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第49話 ノーモアゴリラ!


 気分的には一時間、実際にはたぶん二十分くらい大泣きした結果、


「真珠!? どうしたの?」


 一目で月白お兄様の涙が止まるくらい、わたしの顔はひどいことになってしまったらしい……。


 そのびっくり顔に驚いて、しゃくっとわたしの嗚咽もとまる。


 あとでばあやの子守唄で聞いた話だと、わたし、新生児の頃から大泣きすると目の周りだけじゃなくて、首まで赤い点々が浮かび上がってたんだって。毛細血管が切れての内出血。赤ちゃんにはよくあることだけど、わたしは肌の色が薄いから余計に痛々しく目立つみたい。


「ああ、大丈夫だよ。身体に害はないけど、可哀相だから治しておこうか。月白も、ごめんね。よしよし、二人ともいい子いい子」


 すぐに近づいてきた竜胆叔父様が月白お兄様ごとわたしをほわっと抱きしめて治療してくれた。その竜胆叔父様本人の目も真っ赤だし、竜胆叔父様と同時に駆けつけてくれたばあやの瞳も潤んでいる。


「ええ、本当に二人ともいい子ですね。悪いのは全部大人ですから、お部屋に戻っておやつにしましょうね。もちろんまだ泣いてもいいですが、ほっぺが痛くなりますから拭き拭きしておきますね」


 ばあやはわたしと月白お兄様の顔をやわらかい布で拭いてくれた。ばあやの四次元ポケットにはふんわりしっとり感触の吸水性の高い布が何枚も入っているらしく、一枚は竜胆叔父様に渡してる。さすがばあや、すごい!


 でも、その時、ジリリリリーン、ジリリリリーンと壁の電話がカラフルな光とともに鳴り始めた。


 家族会議のためにこの離れに集まった大人は全員、スマホをはじめとする通信端末の電源をオフにしていたらしい。しかも防音結界の魔道具で内部の声は一切外部に漏れないようになっている。

 だけど、部屋の入り口の壁面に設置されている緊急用の衛星電話だけは別で、これは番号を知るのが各国政府のお偉いさんだけの、国際的な大規模スタンピード対策連絡網だったとか。


 なので黒玄家の人々のあいだにはすわ高難度ダンジョン崩壊か!?と緊張感が走ったけど、事情を知らないわたしからすれば派手な電話だなぁ?って感じ。キラキラ光るし、呼び出し音量もミルクちゃんの泣き声に負けないくらい段階的に大きくなっていく。


 五回目のベルで電話を取ったのはすすきさん。「了解しました」ってすぐに白絹お祖母様に渡しに。

 白絹お祖母様は一言二言相手に返して、その電話をそのまま憲法に渡しに行った。


「おまえに任せるわ。どうすべきか、わかっているわよね?」


 そして、白絹お祖母様はわたしや月白お兄様の前に来て、月白お兄様の頭をいい子いい子した。


「さあ、月白、部屋に戻りましょう。真珠には朝寝が必要だから、真珠が寝たらそのあいだに夏の旅行の計画を立てましょうね。この夏は三人で遊べるだけ遊んで、海に山にお出かけしましょう。わたくしは今は満天の星空が見たい気分だけれど、月白は何が見たい?」


 月白お兄様はいつになくぶすっと一言。


「真珠の笑顔」


 白絹お祖母様は赤く充血した目を細めて頷いた。


「ええ、そうね。わたくしも真珠とおまえの笑顔を見るのが一番幸せよ。おまえたちが笑っていられる未来をおまえの父親も伯父さんたちもがんばって作り上げてくれるでしょう。ええ、大丈夫。きっと竜胆さんも憲法に協力して、ホワイト家から真珠と沙華さんを守ってくれるでしょうし、いざとなったら宵司が全面的に矢面に立って、相打ち覚悟で特攻自爆してくれるでしょう」


 え? 宵司が特攻自爆って、ホワイト家ってそんなに問題あるの?

 ゴリラVSホワイト家?

