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第54話 誕生日のおうた


「はっぴばすで、パッパ! はっぴばすで、ちょーじ! はっぴばすで、けーとーた! はっぴばすで、かーた!」

 

 今日は黒玄家三兄弟の合同誕生日ランチ会。

 同じ日に生まれたわけじゃないけど、三人とも七月末生まれなので、まとめて闇王パパの誕生日にお祝い。


 月白お兄様のピアノ演奏に合わせて、わたしは闇王パパの腕の中で可愛らしくお祝いソングをプレゼント。

 竜胆叔父様に抱っこされてるミルクちゃんも「まんま? まま? んまーま!」ってご機嫌で音楽に合わせてくれた。


 でも、闇王パパ、宵司、憲法とーたと来て、四人目に名前を呼んだのは「かーた」な沙華さん。


 正確な生まれた日はわからないし、『相済沙華』の誕生日は十月にしたそうだけど、憲法が辿った記録やフランシス氏が訪日した日付からして、沙華さんの本当の誕生日はおそらく七月。

 なので、今日も十月も沙華さんをお祝いって、白絹お祖母様がオーホホホッと超強引理論主張!


「四十六年前も四十年前も三十二年前も、あんなに痛い思いをして産んで、手間暇かけて大切に育てたのになにが悪くてこんな風に……って恨み言しか出てこないから、今日は沙華さんの誕生日をお祝いしましょう。これまで祝ってあげられなかった分も、これからは沙華さんの誕生日を七月と十月にお祝いね。今回は邪魔が入って出かけられなかったけど、十月は旅行に行きましょう。オーストラリア辺りなら真珠やミルクもコアラを見て喜ぶかしら」


 なので、今日は黒玄家三兄弟は添え物。

 黒玄家本館の広大なダイニングルームにごちそうは山ほど準備されてるけど、プレゼントはおまえたちが準備しろって白絹お祖母様から息子たちに厳命が下ったらしい……。


 まあ、闇王パパは赤ちゃんのわたしにさえジュエリー貢ぐ人だからね。

 七月の誕生石のルビー宝飾品一式を沙華さんにもミルクちゃんにもわたしにも、母親の分まできっちり準備。

 

 宵司はぶちぶち言いながら、ダンジョン産のお守りみたいなのを沙華さんにプレゼントした。

 実の父親のくせに一度も祝ったことがないわたしの誕生日プレゼントも持ってきたらしいけど、憲法チェックでストップ!


「これって神話レベルの癒しの指輪だけど、魔素吸着型だからダンジョン深層で使うだけにした方がいいよ。使う時に近くにいるモンスターのみならず、人間の魔力を根こそぎ奪う可能性がある。真珠は大丈夫だろうが、月白が巻き込まれたら危険だから、真珠のお守りにはならないね」


 なので、宵司から家族への貢ぎ物はふつうの果物で作られた各種ジェラートの詰め合わせ。手下の青い髪の少年が手配したみたいだけどね!

 ばあやが「おなかを壊しますから一口だけですね」って、わたしやミルクちゃんからすぐ遠ざけたけどね!


 憲法から沙華さんには、高性能筋トレマシン魔道具。露茄さん用に作ったことがあったものを、沙華さんの身体能力に応じて魔法陣を書き直し、その設計図と材料を研究所の部下に渡して作らせたらしい。


 ミルクちゃんとわたしにもアカデミーの生徒に作らせたプレゼントくれたんだけど、ミルクちゃんにはスワンの形をした足漕ぎ式の、絶対転覆しないミニボート。

 わたしにはどんな強風や攻撃を受けても安心安全、ものすごくゆっくり進む魔石蓄電池式パンダ型ミニボート。もちろん転覆防止機能付き。

 ミルクちゃんのは自力、わたしのは他力。ありがたいけどなんか違う!


