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第46話 ホワット?


 竜胆叔父様が落とした暴露爆弾によって、シーンと静まり返った室内。

 でもさすが年の功、いち早く気持ちを立て直したらしい白絹お祖母様が静かな声で尋ねた。


「竜胆さん、この問題は後で話すことにして、先にあなたが一番深刻だと思う問題を聞かせてもらうことはできるかしら?」


 そうそう、みっつめ!

 二つ目の問題の破壊度がすごいのに、これ以上、衝撃の事実とか出てきたら真珠ちゃんこのおうち出てくから! ばあやと駆け落ちする!!

 ……って、そうだね。竜胆叔父様、わたしと駆け落ちしたくなるよね。ビバ南の島への逃避行!


 でも、メンバーはばあやとすすきさんとクアアと、やっぱり月白お兄様に白絹お祖母様も一緒に行かないと。ゴリラはバイバイだけど、闇王パパ置いてったら可哀相だし、あれ? 結局、家族旅行……?

 だけど、わたしを抱っこしてる闇王パパの手、ものすごーく冷たく硬直してるね。うーん、息が止まってないか心配だから、真珠ちゃんの可愛いお手てでもぎゅもぎゅしちゃうよ!


「そうですね。深刻って言葉の意味が違うっていうか、僕個人として一番の重大案件は今の問題です。ですが、公表すれば全世界に衝撃を与えることになるだろう問題は真珠ちゃん、いえ、沙華さんの父親についてでしょう」


 竜胆叔父様の暴露、三つめはなんと沙華さんの父親問題!


「あたしの父親? は? なにそれ?」


 まったく寝耳に水って顔の沙華さん。

 竜胆叔父様はジャジャジャジャーンな事実を明かす。


「沙華さん、きみはアメリカのダンジョン王、ホワイト家の血族だ。おそらくきみと真珠ちゃんがホワイト家の最後の直系になるだろう」

「……ホ、ホワ…イト?」


 沙華さんも、もちろんわたしも、ホワット?

 二人ともお口、ポカーン。ホワットホワイト、なにそれ?


 アメリカのダンジョン王っていうからには、たぶんこの世界でダンジョンができた後で有名になった人なんだろうけど、そんなのこの真珠ちゃんが知るわけない。沙華さんもハテナって感じだから、日本じゃあんまり知られてない存在なんじゃ……?


 って思ったけど、沙華さんとわたしにミルクちゃんを加えた、この三人以外の人たちはその名を聞いてびっくり仰天。

 ばあやも真津子さんもお目めまんまる、びっくりまなこ


「げっ! ホワイト家ってことは、そいつ、ハワードの娘ってことか!?」

「……そういえば、フランシス・ホワイト氏は若い頃、燃えるような赤毛と鮮やかなロイヤルパープルの瞳だったと聞いたことがあるわね。わたくしがお目にかかった頃はもう五十を過ぎていて、髪も瞳もだいぶ薄い色になっていたけれど……」


 宵司と白絹お祖母様に続いて、憲法でさえ驚きの声をあげた。


「アメリカの影の王家と言われるあのホワイト家か。個人資産では我が家に勝る、ダンジョン大富豪一族の落とし胤とは、ある種の貴種流離譚だね。公表すれば現代の御伽噺になるだろう」


 え? 黒玄家とか黒玄グループって、天文学的なお金配りできる無限大な大金持ちだよね。なのにここんちよりお金持ち?

 うんもう想像絶するっていうか、計算不可能っていうか、さすが小説ワールド。設定もりもりおなか一杯、胸焼けしてきた!

 おまけに「きしゅりゅーりたん」ってなんだっけ? 憲法、難しい言葉使い過ぎ!


