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第57話 とことん残念な人

 思い込んだらまっしぐら、喰らいついたら離れない。

 しかも能力も才能もそれを活かす環境も人並外れて持っている黒玄憲法は、最愛の女性を亡くして、まず彼女の複製(クローン)を作ろうとした。


 肉体の再生魔法。これはこの世界における再生医療分野の魔法陣や魔道具を一気に進歩させ、黒玄グループは世界をリードする最先端医療魔法研究所を手に入れることになった。


 人工知能の分野においても過去のデータを基に故人の声や動作の癖、ものの考え方などのすべてを再現し、さらに自ら学習して人間以上に人間らしく成長できる人工知能魔道具を開発。

 その結果、憲法は人知を超えた人工超知能をも秘かに作り出し、すでに魔力の型の分析特定などを代行させているらしい……。


 けれど、クローンはクローン。パーツを組み合わせ、どんなに似せても本物の露茄さんが戻るわけではないことを痛感させられた憲法はその後、時間逆行魔法に取り組んだ。


 神の領域の頭脳を持ち、性格もマッドサイエンティストな憲法はどんな禁忌にも土足で踏み込み、己の望む結果を手に入れることができる。


 しかるに生きてきた年月のほとんどの時間、憲法の原動力となってきたのは露茄さんへの愛。


 そう、どんなに執着や束縛がひどくても、相手や周囲の人間への迷惑になっても、それでも露茄さんもだれも否定できないほどに、憲法が露茄さんだけを愛しているのは確か。

 その愛する女性への想いゆえに、憲法は露茄さんが絶対に望まない子殺しを思いとどまった。そして、露茄さんが残した子供の幸せを優先することにした。


 しかし、ミルクちゃんを捜すためのDNA分析装置や、竜胆叔父様のための魔力の型の分析研究などを進めていて、憲法は気づいてしまったらしい。


「DNAを同じくするクローンを作り出しても、魔力の型は同じにはならない。DNAが近い親族だと魔力の型や発現するスキルは似通るが、必ずしも同じスキルになるわけではない。とりあえずのサンプルとして音楽による浄化スキルを持つ人間が多い縹家で調査させてもらったが、縹家に多いDNAや魔力の型を持っていても、竜胆を筆頭に浄化スキルを発現しない人間もいる。となれば、露茄の魂が生まれ変わった場合、彼女の特徴が最も顕著に現れるのは魔力の型ということになる」


 いやいや、それ、たぶん、気のせい! 偶然の一致じゃないかな?

 そもそも魔力の型って組み合わせが膨大って聞いた気もするから、一生見つからない可能性も高いけど……。


「言っとくけど、この件に関して僕はなにも口出ししてないからね、月白」


 憲法が『縹家で調査』と言ったせいか、憲法の隣から竜胆叔父様が言い訳しはじめた。おもに月白お兄様に。


「憲法兄さんが縹家と連絡取ってたのもお盆前に初めて知ったし、その時に姉さんの生まれ変わりを捜すとか聞いたけど、ぜんぜん想像もしてなかったっていうか、そもそも輪廻転生って僕は信じてないから! そりゃ、人間とか魔物の怨念みたいなのがどす黒くこびりついてるのは感じ取れるけど……ストーカーじみた執着の気配もわかるけど、基本的に憲法兄さんの姉さんへの執着以外は浄化魔法で綺麗に消えるから!」


 竜胆叔父様は浄化スキルを発現しやすい家系なのに、魔医療師。だけど、浄化すべき対象の怨念みたいなのは感じとれるらしい。

 まあ、そういう特殊スキルとか魔力の型とかちっともわかんないけど、憲法の頭がおかしいのは今に始まったことじゃない。もう『恋愛』通り越して、執着怨念、浄化の対象!