 ちなみに月白お兄様には、黒玄家三兄弟のコネを駆使して手に入れた十七世紀イタリアで作られた稀少なヴァイオリンが二挺贈られた。

 月白お兄様、母方の祖父からもそういうヴァイオリンもらってた気がするけど、歴史的価値のある楽器を後世に残していくためにも、黒玄家っていうか、価値のわかる月白お兄様がコレクションしていくんだって。


 というか、この夏は家族でいっぱい旅行する予定だったのに、ホワイト家ご一行様が日本から出て行かない。

 ホテルどころか黒玄家の周囲の家を買い取って、フランシスおじいちゃんもその息子四人もそれぞれが別々にがっつり拠点を作ってしまったらしい。


 なので、闇王パパが本気で引っ越し計画、立て始めた。

 もう候補地の絞り込みは終わって、あとは周辺の土地をどれだけ買い取れるかで決めるって。お金持ちすごいね! きっと景気対策!


 なにはともあれ、憲法の結界で守られてるこのおうちから出るとホワイト家にうるさく絡まれることは必至。


 なので、予定変更、おうちおこもり夏休み。


 でも、毎日おいしいもの食べて、プールで遊んで、広大なお庭を駆け回って、遊具もおもちゃもいっぱいだから、ぜんぜん不便も不満もない。むしろ、赤ちゃんには安定していて楽しい毎日。ミルクちゃんもご機嫌そのもの。


 しかも月白お兄様がいっぱい遊んでくれる!

 月白お兄様、午前中はヴァイオリンとピアノの練習していることが多いけど、ここんちの音楽室広いからね。部屋の隅っこで名演奏を聞かせてもらいながら、クアアとうーたと他のぬいぐるみと遊んで踊ってるだけでもすごく楽しい。合間合間にお歌も教えてもらえるし!


 午後からは体力増強、プール遊びの時間。

 わたしはプールサイドの水遊び、月白お兄様とミルクちゃんは水泳だけど、まだみんな途中休憩がたっぷり必要なお子ちゃま。

 いつのまにかプールサイドに喫茶コーナーやお昼寝コーナーもできてたから、こまめに休憩して一緒におやつを食べて寝て、時には何代目かわからないパンダ型プールの新機能をあれこれ試して遊ぶ。


 月白お兄様は水鉄砲がすごく上手。

 パンダの目から発射される水鉄砲、発射ボタン代わりのボールを握る強さやタイミングで水の量や勢いが変わる。

 何度やってもわたしがシュートした水は的まで届かない。水鉄砲を改良したり、最終的に的を近づけてくれたけど、それでも水は的の足元にぱちゃぱちゃかかるだけ……。

 でも、月白お兄様は遠くのラスボス宵司の顔の中央に水をバシッと当てて、ドーンと的を倒せちゃう!


 ミルクちゃんは水鉄砲じゃなくて、かけっこが得意。自分の足でトトトッと走って射撃の的にぶつかりに行く。

 なぜだかミルクちゃんはどうしても身体で的を押し倒したいみたい。しかも、お気に入りのぶつかり相手がフランシスおじいちゃんの的。的を倒したら、フランシスおじいちゃんの写真の上に座って、ざぶとんにしてる。

 幼児の行動、謎だね。というか、パンダ型プールの機能とか関係ないし……。


 しかもミルクちゃんを見ていたクアアもぴょんぴょん飛び跳ねて的を倒しに行くようになっちゃって、一番最新のパンダ型プールからは水鉄砲機能自体がなくなった!


 パンダの目から出てくるの、風とアロマ!

 ボールをぎゅっとしたら、握る強さに応じて、甘い花の香りやすーっとするミントの香り、甘酸っぱいイチゴとか豊潤なバナナの匂いとか、いろんな香りの風が出てくるようになった! いい匂いだから、こっちの方が楽しい!


 でも、わたしが遊んでて一番楽しいのはお歌だよ。まだ歌ってほどじゃないけど、月白お兄様の伴奏に合わせてもう一度お歌で四人をお祝い!


「はっぴばすで、パッパ! はっぴばすで、ちょーじ! はっぴばすで、けーとーた! はっぴばすで、かーた!」

「あーああ、まんま! ああーああ、がぁう! あああああ! あああ、ああああ、ままぁ!」


 わたしとミルクちゃんの歌の終わりに、さあと促された沙華さんが誕生日ケーキの蝋燭をふうっと吹き消す。

 白絹お祖母様、息子の誕生日は何度も何度も何度も祝い飽きたって、今日は完全に沙華さんバースデー。誕生日ケーキも沙華さん用ひとつ。チョココーティングされたアイスケーキの上に長い蝋燭十九本。


 息子たちは母親のすることに特に不満がないみたいだけど……というか、宵司はこの後夜の街に繰り出す気満々みたいだし、闇王パパも憲法も昼食がてらちょっと仕事抜けてきただけみたい。なので、自分じゃなく沙華さんの誕生日におつきあいしてるっぽい。

 だけど、それでもせっかく年に一度のお祝いの日だからね。


「はっぴばすで! ちゅー、パパ!」


 エンジェルスマイル炸裂真珠ちゃんは闇王パパのほっぺにお祝いのちゅう!