 まあ、でも、大人ががんばればいいもんね。立派な三兄弟に凄腕魔医療師な竜胆叔父様まで揃ってるんだもんね。


 赤ちゃんなわたしは心安らげる安全なお部屋に戻って、ジュースとゼリーで水分補給してすやすやおねむ。


 で、目覚めて聞いたところによれば、その緊急衛星電話の相手はホワイト家のハワード氏だったらしい。


 竜胆叔父様はダイニングルームでわたしを抱っこした時点で、わたしとホワイト家との血縁関係を確信して、ハワード氏に連絡。

 以前は魔力の型までしか判別できなかったけど、竜胆叔父様、スキルアップして触れた相手の遺伝情報まで識別できるようになった。なによりここ最近、竜胆叔父様を拘束していたアメリカでの仕事はホワイト家絡みだったんだって。


 世界中に個人所有のダンジョンを持ち、ダンジョン資源でウハウハ大富豪なホワイト家。


 一代で財と名を成した当主、フランシス・ホワイト氏は現在九十一歳で、子供は息子四人。

 一番上の息子は白絹お祖母様と同年代。一番下のハワード氏は宵司と同い年。息子たちにけっこうな年齢差があるのは母親が違うからで、フランシス氏には妻が二人。それぞれの妻が二人ずつ息子を産んだらしい。


 フランシス氏の四人の息子は全員が伝説的な高ランク冒険者。

 さすがに上の二人は五十歳を過ぎてから冒険者を引退したものの、三男リチャード氏と四男ハワード氏は今でも宵司とオレTUEE世界一を競っている現役バリバリゴリラ!


 そもそも、フランシス・ホワイト氏こそが、この世界の冒険者ランキングで栄えある初代世界王者に輝いた、かつての最強オレTUEEだったとか。


 でもさ、それってつまり、ホワイト家って、黒玄家の二代目夜壱氏とその息子の宵司しか存在してないようなおうちってことだよね?


 イコール、ゴリラの巣窟。


 ヤダ! わたし、そんなとこ近寄りたくないし、そんな人たち、お近づきになりたくない!

 ノーモアゴリラ! 宵司ひとりでも持て余してるっていうか、もうバイバイダンジョンに帰れなのに、これ以上、脳筋のお知り合いいらない! ゴリラと遊んであげるの疲れる!


 なのに、竜胆叔父様ったらひどいんだよ。


「権力者が最後に行きつくのが不老不死っていうか、若返りっていうか、それも駄目ならせめて自分の遺伝子を残したいってしつこくてねぇ……。ホワイト家って、前から四兄弟がすっごい権力筋から別々に圧力かけてくるから一族丸ごと迷惑だったんだけど、黒玄グループの真珠ちゃんCMが強烈でねぇ……」


 ホワイト家からの強制お仕事依頼はわたしのラブリーCM以降、四兄弟が結託してのすさまじいものになったらしい。


「あのCM見て、黒玄家に子供が生まれたなら僕の仕業に決まってる、黒玄家にだけあんな可愛い赤ん坊ずるい自分にも寄越せ、あれだけ可愛い菫色の瞳の赤ん坊なら血筋も問わないみたいな、もう、泥沼エスカレートな子供に聞かせられない話になっててさぁ……」


 竜胆叔父様、ぐだぐだ言い訳してるけど、結局は自分のお仕事が大変だからわたしと沙華さんをホワイト家に差し出したんだよ!

 言語障害なわたしに代わって、月白お兄様が的確に指摘。


「うちのお父様も無茶苦茶ですけど、トロフィーワイフの次にトロフィーチャイルドを欲しがるような連中が沙華さんと真珠をまともな人間扱いすると思えません。仮にハワード氏がお父様よりましだとしても、他の三人はどうなんです? 末弟のハワード氏と三人の兄たちとの力関係はどうなっているんですか?」


 ちなみに今いるのは白絹お祖母様のお部屋のリビング。

 朝寝後のわたしは月白お兄様にべったり抱っこでソファに座ってて、両隣に白絹お祖母様とばあやもくっついて座ってる。足元にクアア、わたしの手の中には子豚ぬいぐるみのうーた、背後にはすすきさんって最強布陣!