 あーあ、沙華さん、驚きを通り越して隣のミルクちゃんとグータッチで「えい」とか「とぅ」って遊びはじめちゃったよ。わたしも参加したい! 一緒に遊びたい! 赤ちゃんなわたしとミルクちゃんには退屈すぎ。

 沙華さんにしたってまだ十八歳、むしろ子供に近い年齢だもんね。ムツカシイ大人のお話、関係ないよね。アメリカ人じゃ日本語通じないだろうし、わたしも英語のお勉強したくないし、外国語の名前って覚えにくいし……。


 だけど、努力を惜しまない天才な月白お兄様はダンジョン不妊問題についてしっかり予習復習しておられました。


「あの、ホワイト家って、それこそ高ランク冒険者の不妊問題の代表例ですよね? ホワイト家に子供が生まれなくなって、呪われた一族と呼ばれるようになって、だからアメリカ政府が主体となって原因究明の研究機関を立ち上げて、その結果、十六歳未満の子供のダンジョン立ち入りを国際的に禁止することになったって……なのに沙華さんがホワイト家の直系って、どういう……?」


 いやーすらすらとすごいよ、月白お兄様! 高ランク冒険者の不妊問題について真面目にお勉強したんだね。あれから真珠ちゃん、食べて寝て遊んでばかりだったよ!

 でも、わたしの生物学的な父ゴリラは食う寝る遊ぶの一歳児以下だった。


「あー、そういやハワードは身体が弱くて、日本に留学に来るまでろくに自分ちのダンジョンに入ってなかったみたいだからな。あの頃ならまだホワイト家の呪いにかかる前だったんだろ。けど、つーことは沙華は俺の娘でもおかしくなかったな。半部俺の遺伝子混ざってるんじゃないか?」


 恥知らずな野生のゴリラに、一瞬、この場のミルクちゃん以外の全員がフリーズ。

 なんかホワイト家とか、ハワードとかちっともわかんないけど、たぶんこのゴリラと同類なんだろうね。女性の共有……って、ダメだ。赤ちゃんの小さい脳味噌のキャパシティ超えてる! このゲスクズゴリラ最低最悪!!

 白絹お祖母様の脳内でもなにかがぷつっと切れたらしい。


「仕事よ宵司。憲法が突き止めた沙華さんの母親の関係者と、おまえたちの十九年前の行動履歴を照らし合わせて確認を取りなさい。事と次第によっては朝起きたら、おまえの身体が女に変わっているかもしれないけど、その前にわたくしがショック死したら葬儀には欠席してちょうだい。おまえに悼まれるのだけは遠慮するわ」


 いつもの黒いオーラも漂ってないのに声が完全に凍ってる。こんなのラブリー真珠ちゃんでも解凍できない!

 だけど、カテゴリー人外ゴリラモンスターには、もはや母のいかなる嫌味も通用しなかった。


「あー、はいはい。で、ハワードへの確認はどうするんだ? あいつ、あの頃何度も怪我して入院したから、カルテっつーか、血液検査の結果くらいは残ってるはずだぞ。けど、ホワイト家が知ったらえらい騒ぎになるな」


 ここで竜胆叔父様はやはり勇者だった。


「大丈夫。さっき連絡したから、もうハワード氏はこちらに向かってます」


 さすがに白絹お祖母様が立ち上がって叫ぶ。


「竜胆さん! あなた、沙華さんと真珠をどうしたいのよ!?」

「僕は一番に二人の身の安全を考えていますよ。黒玄家に対抗する手段として、ホワイト家なら有効だ。特に、憲法さんとハワード氏を較べれば、僕にはハワード氏の方がまだ遥かに正気だと確信できます」


 あー……って感じだよね。

 うん、ここでお話が憲法に戻るわけだね。ミルクちゃんの父親がだれかっていう二つ目の問題に……。

 白絹お祖母様は一度ぎゅっと目を閉じて、それから椅子に戻って背筋をただした。


「憲法……おまえ、いったい、何がしたかったの? ミルクちゃんの父親がおまえじゃなくて闇王で、しかも闇王はまったく身に覚えがないのだとしたら、そんなのおまえがセッティングしたとしか考えられないわ」