「せっかく生まれ変わっても、またおまえに付きまとわれるのか……」

「愛憎は表裏一体、恋心も度が過ぎると怨念に変わってしまうのね……。縁切りにご利益がありそうな神社は京都のほうにあったかしら? とりあえずお参りに行って露茄さんの幸せをお祈りしてくるわ」


 闇王パパも白絹お祖母様も、あっちに座ってるばあやも、『こいつまたか。また始まったのか……』ってうんざり顔でため息。

 うん、みんな、輪廻転生信じてないね。


 実を言えば前世のわたしも宗教とか超常現象とかぜんぜん信じてなかった。

 空想の物語とか漫画とかアニメとかゲームとか、ダンジョンも冒険も異世界ファンタジーもチンプンカンプン。

 まあ、さすがにアニメ大国ジャパンに生まれ育ってるから、子供向け名作アニメくらいは見たことがある。だけど、大人になってから、他人の夢見たドリームワールドを共有して楽しむなんて論外。ラノベ作家だったらしいオタク新人の話も完全スルーしてた。


 でも、こうして実際に生まれ変わると、前世で現実だけに生きていたのはよくなかった気がする。


 物語にしても宗教にしても、たとえ映画鑑賞とかスポーツ観戦でも、なにか、こう、仕事以外の趣味とか興味で、仕事以外のことを考える余分な時間があったほうがよかった。っていうか絶対に必要だった。

 うん、人間、日々寝食忘れて仕事に打ち込んじゃいけない。働きすぎ。過労で思考麻痺。前世の自分がなんのために死ぬほど働いてたのか思い出せないけど、だから、今度の人生は遊ぶの優先!


 もちろん闇王パパにも遊んでもらうよ。

 でも、憲法とゴリラは別。だって、趣味が仕事の人たちだから!


 それに憲法の犯罪(ストーカー)行為は推奨しないけど、その過程でホワイト家の血族が見つかれば、わたしはラッキー。ホワイトゴリラと円満に縁切り!

 なので、陰ながらすごく応援してあげる。大丈夫、生まれ変わりってあるよ! サンタクロースと同じくらいには信じていいよ!


 月白お兄様も諦めたように言った。


「つまり僕は将来、真珠と同い年かそれ以下の年齢の義母を持つことを覚悟しておくべきだということですね」

「え? 月白、認めちゃうの? 生まれ変わりって、ありえないとか止めなくていいの?」


 驚く竜胆叔父様に、月白お兄様は小学二年生とはとても思えない思慮深さをしめされました。


「生贄を捧げる時間逆行魔法に較べれば、僕やミルクに害はなさそうだし、生まれ変わりは別として、お母様と魔力の型が同じだと予知夢のスキルを持つ可能性がありますよね? 悪用されやすいスキルだから、早めに見つけて保護してあげるのはいいことだと思います」

「月白、偉い! そっか。姉さんと同じ魔力の型だとスキルが同じかもしれないね。うん、もう姉さんの魂とか言われた時点でパニックになって、そこまでぜんぜん思い至らなかったよ。そうだね。人助けと思えばいいことかもしれないし、姉さんって性格的に生まれ変わるなら男だろうし」


 そうか、同じ性別に生まれ変わるとは限らないね。

 だけど、その言葉を聞いても憲法の表情は変わらず、月白お兄様の覚悟もしっかり定まっていた。


「大丈夫です。僕、性別ごときで差別しませんから、相手がミルクと同い年の男の子でも、ちゃんと『お母様』って呼んであげます」


 いや、それ相手への嫌がらせ……じゃないね。

 もし本当に露茄さんと同じ魂を持つ人なら、たとえ前世の記憶がなくても月白お兄様から『お母さん』って呼ばれたいかもしれない。

 だって、月白お兄様、めっちゃいい子! いっぱい撫で撫で抱っこしてあげたくなるもんね。ほんとに父親が残念過ぎて、不憫……。


「そ、そうだね。うん、まあ、でも、そっちの可能性に較べれば、フランシスおじいちゃんの隠し子なんてあと百人くらい出てきてもおかしくないし、もしかしたら不妊とされてた高ランク冒険者の子供も見つかるかもしれないから、DNAと魔力の型の識別装置の開発には僕も協力していくつもりなんだ。だから、まだまだ月白のベッドに泊めてね!」


 最近、竜胆叔父様がどうしようもなく残念で、なおさら月白お兄様に同情したくなるけど、賢い月白お兄様は対処法も編み出しておられました。


「どうぞご自由に。でも、僕は二学期が始まったら、心の平安のために真珠とお祖母様のところで寝ます。あ、今夜は真珠と闇王伯父様のところに泊まりに行かなきゃ。その前に闇王伯父様、真珠のお昼寝タイムに絵本読んであげてくださいね。僕、子守唄弾きますから」


 おおっ! カンペキ! すばらしいプランです、月白お兄様!! 真珠ちゃんがもう眠いって、把握ぶりもすごい!