「ありがとう、真珠」


 一瞬驚いたけど、闇王パパ、すぐに笑顔でわたしのほっぺにお返しのちゅうしてくれた!

 そしたら、ミルクちゃんも自分を抱っこしている竜胆叔父様のお口にちゅーうぅ!


「う、うん……。ありがとう、ミルクちゃん。でも、僕の誕生日は十一月だから、今日は沙華ママにちゅうしてあげた方がいいんじゃないかな」


 竜胆叔父様、ミルクちゃんを沙華さんの腕にバトンタッチ。ミルクちゃん、すぐさま沙華さんにぎゅっとして、熱いちゅう! 続いて隣の真津子さんの腕に移って、真津子おばあちゃんにもちゅう!


 で、それを見ていた宵司がこちらに近づいてきて、闇王パパの腕の中のわたしに両手を差し出す。


「ほら、ダッドにちゅうする番だろ?」

「ちくちく、やっ!」


 ゴリラのゴワゴワヒゲ面、真珠ちゃん一ミリたりとも近づきませんとも! 「パパ、パッパ!」って闇王パパにしがみつく。


「真珠に会う直前に髭を剃るのが面倒なら、もういっそ髭の永久脱毛したらどうだ、宵司」

「冗談じゃねぇ。ようやっと魔力が落ち着いて夜遊びの許可が出たんだ。この髭に喜んですり寄ってくる女はいくらでもいる」


 えー、それ、ヒゲじゃなくて、お金にすり寄ってくるだけだと思うけどぉ?

 話を聞きつけた憲法も釘を刺しに来た。


「宵司兄さんの魔力が落ち着いたのは竜胆の手助けと、真珠を時々抱っこさせてもらってたおかげだから、まだ油断禁物だよ。特に興奮状態になると……ああ、そうだ。さっきの癒しの指輪、宵司兄さんがつけていればいい。万が一の時に相手を助けられるだろう」


 ということで、宵司はわたしに贈るはずだったダンジョン産指輪をはめて、自分の四十歳の誕生祝いの席からさっさと退散!

 真珠ちゃん、とっても可愛らしくお見送り!


「ぐばい、ちょーじ! ごあぇい!」

「……見送りが一番嬉しそうな笑顔って、このチビ、ババアや兄貴以上に鬼娘に育つだろ? 可愛いのか、あれ? いや、でも、顔は……つーか、兄貴に甘えてる時はニコニコしてやがるが……」


 ゴリラの遠吠え、しーらない。

 最近、闇王パパ、ホワイト家絡みのお仕事が忙しくて、あんまり遊べなくなってたから、ここぞとばかりに甘えるの!


「パパ、ちゅき!」

「ああ、真珠。宝石は真珠にはまだ早いから、新しい絵本があるぞ。もう少し時間があるから読んであげよう。どの本がいい?」


 おおっ! 闇王パパが学習してる。そう、赤ちゃんに宝飾品一式って気のせい無用の長物だもんね。

 なので、パパがお仕事に戻るまで、お膝でたっぷり絵本を読んでもらって、ゴーロゴロ思う存分甘えてご機嫌な真珠ちゃん。


 で、憲法のストーカーグッズがラブリーなわたしを撮影するのはいつものことだし、仮にも憲法が作った変態製品だからね。そんじょそこらの隠れ方じゃない。家中、撮影されてる方にはぜんぜんわかんない場所に仕掛けられてるし、照明とか花瓶の生花に完全に紛れてるらしい。


 なので、誰も知らないあいだに撮影された今日のお誕生日会が、ホワイト家に対する切り札になるとは、それこそ憲法以外の誰もが想像しないことだった。


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