 さっきから何も言わない闇王パパ。その長い指をわたしが両手で抱えてぎゅぎゅっとマッサージしてあげてるんだけど、すっごく冷たいまま。

 胸元にほっぺたすりすりしたら、いつもはすぐ背中トントンしてくれたり、可愛い可愛いって頭なでなでしてくれるのに、まったく動かない。体温下がりっぱなで、心なしか魔力も冷たく感じられる。

 闇王パパ呼吸してる? どうしよう? お顔見えないけど、すごく具合悪そうなのに、隣の席の憲法は身勝手な自分語りをはじめる。


「僕は露茄が夫を何人持ってもよかったし、その夫に闇王兄さんだけじゃなく宵司兄さんが加わろうが、僕自身が彼女の愛人の一人になり下がろうが、形は何でもよかったんだよ。彼女の傍にいられるならね」


 気分的には憲法の話なんて、「以下略」にして闇王パパを手当してあげてほしかったんだけど、竜胆叔父様、ミルクちゃんを沙華さんに渡して本格的にお話聞くモード。


「でも、姉さんはあなたをただ一人の夫と決めて結婚したよね。なのに、その姉さんが強引に闇王様の子供を望んだとでも言いたいわけ?」


 月白お兄様も真面目な顔で大人の話を聞こうとしてるから、わたしも空気を読んで忍耐。ミルクちゃんと目が合ったらにこっとしあってるけどね! うん、赤ちゃん同士は仲良くなれそうなのに大人の世界は闇が深い。


 というか、この世界の日本では一夫多妻も一妻多夫も関係者全員の合意や事前契約があればOKらしい。

 なので、子供の生まれない黒玄家に月白お兄様という跡取りをもたらした露茄さんは、憲法と結婚したあとでも闇王パパとも結婚すべきだって、外野の声がうるさかったみたい。

 だけど、闇王パパも露茄さんも当人同士はありえないって笑い飛ばしてたようなのに、露茄さんファーストの憲法は最初の段階から狂っていた。


「まず前提として、月白を妊娠した時にひどい悪阻で入退院を繰り返す露茄を見て、僕が自分に生殖能力を残すと考える方がおかしいんじゃないかな? そもそも月白も中絶すべきだと思っていたし」


 だ、ダメだ、この人。普通の人間とは考えることが違いすぎて日本語が通じない……。

 竜胆叔父様も頭を抱えた。


「あー、それってさ、二人目がどうしても欲しい姉さんが無理言ったってこと? それとも憲法さんが闇王様を自分の身代わりにして二人に一服盛って……って、いや、闇王様の薬物耐性考えたら、完全に意識がない状態じゃないと無理だね。じゃあ、姉さんは合意の上だったってことか……」


 えーと、それって、逆レイ……ダメダメ、NGワード! でも、闇王パパが記憶にない子作りって、女性側が積極的に働き掛けないと成立しないよね……。

 憲法はあいまいに微笑んだ。


「さあ、どうだろう。僕にとって露茄は永遠の謎だった。どんな魔法陣より難しくて読み解けなくて、最後まで露茄が何を考えているのか推し量ることができなかった。だが、今のきみたちの反応を見ると、想像以上に露茄は僕を愛してくれていたらしい」

「は?」

「今、きみたちが露茄に対して感じる嫌悪感。それがすべての理由であり、答えだ。露茄は最後に僕だけの女性になってくれた。きみたちはもう露茄を神聖視することも、愛情深く思い出すこともできない。ミルクちゃんを見るたびに、露茄のことを苦々しく思い出すのだろう。僕だけが理解して僕にだけ愛されていればいい。ミルクちゃんの存在は、露茄から僕への最大の愛情表現だね」


 ホワット愛!? ホワット憲法!? ホワット露茄さん!?

 もうなにがどうなってるの、このストーカーもダントラもイヤーっ!


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