 で、テーブルのむこうのソファに竜胆叔父様がぐったり。

 事情説明というか、男性陣の代表として途中経過の説明に来たらしいんだけど、わたしたちが退室したあとの離れはけっこうな戦場だったみたい。


 まず、憲法は白絹お祖母様から託された衛星電話でハワード氏と会話して、大至急確認すべきことがあった。


 竜胆叔父様も沙華さんに触れた時点で気づいたらしいけど、沙華さん、実はハワード氏の娘じゃなかったらしい。ハワード氏には身に覚えがない。でも、血の繋がりは確実にある。

 竜胆叔父様は最近診察したホワイト家四兄弟の魔力の型も遺伝情報も分析済み。その四人の誰もが沙華さんと近しい親族の可能性はある。だけど、父親というほどには近くない。


 となると、可能性が残されていたのはホワイト家の中で唯一、竜胆叔父様が最近診察していない男性だったわけで……。


「息子たちはともかく、九十過ぎた今でも見た目は六十歳くらいだから、これから十年くらいはあのおじいちゃんが頑張って娘と孫を守ってくれるんじゃないかな」


 憲法とハワード氏はフランシス・ホワイト氏と沙華さんのDNA情報をお互いにメールで交換することにした。

 そして、双方がすぐさま二人の父娘関係を確定。

 ということで、沙華さんはアメリカのダンジョン王、フランシス・ホワイト氏の五人目の子供でした!


 なんでもハワード氏が日本に留学に来て、宵司とダンジョンに行って大怪我して入院したときに、父親のフランシス氏が心配して見舞いに来日したことがあったらしくて……。

 その時、見た目は五十そこそこ、実年齢七十オーバーのフランシスおじいちゃんが、宵司と一緒にクラブ豪遊どんちゃん騒ぎして、何人もの女性をホテルにお持ち帰りしたことがあったらしくて……。

 まあ、どっちも類友似た者ゴリラ、オレ最低決定! ダンジョンに帰れ! 出てくるな迷惑生物!!


 ていうかさぁ、だったらホワイト家の不妊問題が明るみに出た時に、そのおじいちゃんががんばって子供作ればよかったんじゃないかって気がするんだけど、こういうのって男の人にとっても切実な問題。

 だから、もちろん、そういうのはぜーんぶ試した上で、最後の最後にようやっと受け入れることができた繊細過ぎる現実だったらしい……。


「ほんっとにこういうの相性っていうか、沙華さんを産んだ女性が突然変異的に魔力耐性強かったんだと思う。ただ、まともな医療を受けられなかったとはいえ、その女性でも出産時に命を落としているからね。単純な魔力量からいうといまだに世界一っていうか、あのおじいちゃんほど魔力凝縮して身体の半分が魔石になってるような魔法使いの子供を妊娠できる女性もレアだけど、出産までこぎつけられるのは十億人に一人ってとこかな。あ、でも、おかげでアンチエイジング効果もすごいし、大丈夫! あのおじいちゃんはきっと百五十歳くらいまで元気に生きるよ!」


 それって人任せっていうか、問題投げてる竜胆叔父様に、賢い月白お兄様はみじんもごまかされなかった。


「つまり御年九十一歳のフランシス氏になんとかしてもらわないといけないくらい、ホワイト家のハワード氏以外の三人は人間性に問題があるんですね? うちのお父様と同類ですか? 竜胆お兄様、お母様の御恩に報いるためにもホワイト家相手にがんばってくださいね。僕と真珠と、それに竜胆お兄様の可愛い可愛い姪っ子のミルクの幸せのためには、沙華さんが自由で安心安全な環境にいることはぜったいに必要なことですから」


 うんうん、実際、真珠ちゃんの泣き声で我に返った闇王パパは今、世界中からホワイト家に関する情報を集めて、わたしと沙華さんを守る戦略を練るとともに敵味方の色分け中らしい。


 宵司は宵司でダンジョン関連の連絡網を通じて冒険者仲間を招集中。


 いやぁ、だって、ホワイト家の人たちって、権力ごり押し、竜胆叔父様に白紙の小切手と引き換えに紫の瞳の赤ん坊寄越せって迫ってたみたいだからねぇ……。

 沙華さんは彼らにとって一番血の繋がりが濃い存在だし、すでに子供を産めることが確認された健康な若い女性。あげく、わたしはフランシス氏の菫色の瞳を受けつぐホワイト家の血族。


