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第45話 問題はみっつ。


「竜胆お兄様、真珠ってやっぱりすごく問題があるんですよね? 僕、どうすれば……」


 竜胆お兄様のいきなりの駆け落ち宣言に、最初に反応したのは月白お兄様だった。

 甥っ子の不安そうな声に、竜胆叔父様も自分を取り戻したらしい。


「ああ、月白ごめんね。大丈夫。うん、そうだね、駆け落ちは月白と真珠ちゃんがすればいいよ。僕は付き添いの専属魔医療師としてついていくから、三人で南の島に逃げようね」


 いや、まだちっともまともな判断してない!

 七歳と一歳で駆け落ちなんてないし、逃げる前にすることがあるよね? あれ? 逃げる前提っていうのも変な話なんだけど……。


「どうやら込み入った話になりそうね。場所を変えて家族だけで話しましょう。沙華さんや真津子さんにはあとで説明した方がいいのかしら?」


 白絹お祖母様の問いかけに、竜胆叔父様はふうっと諦めたように大きく息を吐いてた。


「最初から同席してもらった方がいいでしょう。場合によってはミルクちゃんは我が家で育てることになりますから、お二方に僕を知ってもらった方がいい。あと、宵司様も呼んでください。ミルクちゃんは僕が抱っこしていれば泣かないだろうし、宵司様は真珠ちゃんに抑えてもらえばいいですから」



     ◇◇◇◇◇



 というわけで、またしても家族会議。

 今度の場所は離れの応接間。ここって本館より建築資材とか家具のランクが落ちるから、いざという時の被害が少ないらしいよ。ただのお話合いなのに、なんだかなーって感じ?


 中央にいくつか高さの違う丸テーブルが置いてあって、それを囲むようにぐるりと円形に配置された座席。

 ミルクちゃんを抱っこした竜胆叔父様の横に時計回りに沙華さん、真津子さん、続いて白絹お祖母様、月白お兄様、ばあやと来て、わたしを抱っこした宵司、闇王パパ、憲法。

 憲法と竜胆叔父様は一応隣り合ってるけど、あいだに十個目の椅子が置かれている。すすきさん用。でも、すすきさんは座らずにわたしの斜め後ろに立ってるよ。足元にはクアア! 


 クアアはわたしとセットだけど、宵司と憲法に近づいたら危険だからすすきさんに保護してもらってる。ちなみにブタのうーたはお部屋でお留守番。さすがに朝ごはんのときに持ってきたら汚しちゃうからね。

 だけど、持ってきてもらえばよかったかなぁ。ゴリラの膝抱っこ、筋肉が硬くてつまんない! おなかに回された腕もどっしりコンクリートだし、ぶっとい指をつつくと痛い。皮膚がごわごわ突き刺さる!

 ちなみにミルクちゃんは竜胆叔父様の腕に抱かれてめっちゃご機嫌。黒い瞳をキラキラさせてあーうー楽しげ。

 あーあ、わたしもばあやか、せめて隣の闇王パパのお膝がいいなぁ……。

 

 「問題は大きく分けて三つ」


 竜胆叔父様はミルクちゃんをたくみにあやしながら、さっさと本題に入った。


「あんまり深刻じゃない問題から話すことにすると、真珠ちゃんは今回、スキル覚醒したわけじゃない。たとえるならお酒をいくら飲んでも酔わない体質みたいなもので、有効範囲が自分だけじゃなく触れた相手にも拡大……いや、作用できるっていうのかな。まあ、純粋に月白に痛いの痛いの飛んでいけってしてくれただけだから、気にしなくていいよ」


 竜胆叔父様、わたしについての説明終了。

 あれ? でも、月白お兄様が血相変えて竜胆叔父様をアメリカから召喚したのって、このためだよね? なのに説明これだけ? いや実際、自分でも特に異変は感じなかったけど……。