 実は憲法の早口BGM説明の辺りで、闇王パパの肩にガクンとよだれ垂らしそうになってたんだよね。その後もネムネム呪文が続いたし……。


「そうだな。真珠に絵本を読んでやるのは、沙華さんの誕生日ぶりか。よし、憲法、あとは任せた。竜胆、きみも我が家に好きに滞在して構わないが、私の寝室には立ち入り禁止だ。心しておくように」


 わたしを抱っこしなおして、すっと立ち上がる闇王パパ。

 隣の月白お兄様も、白絹お祖母様も、あちらのばあややすすきさんもソファからささっと立ち上がる。


「真珠が闇王のところで寝るなら、わたくしはこれから京都に行って、あちらで一泊してくるわ。縁切り神社、三社で足りるかしら? お守りは露茄さんの墓前に供えるだけじゃなくて、月白と真珠と、ああ、沙華さんにも必要ね。しっかりお祓いしてもらわなきゃ」


 すでに白絹お祖母様の中で三男は悪霊確定なのかもしれない……。


 とことん残念な人、憲法!

 だけど、母親になんと思われようと露茄さん以外どうでもいい憲法は、地球上の全人類の個人情報を掌握するだけでは満足せずに、次なる野望の構想に入った。


「露茄が男に転生した場合や、子供ができないことを理由に結婚を断られる可能性を考えれば、人工子宮を開発しておくべきか。受精卵は体細胞を生殖細胞に変化させれば作れるし、たとえ女性でも人工子宮で出産による母体へのダメージが避けられる。研究費はホワイト家や高ランク冒険者たちから引き出せるだろう。まずこの研究に特化した人工知能の開発と、同時並行で優秀な魔道具師の育成を……」


 やばい! この人、やばすぎ!! 生命操作、人類のタブー! 踏み入れちゃいけない領域に完全に入ろうとしてる!!

 もう憲法がおかしすぎて、みんな(※竜胆叔父様除く)でさっさと部屋から出ようとしてたんだけど、さすがに聞き捨てならなかったらしい。月白お兄様が振り向いて釘を刺す。


「お父様、あんまり変なことするとお母様に嫌われますよ? それに、たとえ生まれ変わっても好みは変わらないだろうから、お母様は我が子より真珠を可愛がると思います。将来、真珠と僕のあいだに娘が生まれたら、もっと大喜びしますね」


 月白お兄様、ほんとに賢い! でも、わたしとの結婚前提ってのがダントラ!

 だけど、憲法もはたと気づいたように、またぶつぶつと人間性に問題のあることをつぶやきはじめた。


「ああ、そうか。そういえば理想的な着せ替え人形がいるね。だったら早く見つけてあげないと、可愛いお人形さんの成長過程を見損ねたと残念がるだろう。仕方ない。これからはホワイト家が送ってくる真珠用のドレスも受け取って、一度、映像記録に残しておくことにしよう。沙華さんのドレスアップした姿もそれはそれで露茄が見て楽しむかもしれないから……」


「……僕は信じてないけど、姉さん、仏教葬だったんだよね。仏教には輪廻転生の考え方があるけど、あれって六道輪廻の世界から解脱して、輪廻転生しない涅槃の世界に渡るために修行するっていうようなのだったよね? 姉さん、三歳の頃からたっぷり修行して功徳を積んだ人生だったから、もう今ごろ涅槃の世界でお釈迦様とほほえんでるんじゃないかな……」


 扉の向こうで竜胆叔父様もなんか言ってるのはムーシ無視!

 とことん残念な人だけど、まあ、仕事はできるからね。闇王パパのお休みとわたしの甘える時間のために、がんばれ憲法! 竜胆叔父様も!


※ここまでお付き合いくださった方々、本当にありがとうございます!

 評価ブックマークいいね!などなど、大変励みになっております!!


 本日は第50話からここまで8話投稿しています。

 これでようやっと憲法のターンが終わったのですが、残念ながら完結までには至りませんでした……。

 あと少し沙華と、だれより主人公の話を!


 とりあえず来週の水曜日くらいに更新します。完結マークがついていることを書き手が一番願っております!(笑)

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