 ホワイト家四兄弟の中でも特に六十歳を過ぎた上の二人の、菫色の瞳の赤ん坊への執着ぶりはひどかったから、憲法がハワード氏と電話してる間に竜胆叔父様は闇王パパと相談。とにかく世界中の権力者から手をまわしてもらって、上の二人をアメリカ国内に強制的に足止めしたらしい。

 さすがにもう日本にむかってるハワード氏の飛行機を撃ち落とすわけにはいかないだろうって、ぼそっと闇王パパ、つぶやいたみたいだけど……。


 その後、闇王パパは憲法に「一発殴らせろ」って強烈なボディーブロー喰らわせて、長男らしい忍耐強さでもろもろを呑み込んだ模様。

 憲法はすっごい顔色悪くなったみたいだけど、竜胆叔父様、治療放棄。自業自得だもんね、憲法の。


 でも、その言葉が似合うのは竜胆叔父様もで、竜胆叔父様がすぐホワイト家に知らせたりするからこんな慌てて対応しなきゃいけなくなったんだよ!


 沙華さんの父親なんて別に本人もだれも気にしてないし、父親って男の人だから確率的にゴリラ。

 祖母ならともかく、わたし、祖父いらない! ノーモアゴリラ!! 真珠ちゃんはゴリラより、ミルクちゃんと遊びたいの!


 ちなみにミルクちゃんはわたしが部屋を出た後も、その場を無間地獄に突き落とすエンドレス爆音轟音発生装置になっていたらしい……。


 竜胆叔父様が抱っこしてヒーリング魔法かけたり、沙華さんと真津子さんが交互にあやしても全然泣き止む気配がなくて、結局その場から退散したのは黒玄家三兄弟。

 なので、竜胆叔父様はついさっきまで沙華さんと真津子さんと三人がかりでミルクちゃんをなだめてあやして、ようやっと泣き疲れて寝たから沙華さんと真津子さんにヒーリング魔法かけて、その後、黒玄家三兄弟と状況確認してここに来たんだって。


 だけど、けっこうやつれたようすの竜胆叔父様に、月白お兄様、容赦なく仕事を押し付ける。

 

「とりあえず、沙華さんはショックで寝込んでることにすればいいですね。沙華さんの母親が死んだのはフランシス氏の子供を妊娠したからで、自分の母親を殺して、自分の存在を知りもせずに放置した薄情な父親が百歳近い老人だったショックで倒れたって……ああ、沙華さんのこれまでの苦労も包み隠さず事実を正確に報告してあげればいいですよ。あと、竜胆お兄様、病人を元気にできるんだから、逆もできますよね? ホワイト家にどうしても会わなきゃいけなくなったら、沙華さんの身体に負担のないように顔色を悪くしてあげてください。タイミングを見計らってその部屋でミルクを泣かせれば、たとえ向こうが強引に押しかけてきても退散するしかなくなるでしょう」


 うーん、このおうち、ほんっと子供の健全な成長によくない環境だよね。

 月白お兄様、まだ七歳なのに、悪いこと考えすぎて性格悪くなりそう!

 これはもう夏休みのあいだ、お勉強から離れて真珠ちゃんとミルクちゃんとたっぷり遊んでリハビリしましょう。月白お兄様が憲法化したら危険!

 ……え? もう手遅れって? そんなわけないもん! こっ、これはぜんぜんダントラじゃないもん! たぶん……自信ないけど……。

※ここまでお付き合いくださった方々、本当にありがとうございます!

 結論からいうと、次の更新は3月半ばとなります。


 実は後編『ヒロインとあそぶ!』編、そもそものあらすじが、ずばり一行「ヒロインとあそぶ」。


 なので、予定ではもうとっくに終わっているはずだったのですが、いや、これはもう少し説明が要るだろうという部分を書いているうちに長くなり……それでも2月中に終わると信じていたのですが、いやいや、これは絶対に無理!と判明。←もっぱら憲法のせい。


 しかも登場人物がいっぱい! なのにプラスホワイト家! 注意していても名前を間違える! 読み直し5回くらい必須!


 ということで、希望としては3月半ばまでに完結させてから投稿したいのですが、もし終わっていなくてもその時点できりのいいところまで、一気にまとめて投稿します。


 なので、そのうちお時間あるときにチェックしていただけると幸いです!

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