「竜胆お兄様、あの、体質って、それだけですか? だって、真珠、すごい能力ですよね? それに、前に宵司伯父様が真珠に魔力を与えた時は、真珠、すごく具合悪くなってて……」


 まだ不安げな月白お兄様に竜胆叔父様はほほえむ。


「あの時は量が多すぎてむせただけだよ。身体に害のない水だって、一度に大量に飲んだら死ぬこともある。なのに、普通の人間なら即死レベルな高濃度の魔力を押し込まれたのに、真珠ちゃんは当たり前のように余剰分を吐き出せた。そういう意味では内臓がものすごく丈夫だし、身体の魔力耐性はこの上もなく最強だ。憲法兄さんから聞いた話によれば、たぶんこれは母親の沙華さんの体質を受けついだんだろう」


 竜胆叔父様の隣に座っている沙華さんが、はたと気づいたように言った。


「そういえば、あたし、身体が丈夫なのが一番のとりえって言われてたかも。熱で寝込むなんて、それこそ、妊娠したときに一度だけで……」

「できれば直接確認しておきたいんだけど、沙華さん、あなたの手に触れてもいいかな? 嫌だったら断ってね」

「え? あ、はい、どうぞ」


 沙華さんはためらいなく竜胆叔父様に両手を差し出した。まあ、ミルクちゃんが喜んで抱っこされてるからね。警戒する必要ないよね。

 竜胆叔父様は片手で沙華さんの手首に脈を測るように交互に触れる。


「…………問題ないね。真珠ちゃん並み、いや、年齢と身体の大きさの分、真珠ちゃんよりもっと耐性があるかも。でも、沙華さん、あなたは一度ダンジョンに入って、経験値を稼いで、きちんと魔法が使えるようになった方がいい。攻撃より結界。防御に関する技術を磨いて、宵司様が助けに来るのを待ちなさい」

「は? その人が助けって、なんで……?」

「単純にこの世で一番強いから。寄生してランク上げするのも宵司様に頼むのが一番早い。今の宵司様ならあなたを一日でD級冒険者にまで引き上げられるかもしれない」


 その言葉に、月白お兄様が飛びついた。


「え? それって、僕が十六歳になったらすぐS級冒険者に引き上げてもらえるってことですか? 宵司伯父様、あと十年は絶対に生きててくださいね!」


 前世からダンジョンにもゲームのランク上げにも興味のないわたしにはちんぷんかんぷんだったけど、なんかね、高ランク冒険者に『寄生』っていうのをすると初心者でもすぐにランク上げできるらしい。

 うん、オレTUEEどうでもいい! それよりこのゴリラ、太腿の座り心地悪すぎ! おしり痛いからクッション欲しい!

 不満たっぷり、両手を握りしめて目の前の筋肉をえいっと攻撃。なのに、ゴリラ、ひとっつもダメージ食らわずに、というか、わたしがドンドンこぶしで叩いてるのにも気づかず喋ってる。


「あー、や、S級は無理だろ。俺たち三兄弟は一応、予備がいたから単独ソロで高難度ダンジョン制覇して、ダンジョンコア破壊ってのができたが、月白はこの家の跡取りだか、このチビの旦那だかになるんだろ? ま、基本冒険者っつーのはA級が最高ランクだ。S級は命知らずのダンジョン狂いだから、おまえは目指すな」


 あれ? 高難度ダンジョン制覇してダンジョンコア破壊って、宵司がこないだ海底のそういうのをどうたらこうたらしたらしいけど、あれって他の人も一緒に行ったんだよね? たぶん『チーム戦』。

 なのに、S級冒険者って『単独ソロ』でそういうことするの? やばいよ! 命捨ててる!


