあっても、代わりに戦ってもらうとか、ないない。モンスター討伐もダンジョン探索もわたしの性格的に不向き。

 さすが憲法よくわかってる!


「その点、ミルクは初めから身体能力や興味の対象が違う。お父さんや宵司兄さんに次ぐ、さすがは黒玄家と言われる冒険者に育つだろう。ミルクなら親族として真珠の代理人になれるが、ホワイト家のダンジョンを継承することはできない」


 いや、ミルクちゃんに関してはどうだろう? モンスターと好んで戦うオレTUEEは宵司だけだと思うよ。

 そりゃ、ミルクちゃん、ぬいぐるみとかお人形とかぜんぜん興味なさそうだけど……絵本とか音楽とか、じっと座って聞いてるのも嫌そうだけど……積み木も投げるものだと思ってるみたいだけど、今はまだ赤ちゃんだから! 大きくなったら、可愛いヒロインになるの!


 だけど、月白お兄様とかわたしとかミルクちゃんとかの問題ではなく、つまるところ憲法が欲しいのはダンジョン素材!


「だから、もし子供が授からなかったとしても、闇王兄さんは沙華さんと結婚して、夫婦円満、真珠とミルクを等しく可愛がる幸せな家庭を築いた方がいい。いや、築くべきだ。黒玄グループの総帥業よりよほど人類の未来と、なにより真珠の幸せに貢献できる有意義な仕事だよ」


 たぶん言ってることは間違ってないのに、なんでだろう。このストーカーの兄に生まれた闇王パパへの同情心がとまらない……。

 さすがダンジョンの数だけ罠がある世界、ダントラ!

 だけど、ごめんね、闇王パパ。わたし、憲法、応援する! 沙華さんと幸せになって!

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