「え? でも、闇王伯父様もお父様もS級ですよね?」


 月白お兄様の疑問に、憲法も闇王パパも苦笑した。


「僕は露茄にプロポーズするために一人で手に入れたい素材があったからね。闇王兄さんは長男としてのプライドかな?」

「人生で一度くらい己の限界に挑戦してみるのも悪くないと思っただけだ。私は運に恵まれて偶然成し遂げられたが、月白にはそういう運をすべて真珠と幸せになるために使ってほしい」


 当然のように白絹お祖母様も息子たちの危険行為を全否定した。


「むしろ月白には黒玄家の男なら最強を目指すべきなんて、くだらない外野の声を跳ねのける勇気を持ってほしいわ。確率的には月白と真珠のあいだに男の子が生まれる可能性が高いと思うの。ええ、真珠に似た女の子が見たいけど、男の子でも真珠に似れば可愛いからいいわ。だから、その子が将来冒険者を目指さなくていいように月白が他の道を切り開いてあげて。……でも、もし、宵司に似たダンジョン狂いだったら止めても無駄だから、その時はもうどうでもいいけど……」


 ひ孫が宵司二号だったらショック死するかもしれないから、もうどうだって……なんて、物騒な言葉を続ける白絹お祖母様に、月白お兄様はじいっとわたしのほうを見た。

 目が合ったわたしは真珠ちゃんスペシャル!


「にーた、あちょぶ!」


 うん、もう本題っていうか、わたしのお話終わったみたいだから、子供はこの場にいなくていいんじゃないかな。

 月白お兄様、ぜひゴリラの腕から真珠姫を救い出してください! このコンクリート製の腕って、こぶしで叩くと痛いんだよ。岩。邪魔。ゴリラの相手つまんない!


「真珠、もう飽きちゃった? そうだよね。いつもならお歌とか絵本とか、もっと楽しいことしてる時間だもんね。竜胆お兄様、僕たちはもう席を外していいですか? 真珠の体調に問題ないんですよね? というか、普段のんびりぬいぐるみと遊んでる真珠が、宵司伯父様と一緒にいると乱暴になるみたいだし、肩たたきの練習にしても真珠の手が傷つきそうですから」


 えへへ、月白お兄様には宵司の腕ドンドン叩いてるのバレちゃってるね。宵司は言われて初めて気づいたみたいだけどぉ!


「あぁ? 何やってんだ、チビ? どうせ叩くなら肩……いや、このちっせー手で叩かれてもな。あーあ、赤くなって、骨折れてねぇか? こりゃ手袋っつーか、なんか防具が必要だな」


 ゴリラの肌がゴワゴワすぎなの!

 でも、ドンドンやってた真珠ちゃんのお手てがちょっと赤くなってるのを見て、闇王パパが心配そうに横から抱き寄せてくれた。


「真珠、パパの指を握れるか? ああ、大丈夫だな。骨折はしていないようだが、あんな硬いものを叩いたら駄目だ。おまえが怪我をする。それで竜胆、残りの二つの問題は何だ? 月白と真珠に関係ないなら、子供はもう下がらせていいだろう」


 パパの指と握手! おっきな指を両手でぎゅっとして、肌触りのいいシャツにすりすりして、パパの魔力にふんわり包まれて、すっかりご機嫌な真珠ちゃん。

 なのに、竜胆叔父様が破壊力満点の爆弾を落とした。


「あ、そのままで聞いて。特に闇王様には真珠ちゃんが必要だと思う。僕、これでもスキル磨いて、四月の時点じゃできなかったことができるようになったんだ。どこかで自分の姪っ子に巡り会ったらすぐ確信できるようにって、魔力の型だけじゃなくて、人体の遺伝情報を識別できるようになったんだけど、それによるとミルクちゃんは姉さんと闇王様の子供ってことになる。これって、どういうことなのか教えてほしいな、憲法兄さん?」


 えっとぉ、これって、問題の二つ目ってことだよね?

 でも、竜胆叔父様、問題三つって言ったよね?

 これ以上深刻な問題がまだもう一つ残ってるの? いやいや、もうこれ最終段階、めっちゃカオスなダントラ事案! 一体全体どうなってるの!?


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